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戦士、キレる。
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――とある酒場にて
「くそ!なんなんだよちくしょう!」
酒が進む、筋骨隆々の男が座る、四人用の席のテーブルの半分は既に空になったジョッキで一杯だ。
「落ち着いて戦士、……まあ気持ちはわかるわ」
その男の隣に座って話を聞いているのは、とんがり帽子が印象的な魔法使い、リリアだ。
「……それでよぉ、前に東洋の方に魔物退治に行った時があったじゃねえか」
「ああ、八岐大蛇(やまたのおろち)の時ね、あれは手強かったわ」
八岐大蛇(やまたのおろち)とは、8つの頭に8つの尾がある巨大な蛇の化物だ。
月に一度、若い娘の生贄をよこせば、残りの村人の命は助けてやる。ただその間村人が一人でも何日も戻らないようなことがあったり、歯向かう者がいれば即座に皆殺しにしてやると言って、東洋の国の集落、村をいくつも滅ぼした残虐な魔物だ。
その鱗は固く、並みの腕力や武器では刃が入らないほどの硬さに加え、魔法耐性を備えており、魔法も上級魔法以上のものでなければ効果は薄いという強敵だった。
「あの時リリアが火の上級魔法をオロチの目に当ててよぉ、俺が襲ってくるオロチ一匹一匹の頭を斧で叩き斬ってよお」
「死闘だったな」
「……けどあの時勇者が何やってたかっていうと、俺達のMP回復だけだよな」
そう。
あの時勇者は最初に剣による近接攻撃をオロチに仕掛けた。
しかし、武器は悪くないとはいえ、戦士と比較すると腕力が劣るので、オロチにかすり傷を負わせる程度のダメージしか与えることができなかったのだ。
「……まあしょうがなかったんじゃないかしら」
次に勇者は魔法攻撃を試した。ただ魔法の専門家である魔法使いが、上級魔法や最上級魔法を扱えるのに対して、勇者は中級魔法までしか使えなかった。これもオロチには効果が薄かった。
「あの時途中で俺がミスっちまって、半身をガブリとやられた時は死を覚悟したなぁ」
「僧侶がいて助かったわ」
オロチはその気になれば人間など一飲みできる大蛇の化物だ。
それゆえにその攻撃をくらうと瀕死か即死という恐ろしいもので、瀕死から即座に全快近くまで回復できる上級以上の回復魔法と、蘇生魔法が使える僧侶に対して、中級回復魔法までしか使えない勇者の回復魔法に、居場所はなかった。
「あの蛇の化物、頭と尾の数多かったんだから、勇者のやつ囮くらいにはなれなかったのかなあ?」
「それは難しいんじゃないかしら」
勇者としてのプライドもあるとは思う。しかしオロチからすれば、物理攻撃も魔法攻撃もほとんどダメージがないのが前に出てきたところで何だというのだ。それよりも致命傷を与えかねない攻撃を繰り出す魔法使いと戦士の方が、アタッカー兼注意を引くという意味では脅威だったと思う。
「最後オロチにトドメ刺した後にさあ、女の子が出て来ただろぉ」
「ええ、名はヒミコと言ったかしら」
「あの子、なんて言ったと思う?」
「さあ?」
「勇者の方に行ってさ、<勇者様!助けてくれてありがとう!>だとよ、お前は何を見ていたんだよクソが」
「それは……ヒドイな……」
戦士の酒はまだ進む、全速前進だ。
「後で勇者が言っていたんだが、その夜その子が勇者の泊ってる部屋に来たらしい」
「……世の中腐ってるな」
「あああああああああ!!」
――戦士は発狂した。
「くそ!なんなんだよちくしょう!」
酒が進む、筋骨隆々の男が座る、四人用の席のテーブルの半分は既に空になったジョッキで一杯だ。
「落ち着いて戦士、……まあ気持ちはわかるわ」
その男の隣に座って話を聞いているのは、とんがり帽子が印象的な魔法使い、リリアだ。
「……それでよぉ、前に東洋の方に魔物退治に行った時があったじゃねえか」
「ああ、八岐大蛇(やまたのおろち)の時ね、あれは手強かったわ」
八岐大蛇(やまたのおろち)とは、8つの頭に8つの尾がある巨大な蛇の化物だ。
月に一度、若い娘の生贄をよこせば、残りの村人の命は助けてやる。ただその間村人が一人でも何日も戻らないようなことがあったり、歯向かう者がいれば即座に皆殺しにしてやると言って、東洋の国の集落、村をいくつも滅ぼした残虐な魔物だ。
その鱗は固く、並みの腕力や武器では刃が入らないほどの硬さに加え、魔法耐性を備えており、魔法も上級魔法以上のものでなければ効果は薄いという強敵だった。
「あの時リリアが火の上級魔法をオロチの目に当ててよぉ、俺が襲ってくるオロチ一匹一匹の頭を斧で叩き斬ってよお」
「死闘だったな」
「……けどあの時勇者が何やってたかっていうと、俺達のMP回復だけだよな」
そう。
あの時勇者は最初に剣による近接攻撃をオロチに仕掛けた。
しかし、武器は悪くないとはいえ、戦士と比較すると腕力が劣るので、オロチにかすり傷を負わせる程度のダメージしか与えることができなかったのだ。
「……まあしょうがなかったんじゃないかしら」
次に勇者は魔法攻撃を試した。ただ魔法の専門家である魔法使いが、上級魔法や最上級魔法を扱えるのに対して、勇者は中級魔法までしか使えなかった。これもオロチには効果が薄かった。
「あの時途中で俺がミスっちまって、半身をガブリとやられた時は死を覚悟したなぁ」
「僧侶がいて助かったわ」
オロチはその気になれば人間など一飲みできる大蛇の化物だ。
それゆえにその攻撃をくらうと瀕死か即死という恐ろしいもので、瀕死から即座に全快近くまで回復できる上級以上の回復魔法と、蘇生魔法が使える僧侶に対して、中級回復魔法までしか使えない勇者の回復魔法に、居場所はなかった。
「あの蛇の化物、頭と尾の数多かったんだから、勇者のやつ囮くらいにはなれなかったのかなあ?」
「それは難しいんじゃないかしら」
勇者としてのプライドもあるとは思う。しかしオロチからすれば、物理攻撃も魔法攻撃もほとんどダメージがないのが前に出てきたところで何だというのだ。それよりも致命傷を与えかねない攻撃を繰り出す魔法使いと戦士の方が、アタッカー兼注意を引くという意味では脅威だったと思う。
「最後オロチにトドメ刺した後にさあ、女の子が出て来ただろぉ」
「ええ、名はヒミコと言ったかしら」
「あの子、なんて言ったと思う?」
「さあ?」
「勇者の方に行ってさ、<勇者様!助けてくれてありがとう!>だとよ、お前は何を見ていたんだよクソが」
「それは……ヒドイな……」
戦士の酒はまだ進む、全速前進だ。
「後で勇者が言っていたんだが、その夜その子が勇者の泊ってる部屋に来たらしい」
「……世の中腐ってるな」
「あああああああああ!!」
――戦士は発狂した。
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