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3.いやいや、私の気持ち無視?
しおりを挟む「へ?」
いやいやありがちな展開だけどさ……。
心の中では反発しながらも、言い返せない、目も合わせられない私は俯く事しか出来ない。
「そうだな。その方が国民も安堵するであろう。我が国を揺るがす災害は三回起こるとアイトネ様が予言なされた。国を守るためにもイーリス様には王太子妃として王室に入ってもらうことにしよう。ケンドリック、良い判断だ。」
「はい、父上。国民の事を思うと最善の選択かと……。」
「勿論分かっているとは思うが、聖女イーリスを妃として迎える以上、不貞などは許されんぞ。」
「はい。承知しております。」
ん?
私の返事を聞かないな……、この親子。
偉い人って下々の意見は無視か?
だけど私はコミュ障。
ここで『NOー!』なんて声は上げられない。
まさか結婚なんて大切な問題。本人抜きで話を進めないよね?
本人の同意を得ようとするはず……。
私はどうやって断ろうか考えながら発言の機会を待っていたがいつまでもその機会は訪れず……。
「これからよろしくイーリス。1ヶ月後には婚約発表だ。」
いやぁ~~っ!!
婚約者に内定?
もう、決定?決定なのー??
「え、……えーと……。」
動揺する私に、ケンドリック殿下は跪いて指にそっと口づけを落とす。
「私は一目見た時からイーリスの虜だ。どうか私の愛を疑わないでおくれ。」
「う、疑ってるわけじゃ……。」
「イーリス様、そろそろ行きましょう。」
「え、あっ……はい。」
ゆっくりと考える時間など与えられず、私は神官長に促され、西の搭まで連れて来られた。
あまりの慌ただしさについていけない。プロポーズの事も噴火の事も、私のキャパを遥かに越えていた。
☆
西の塔に着いた時にはもう既に日没間近。
王太子殿下との婚約に動揺しちゃったけど、今はこっちに集中。
この国の人たちの命が掛かってるもの。
薄暗い空の下、山影はさっきみた時よりも朧気で、日が沈んだらきっと見えない。
空は段々暗くなり、太陽に収束するように光が姿を消していく。その時ーー
ゴオオオオオーーーー
激しい地響き。大地が、空気が揺れるーー
「き、きた!」
ゴゴゴゴゴーーーー
低く脳を揺らすような爆音と共に空が赤く染まるーー
噴火だ!
……本当に起こった。
目の前で起こった出来事は、あまりにも衝撃的で……。悪夢の中にいるみたいで現実味が無い。だからだろうか。反って私の心はすーっと落ち着いていった。
ずっと脳内でシミュレーションしてきたもの。
女神様だって大丈夫って言ってた。
出来るはず!
今、ちゃんとやらなきゃ。
私はアイトネ様の言うとおり手を高く掲げて『アムレートゥム』と唱えた。
その瞬間ーー
眩しい光が私を包んだ。
「ううっ……。」
海で波に揺られているときみたいにぐらぐらと身体が揺さぶられる。
お臍の下辺りから熱い何かが出てきて、身体の中で激流となり、腕を伝い手のひらから放出された。
「きゃぁー!」
掌から虹色の光が綺麗な弧を描きながらメルム山に伸びていく。反動で倒れそうになるのをどうにか堪えた。
「す、すごい……。」
コレが魔力?
想像の遥かに越えた美しさ。
魔力の流出は激しく続き、身体が小刻みに震え立っているのがやっとだ。
「も、もう……」
(駄目かも……)
倒れそうになった私を支えてくれたのは、白いフードを被った神官長。
「もう少しで完成です。身体は私が支えますから、聖女様は魔力の放出に集中してください。」
「は、はい。」
アイトネ様は簡単そうに言ったけど、魔力の奔流は凄まじく、魔力が抜けていくのに伴って私の身体の力も入らなくなっていく。
最後のほうは意識が朦朧としていて覚えていない。
「も、……もう、だめ……。」
「大丈夫ですか?」
私が意識を手放す寸前、琥珀色の瞳が心配そうに私を覗き込んだ。
きれいなひとみ。
この色すきだわー
なんて呑気な事を思った。
「イーリス様、結界は完成しました。成功です。」
優しい声が聞こえる。私、ちゃんと役割を果たせたのかな……?
引きこもりの私が人々の役に立てた……。
よかった。
応援ありがとうございます!
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