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18.ギャビン様との再会
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私は王宮の貴賓室で滞在することになった。
働いていた場所でお世話になるなんて……ちょっと複雑…。
そして、久しぶりに女官長と顔を合わせた。
向こうは随分緊張していたみたい。
私をクビにした張本人だもんね。
きっと機嫌を損ねてはならないと仰せつかったのだろう。ビクビクしている。
私だって何とも言えない複雑な気分。
別に恨み辛みを言うつもりは無いよ?
ギャビン様の居場所は全然掴めないらしい。
けれど、私が王宮に滞在していれば、いつかギャビン様が私を探し来たとき、陛下やローゼン侯爵が直接ギャビン様を慰留するそうだ。
私もギャビン様の説得に協力して欲しいって頼まれた。
もちろん協力するつもり。
私だって気付いたことがある。
流されただけだと思っていたけど、私はちゃんとギャビン様を好きだったって。
自分の気持ちがハッキリした事で、私は腹を括った。
このちょっと面倒な人と共に生きる……。
ギャビン様はどこにいるのだろう?
本当に私を迎えに来てくれるのかしら?
~~~~~
そして、二週間後。
「今日は天気も良いですし、少し庭園を散歩しませんか?部屋に閉じ籠っていては気分が滅入ってしまいますわ。」
鬱々とした待つだけの日々ーーー。
そんな私を心配した同じくらいの年齢の侍女に促され、庭園へとやって来た。
「本当に良い天気ねー!」
透き通るような空に濃い緑が眩しい。
ささくれだった心が宥められるよう。
時間を忘れるほどぼんやりと空を見上げた後、庭園へと視線を戻すと、男性がいることに気がついた。
明るい陽が降り注ぐそんな場所にギャビン様は立っていた。
その場にそぐわないほどの闇を纏って……真っ黒な出で立ちで……。
「ギャビン様!!」
「クラリッサっ!」
ギャビン様が手を伸ばすより早くその胸に飛び込んだ。
嗅ぎ慣れた匂いと逞しい胸の感触。
その時、確かに確信が持てた。
わたし、何も迷わなくてもこんなにもこの人が好きだった……。
恋に堕ちるのが早すぎて、こんなにも深くまで落ちていたなんて気付かなかった。
見上げれば濃い灰色の瞳。
目の下の深い隈が疲労を色濃く映す。
不安げに揺らめく色に確かな愛情を感じる。
この胸の中にいる間、息苦しい噎せるような濃い愛情に包まれて……私は幸せだった。
「ギャビン様、ごめんなさい。……ごめんなさい。………約束を破ってごめんなさい。もう決して離れません。もう一度、お傍に居させてください。」
ギャビン様が強く私を抱き締める。
こんな凄い人なのに……私を失うことに怯えて震えていた。
「クラリッサ。もうどこにも行かないでくれ。」
「…………はい。」
ギャビン様は存在を確かめるように、私を胸に抱きしめたまま離さなかった。
回した腕に感じる彼の体躯は、細くなったように感じて……。
顔を見れば頬もこけてしまって、彼が一回り小さくなって見えた。
「ギャビン様、……お痩せになりました?」
「クラリッサが居なくなって……目の前が真っ暗になった。家の中を探しても荷物が一つも無くなっていて……。俺はずっと……長い幸せな白昼夢を見ていたのかと……。」
………ギャビン様、泣いてる?
私の肩に顔を埋め、震えながら話す声は涙に潤んで……。
こんなにも窶れて、この人は1ヶ月半の間、きちんと食事を摂っていたのだろうか?
……眠れていたのだろうか?
王宮の庭園は広い回廊に面していて、様々な人が行き交う。
皆がギャビン様の変容ぶりと、私に縋るその姿を見て言葉を失くした。
ローゼン侯爵が来るまでの間、私たちは一目も憚らず長い抱擁を交わした。
~~~~~
私たちはその後、ローゼン侯爵と共に陛下に謁見することになり、ギャビン様は王宮に留まるよう慰留された。
けれどギャビン様は陛下に対しても、態度は同じで叙爵も出世も強く固辞した。
結局、私の説得もあってギャビン様は今まで通り王宮で魔術師室長として働くことになった。
詳しいことは分からないが、彼の張る結界が王宮の守りには必要らしい。
ギャビン様が家を売却してしまったので、私たちは郊外の小さな一軒家を購入した。
静かで穏やかな平民としての暮らしを私たちは望んだ。
私の実家は弟が跡継ぎとしているし、ギャビン様は元々平民だ。
貴族の柵なんかで縛られたくなかった。
ギャビン様は私が居なくなったのは、自分の執着が激しくて嫌になって逃げたのだと思ったらしい。
私を探す時間が足りなくて、ギャビン様は王宮を辞めた。
そして、私が国を出てしまっていても追いかけられるように家を売ったそうた。
ギャビン様の思い切りのよさに驚く。
そして、自分がいつの間にかこんなにも執着されていた事にも…………。
彼は初め私の実家周辺を探して、次に私が王宮で親しく会話していた友人の家を訪ね歩いたそうだ。
「ちゃんとご飯食べていたんですか?」
と、聞いたら
「覚えて無いな。」と、言って
困ったように笑っていた。
そしてある日、ローゼン侯爵が派手に護衛を引き連れて、ブジーア伯爵領まで女性を迎えに行ったという噂を耳にして王宮を探しにきたらしい。
「私、覚悟を決めました。自分の気持ちにも気付きました。ギャビン様が好きです。もう逃げません。」
そう高らかに宣言する私を、ギャビン様は眩しそうにほんの少し目を細めて見ていた。
働いていた場所でお世話になるなんて……ちょっと複雑…。
そして、久しぶりに女官長と顔を合わせた。
向こうは随分緊張していたみたい。
私をクビにした張本人だもんね。
きっと機嫌を損ねてはならないと仰せつかったのだろう。ビクビクしている。
私だって何とも言えない複雑な気分。
別に恨み辛みを言うつもりは無いよ?
ギャビン様の居場所は全然掴めないらしい。
けれど、私が王宮に滞在していれば、いつかギャビン様が私を探し来たとき、陛下やローゼン侯爵が直接ギャビン様を慰留するそうだ。
私もギャビン様の説得に協力して欲しいって頼まれた。
もちろん協力するつもり。
私だって気付いたことがある。
流されただけだと思っていたけど、私はちゃんとギャビン様を好きだったって。
自分の気持ちがハッキリした事で、私は腹を括った。
このちょっと面倒な人と共に生きる……。
ギャビン様はどこにいるのだろう?
本当に私を迎えに来てくれるのかしら?
~~~~~
そして、二週間後。
「今日は天気も良いですし、少し庭園を散歩しませんか?部屋に閉じ籠っていては気分が滅入ってしまいますわ。」
鬱々とした待つだけの日々ーーー。
そんな私を心配した同じくらいの年齢の侍女に促され、庭園へとやって来た。
「本当に良い天気ねー!」
透き通るような空に濃い緑が眩しい。
ささくれだった心が宥められるよう。
時間を忘れるほどぼんやりと空を見上げた後、庭園へと視線を戻すと、男性がいることに気がついた。
明るい陽が降り注ぐそんな場所にギャビン様は立っていた。
その場にそぐわないほどの闇を纏って……真っ黒な出で立ちで……。
「ギャビン様!!」
「クラリッサっ!」
ギャビン様が手を伸ばすより早くその胸に飛び込んだ。
嗅ぎ慣れた匂いと逞しい胸の感触。
その時、確かに確信が持てた。
わたし、何も迷わなくてもこんなにもこの人が好きだった……。
恋に堕ちるのが早すぎて、こんなにも深くまで落ちていたなんて気付かなかった。
見上げれば濃い灰色の瞳。
目の下の深い隈が疲労を色濃く映す。
不安げに揺らめく色に確かな愛情を感じる。
この胸の中にいる間、息苦しい噎せるような濃い愛情に包まれて……私は幸せだった。
「ギャビン様、ごめんなさい。……ごめんなさい。………約束を破ってごめんなさい。もう決して離れません。もう一度、お傍に居させてください。」
ギャビン様が強く私を抱き締める。
こんな凄い人なのに……私を失うことに怯えて震えていた。
「クラリッサ。もうどこにも行かないでくれ。」
「…………はい。」
ギャビン様は存在を確かめるように、私を胸に抱きしめたまま離さなかった。
回した腕に感じる彼の体躯は、細くなったように感じて……。
顔を見れば頬もこけてしまって、彼が一回り小さくなって見えた。
「ギャビン様、……お痩せになりました?」
「クラリッサが居なくなって……目の前が真っ暗になった。家の中を探しても荷物が一つも無くなっていて……。俺はずっと……長い幸せな白昼夢を見ていたのかと……。」
………ギャビン様、泣いてる?
私の肩に顔を埋め、震えながら話す声は涙に潤んで……。
こんなにも窶れて、この人は1ヶ月半の間、きちんと食事を摂っていたのだろうか?
……眠れていたのだろうか?
王宮の庭園は広い回廊に面していて、様々な人が行き交う。
皆がギャビン様の変容ぶりと、私に縋るその姿を見て言葉を失くした。
ローゼン侯爵が来るまでの間、私たちは一目も憚らず長い抱擁を交わした。
~~~~~
私たちはその後、ローゼン侯爵と共に陛下に謁見することになり、ギャビン様は王宮に留まるよう慰留された。
けれどギャビン様は陛下に対しても、態度は同じで叙爵も出世も強く固辞した。
結局、私の説得もあってギャビン様は今まで通り王宮で魔術師室長として働くことになった。
詳しいことは分からないが、彼の張る結界が王宮の守りには必要らしい。
ギャビン様が家を売却してしまったので、私たちは郊外の小さな一軒家を購入した。
静かで穏やかな平民としての暮らしを私たちは望んだ。
私の実家は弟が跡継ぎとしているし、ギャビン様は元々平民だ。
貴族の柵なんかで縛られたくなかった。
ギャビン様は私が居なくなったのは、自分の執着が激しくて嫌になって逃げたのだと思ったらしい。
私を探す時間が足りなくて、ギャビン様は王宮を辞めた。
そして、私が国を出てしまっていても追いかけられるように家を売ったそうた。
ギャビン様の思い切りのよさに驚く。
そして、自分がいつの間にかこんなにも執着されていた事にも…………。
彼は初め私の実家周辺を探して、次に私が王宮で親しく会話していた友人の家を訪ね歩いたそうだ。
「ちゃんとご飯食べていたんですか?」
と、聞いたら
「覚えて無いな。」と、言って
困ったように笑っていた。
そしてある日、ローゼン侯爵が派手に護衛を引き連れて、ブジーア伯爵領まで女性を迎えに行ったという噂を耳にして王宮を探しにきたらしい。
「私、覚悟を決めました。自分の気持ちにも気付きました。ギャビン様が好きです。もう逃げません。」
そう高らかに宣言する私を、ギャビン様は眩しそうにほんの少し目を細めて見ていた。
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