不眠症魔術師の添い寝婦として雇われました

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8.住み込み三日目の夜




旦那さまが暫くクレアさんと話をしていたが、やがてクレアさんは帰っていった。
え?
クレアさんの夕食作りは断ったのかしら?

『すっぽん』シチュー無駄にならなくて良かった。

『ヘロヘロになった旦那さまを元気にしたい。』って市場の女将さんに相談したら、女将さんは目を輝かせて『すっぽん』を勧めてくれた。
きっととても効果があるんだろうな……。

そんなことを考えていたら、夕食前に旦那さまから「話がある。」と言われた。
旦那さまの表情は硬くて…
あっ、これは添い寝婦クビかしら?ってピンときた。

クレアさんと婚約するなら、当然私の存在は隠したいだろうし……。
新しい勤め先…紹介して欲しいけど……。

話しにくい内容らしく、旦那さまはなかなか話を切り出さない。

……まさか今日出てけって言わないよね?

旦那さまは暫くの沈黙のあと、大きな溜め息を一つ吐き、思いきったように話を切り出した。

「今日町で男と随分親しそうに話をしていたな……。」  

「…… え?………え?……ど、どこで?」

長い間躊躇してやっと出てきたのは予想外の話。
今日?
町?男?
驚き過ぎて返事がしどろもどろになってしまった。

「花屋の前だ。」

「花屋?………ああ、ビルの事ですか?」 

旦那さまは私とビルが話をしていたのを見ていたのだろうか?
なんだか表情が真剣で……少し怖い。

「ああ…………付き合っているのか?」

「いえ、彼は幼馴染で、昔からよく家にも遊びに来ていたし……。」

「そうか………。」

旦那さまはどこか安心したようにほっと息を吐いたが、すぐにまた厳しい表情に戻った。

「だとしたら少し距離感が近すぎるんじゃ無いか?異性なのだから、あんなに顔を近づけて話すのはどうかと思うぞ。」

えーーっ!?
旦那さまこそ、婚約するような相手がいるのに私とベッドを共にしておいて……それを言う?

「旦那さまこそ婚約間近の女性が居るなんて初耳でした。婚約者が居ながら私と添い寝するなんて良くないですっ。」

「だ、誰がそんな事言ったんだっ??」

「彼女、自分で言ってましたよ?私はギャビン様と婚約するって……。」

「そ、それは誤解だっ!お世話になっているローゼン様の紹介でなかなか断れなかったが、昨日正式に断ってきた。」

「え?そうなんですか?」

「ああ、彼女は幼い頃から俺を慕ってはくれていたが、妻にする事は出来ない。俺には決めた人がいる。」

旦那さまは赤くなった顔を反らせた。
何故に赤い?

ふと会話に変な間が空く…………。

「で、君はどう思った?」

「へ?」

「今怒っていただろう?………少しはヤキモチでも妬いたか??」

「……。」

ヤキモチ?
このモヤモヤした感情が??

「君は、俺と一緒のベッドに入っているというのにスースー気持ち良さそうに寝ているし……こっちは日々悶々として眠れな………いや。……忘れてくれ。」

「え?忘れないです。私は旦那さまの安眠のために雇われているのに……旦那さまは眠れなかったんですか?」

「………ああ。」

なんてこと!
私……任務達成して無かったんだ!

「じゃあ、私はまたクビですか?」

「どうしてそういう話になるんだ?」

「だって……私は役に立たないのでしょう?」

「そういう問題じゃあない。俺は…その…君を…異性として意識している。」

「ええ。異性ですもの。当然じゃ無いですか?」

「ああ、なんて鈍いんだっ!俺は君が好きだと言っている。君を抱きたいから眠れないんだっ!!」

真っ赤な顔で勢いよくそう言われて思考が固まってしまった……。

「旦那さまが?……私を?」

「ああ。」

「え、今抱きたいって言った?」

「ああ、そう言った。」

彼は片手で口を覆い真っ赤な顔を隠すようにプイと横を向いた。羞恥に染まったその目元から、旦那さまが真剣に話しているのだと分かった。

「いつからですか?」

「二回目に一緒に眠った時からだ。」

「ええ??」

じゃあ、早く言ってくれれば良かったのに。
私だって無理に眠ろうとしてた。
まぁ、実際は疲れてぐっすりだったけど……。

「で、返事は?」

「え?」

「君は俺のことをどう思っている?好意は少しでもあるのだろうか?」

「あの……。わ、私、旦那さまの事、多分、好き?かもしれません……。でも、私……すきとかよく分からないので……お手柔らかにお願いします。」

顔に熱が溜まる。
生まれて初めてする異性への告白に、心臓はバクバクで……もう破裂しそう!

「ああ、嬉しいよクラリッサ。旦那さまでは無くて、名前で呼んでくれないか?」

旦那さまは見たことないような甘い表情でうっとりと私を見つめてくれた。
うっ。
は、恥ずかしい。

「ギャ、ギャ、ギャビン様?」

「ん。いい子だ。これから優しくすると誓う。だから、そ、その………今夜良いだろうか?」

え?
今日?
下着も可愛いの持って無いし、肌の手入れだってしたい。王宮勤めをしていたのでそれくらいの知識はある。

「え?む、無理です。無理です。一晩のお相手じゃ無くて、好きな人との初めての夜ですもん。可愛くしたいです。私だって……じ、準備がありますよぅ。」

旦那さまは膝から崩れ落ちた。
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