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3.第5騎士団
しおりを挟む警備員に案内されたのは、訓練場の中にある事務所らしき場所。
許可を得てドアを開けると、風圧で室内の埃が舞い上がった。同時に、古い木と汗の混じったような独特な匂いが鼻をつく。
「今日からここでお世話になる『カナデ』と申します。よろしくお願いします。」
男ばかりの室内。書類を書いたり、椅子に仰け反るように座って喋っていたり、各々好きなように過ごしている。
男同士の気楽な空気感。その中に突然入った私は異質な存在だった。
「治癒師の姉ちゃんか?よろしくなっ!!」
「おー、わっけぇなー!おまけにちぃせーなぁ。大丈夫か?何かあったら言えよ?」
「まぁ、頼むわ。ここは怪我人多いからな。」
騎士たちは立ち上がりぞろぞろと私を取り囲んだ。
今まで見た騎士たちとは出で立ちも話し方も違う。見上げるほど大きくて、圧倒されちゃう。
「わ、私まだ治癒魔法を勉強したばかりで、ご迷惑お掛けするかもしれません。あと、聖女様のようには魔力は多くありませんが、精一杯頑張ります。」
「治癒魔法使えるだけでありがてぇんだ。魔力なんて気にするな。」
「ここは怪我人多いけど頼むな。」
みんな言葉遣いは荒いけれど、悪い人たちでは無いみたい。
「はい。よろしくお願いいたします。」
挨拶を終えて少し安心していると、奥から一際大きくて髭を生やした強面の男性が出てきた。
「俺が、ここの団長をしているドゥクスだ。よろしくな。ここは神殿みたいな事はないから気楽にしたらいい。」
「だ、団長さんですか?よろしくお願いしますっ。『カナデ』と言います。」
勢いよく頭を下げたら、ガシガシ頭を撫でられた。
「ああ、よろしく頼む。今日は副団長のシーヴァーはあいにく非番なんだ。明日にでも紹介する。」
ドゥクス様と挨拶を交わした後、他の騎士たちも自分たちの自己紹介をしてくれた。
「俺はフレディ。よろしくな。まぁ、そんなに緊張するな。何でも聞いてくれ」
「俺はゼノだ。よろしく。」
フムフム。赤髪がフレディさん。青髪がゼノさんね。フレディさんは短髪のツンツン頭。ゼノさんはサラサラマッシュヘアー。
「君の世話はフレディに頼んだ。何でも聞くといい。」
「フレディさん。よろしくお願いします。」
「カナデちゃんか、かっわいいねー、俺、口説いちゃおうかな?」
ちょっと軽薄そうだけど、フレディさんはとっても話しやすそうな雰囲気。
「あはは、お手柔らかにお願いします。」
きっと私の緊張を解すための冗談だろう。フレディさんは、あえて断り易いような雰囲気を作ってくれていた。
ここでなら楽しく働けるかも……。神殿は堅苦しくてイヤミな人が多かったから、私はこっちの職場の方が合うみたい。
それにーー
私は部屋を見渡した。
この散らかった部屋を見ると血が騒ぐ。
山積みの書類に脱ぎ捨てられた上着。筆記用具が散乱していて、荷物を置く場所もない。さっきフレディさんが座っていたリクライニングチェアーは、ギーギーと耳障りな音を立てて揺れていた。
直さないんだろうか?
ここは第5騎士団の事務所みたいだけど……。
事務所って言うか、休憩スペースってカンジ?
「ここは、女性っていないんですか?」
「下働きの女性が毎日来て洗濯をしてくれている。食事は食堂がある。だが、正直掃除までは手が回らないんだ。散らかっていてすまないな。」
この汚さはスルー出来ない。
「怪我人がいなければ、その他の時間は自由に過ごしていいんですか?」
「ああ、構わない。まあ、ここは訓練が荒っぽいからな、怪我人もそこそこいるぞ?」
「はい。もし空いた時間があったら私にここを掃除させてください。性格的に我慢出来ないんで。」
「その申し出はとてもありがたいが……。君の業務外で申し訳ないな。」
「いえ、時間がある時だけですから。」
黙って話を聞いていた青髪のゼノさんが、話に入ってきた。
「団長っ!掃除してもらいましょうっ。ここ何年掃除してないんスか?俺、もうそろそろ限界です。」
ゼノさんもこの汚さは気になっていたらしい。
無理も無い。休憩用らしきソファーにも人が座るスペースがないもの。
ゼノさんの切実な訴えを聞いて、団長さんは軽く頷くと私の方に向き直った。
「ありがとう。本当に助かる。ずっと気になってはいたが、手が回らなかったんだ。追加の手当てを払うことにしよう。」
「良いんですか?」
「勿論だ。働きの分の給料はしっかり貰ってくれ。」
団長さんも良い人そう。どうせなら対価を貰える方が嬉しい。
元々掃除大好きな私は、片付けのアイディアが次々頭に浮かんでくる。
ここに服を掛ける場所を作って……ここをちょっとした私物を置けるスペースにして……。書類は締め切り別に分けるのと、種類別に分けるのと、どっちが効率的かしら?
これだけ汚い部屋だもの。きっと見違えるようになると思うの。
考え始めたらワクワクして、明日が楽しみになってきた。
私に用意されたのは騎士たちとは別の棟にある鍵付きの個室。
そこは治療室とも近くて、こざっぱりとしたシンプルな部屋だった。埃は積もっていたけどね。
予想よりずっと温かく歓迎された事に、私はほっとしていた。そして、緊張から解放されたせいか、ベッドに横になるとすぐに深い眠りに落ちていった。
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