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スティーブン殿下が来ました
ここユピテル領での生活にも慣れてきた。
エヴァンさまへのプレゼントの刺繍の図案を一緒に選んでいると、執事長のレベックさんが珍しく慌てた様子で部屋へ入って来た。
「閣下、スティーブン殿下が明日、我が領主邸に来るようです。」
「何?」
「先ほど早馬が先触れを届けに来ました。」
私の元婚約者。何しに来るんだろう?
レベックさんはそれだけ伝えると「警備担当者にも連絡します。」と言ってバタバタと部屋を出ていった。
「キオネを取り戻しに来るのか?」
「そんな筈はないと思いますが………。」
あんなに憎々しげに婚約破棄してたし……。
まだ何か言い足りないことでもあるんだろうか?
「もし、迎えに来たとしたら…キオネは……その……。」
いつも力強いエヴァンさまの瞳が不安げに揺れている。
私がスティーブン殿下に心を残していないか心配しているのかもしれない。
婚約者として、こんな表情をさせるなんて失格だ。
「エヴァンさま、聞いてください。スティーブン殿下とは幼い頃からの婚約者でした。だから少しでも仲良くなれるように心を通わせようと努力していたこともありました。」
エヴァンさまの剣だこのある大きな手をとり両手で包み込んだ。
ちゃんと気持ちが伝わるように、エヴァンさまの目を真っ直ぐに見つめる。
「このユピテル領に来て、優しくしてもらって、自分が無理をしていたことに初めて気付きました。エヴァンさまと一緒に過ごして、やっと自分らしく笑えるようになりました。だから………。」
きちんと言葉にして伝えよう。
もう誤解はされたくない。
エヴァンさまは黙って私の次の言葉を待ってくれていた。
「私をここにずっと置いてくださいませ。エヴァンさまをお慕いしております。」
エヴァンさまは身じろぎもせず、私を見つめる。
やがてボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤に染めると、「告白か?」と聞いてきた。
笑いながら「告白です。」と言ってエヴァンさまにピョンと飛び付いた。
「そうか……。」
エヴァンさまは、私の背中にそっと手を回し抱きしめてくれる。高い体温に包まれると安心してほーっと息を吐いた。
大好きーーー
幸せーーー
私の満ち足りた気持ちを表すように、尻尾がパタパタ揺れている。
エヴァンさまは私の耳元で小さく「俺もだ。愛してる。」と囁いてくれた。温かい息が耳に掛かって擽ったい。
私はエヴァンさまの腕の中でクスクス笑うと、彼の頬に唇を寄せてチュッと口づけした。
「私もです。離さないでくださいね。」
エヴァンさまは勿論だ、と答える代わりにギュッと抱きしめる力を強くする。けれど、直ぐに腕を緩めて、苦しくないか心配そうに私の顔を覗き込んだ。
それは本当に優しい仕草で……。
エヴァンさまはその後、本当に私を離さなくて大変だった。夕食すら膝の上。
寝る前にもう一度尻尾をもふもふ触らせてあげた。
翌日ーーー
殿下は装備を整えた直属の第3師団と一緒にやって来た。
王家の紋章のついた豪奢な馬車から降りると、迎えた兵士の大きさに緊張して固まっている。
大きさにビビってますね。
分かります。
殿下の護衛騎士より執事のレベックさんの方が強そう……。
殿下お膝が震えてますわ。
殿下のお顔ってあんなに青白かったかしら?
「スティーブン殿下。ようこそユピテル領へ。今日はどうされたのですか?」
エヴァンさまは騎士の礼をして殿下を迎えた。
「いや、少しキオネと話をさせてもらえないだろうか?」
エヴァンさまは私の方を向いて意思を確認してくる。
私は首を振った。
「殿下、学園でどのような態度だったかお忘れですか?わたくし、殿下が怖いです。」
「そのことを謝りに来たのだ。謝罪させてくれないだろうか?」
エヴァンさまを見上げると彼は仏頂面のまま頷いてくれた。
彼は私を抱き上げスティーブン殿下を客室へと案内してくれた。
殿下は抱っこされている私を見て目を丸くして驚いている。
ふふん。
エヴァンさまの抱っこ快適です。
耳も尻尾も飛び出てきました。
私はエヴァン様の膝に座らされて、殿下と面会することになった。
エヴァン様が元婚約者を警戒して私を離さないのだ。
「今日は。す、すまなかった。学園でキオネにした仕打ちはあまりにも酷かったと思う。一方的に婚約を破棄され辛かっただろう。俺も側近達も陛下もどうかしてたのだと思う。……その……出来れば王都に戻ってきて欲しい……。」
本当に私を迎えに来たらしい……。
でも、帰らないんだからっ。
「無理です殿下。あんな大勢の貴族の前で高らかに婚約破棄を宣言されたのですから……。」
「その件については今魅了の魔法の痕跡を調べている。戻ってきてくれるなら、問題はどうにか解決しよう……。キオネに瑕疵が無い事をはっきりとさせる。だからどうか……。」
魅了?
殿下はそんな魔法に掛かっていたのかしら?
でも私は今エヴァンさまが好きだし、そんな事関係ないよね……。
「殿下、私はエヴァン様が好きです。王都には帰りたくありません。」
私はエヴァン様にギュっとしがみついた。
「それと、もう名前では呼ばないでください。私はエヴァン様の婚約者です。」
心の中でベーっと舌を出した。
学園生活本当に辛かったんだからねっ!
虐めの首謀者にもされたし……。
「そ、そうか……。すまなかったな。」
殿下は騎士団を引き連れてしょんぼりトボトボと帰っていった。
「キオネ、殿下に舌をだすのはさすがに可哀想じゃないか?」
「え?エヴァンさま、本当に?舌、出てました?」
「ああ、ベーってしているように見えたな。毛も逆立って威嚇していたように見えたが……。」
しまった。
心の中のハズが……。
エヴァンさまに酷い女だと思われ無かったかしら?
エヴァンさまへのプレゼントの刺繍の図案を一緒に選んでいると、執事長のレベックさんが珍しく慌てた様子で部屋へ入って来た。
「閣下、スティーブン殿下が明日、我が領主邸に来るようです。」
「何?」
「先ほど早馬が先触れを届けに来ました。」
私の元婚約者。何しに来るんだろう?
レベックさんはそれだけ伝えると「警備担当者にも連絡します。」と言ってバタバタと部屋を出ていった。
「キオネを取り戻しに来るのか?」
「そんな筈はないと思いますが………。」
あんなに憎々しげに婚約破棄してたし……。
まだ何か言い足りないことでもあるんだろうか?
「もし、迎えに来たとしたら…キオネは……その……。」
いつも力強いエヴァンさまの瞳が不安げに揺れている。
私がスティーブン殿下に心を残していないか心配しているのかもしれない。
婚約者として、こんな表情をさせるなんて失格だ。
「エヴァンさま、聞いてください。スティーブン殿下とは幼い頃からの婚約者でした。だから少しでも仲良くなれるように心を通わせようと努力していたこともありました。」
エヴァンさまの剣だこのある大きな手をとり両手で包み込んだ。
ちゃんと気持ちが伝わるように、エヴァンさまの目を真っ直ぐに見つめる。
「このユピテル領に来て、優しくしてもらって、自分が無理をしていたことに初めて気付きました。エヴァンさまと一緒に過ごして、やっと自分らしく笑えるようになりました。だから………。」
きちんと言葉にして伝えよう。
もう誤解はされたくない。
エヴァンさまは黙って私の次の言葉を待ってくれていた。
「私をここにずっと置いてくださいませ。エヴァンさまをお慕いしております。」
エヴァンさまは身じろぎもせず、私を見つめる。
やがてボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤に染めると、「告白か?」と聞いてきた。
笑いながら「告白です。」と言ってエヴァンさまにピョンと飛び付いた。
「そうか……。」
エヴァンさまは、私の背中にそっと手を回し抱きしめてくれる。高い体温に包まれると安心してほーっと息を吐いた。
大好きーーー
幸せーーー
私の満ち足りた気持ちを表すように、尻尾がパタパタ揺れている。
エヴァンさまは私の耳元で小さく「俺もだ。愛してる。」と囁いてくれた。温かい息が耳に掛かって擽ったい。
私はエヴァンさまの腕の中でクスクス笑うと、彼の頬に唇を寄せてチュッと口づけした。
「私もです。離さないでくださいね。」
エヴァンさまは勿論だ、と答える代わりにギュッと抱きしめる力を強くする。けれど、直ぐに腕を緩めて、苦しくないか心配そうに私の顔を覗き込んだ。
それは本当に優しい仕草で……。
エヴァンさまはその後、本当に私を離さなくて大変だった。夕食すら膝の上。
寝る前にもう一度尻尾をもふもふ触らせてあげた。
翌日ーーー
殿下は装備を整えた直属の第3師団と一緒にやって来た。
王家の紋章のついた豪奢な馬車から降りると、迎えた兵士の大きさに緊張して固まっている。
大きさにビビってますね。
分かります。
殿下の護衛騎士より執事のレベックさんの方が強そう……。
殿下お膝が震えてますわ。
殿下のお顔ってあんなに青白かったかしら?
「スティーブン殿下。ようこそユピテル領へ。今日はどうされたのですか?」
エヴァンさまは騎士の礼をして殿下を迎えた。
「いや、少しキオネと話をさせてもらえないだろうか?」
エヴァンさまは私の方を向いて意思を確認してくる。
私は首を振った。
「殿下、学園でどのような態度だったかお忘れですか?わたくし、殿下が怖いです。」
「そのことを謝りに来たのだ。謝罪させてくれないだろうか?」
エヴァンさまを見上げると彼は仏頂面のまま頷いてくれた。
彼は私を抱き上げスティーブン殿下を客室へと案内してくれた。
殿下は抱っこされている私を見て目を丸くして驚いている。
ふふん。
エヴァンさまの抱っこ快適です。
耳も尻尾も飛び出てきました。
私はエヴァン様の膝に座らされて、殿下と面会することになった。
エヴァン様が元婚約者を警戒して私を離さないのだ。
「今日は。す、すまなかった。学園でキオネにした仕打ちはあまりにも酷かったと思う。一方的に婚約を破棄され辛かっただろう。俺も側近達も陛下もどうかしてたのだと思う。……その……出来れば王都に戻ってきて欲しい……。」
本当に私を迎えに来たらしい……。
でも、帰らないんだからっ。
「無理です殿下。あんな大勢の貴族の前で高らかに婚約破棄を宣言されたのですから……。」
「その件については今魅了の魔法の痕跡を調べている。戻ってきてくれるなら、問題はどうにか解決しよう……。キオネに瑕疵が無い事をはっきりとさせる。だからどうか……。」
魅了?
殿下はそんな魔法に掛かっていたのかしら?
でも私は今エヴァンさまが好きだし、そんな事関係ないよね……。
「殿下、私はエヴァン様が好きです。王都には帰りたくありません。」
私はエヴァン様にギュっとしがみついた。
「それと、もう名前では呼ばないでください。私はエヴァン様の婚約者です。」
心の中でベーっと舌を出した。
学園生活本当に辛かったんだからねっ!
虐めの首謀者にもされたし……。
「そ、そうか……。すまなかったな。」
殿下は騎士団を引き連れてしょんぼりトボトボと帰っていった。
「キオネ、殿下に舌をだすのはさすがに可哀想じゃないか?」
「え?エヴァンさま、本当に?舌、出てました?」
「ああ、ベーってしているように見えたな。毛も逆立って威嚇していたように見えたが……。」
しまった。
心の中のハズが……。
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