レベル99の戦士の苦悩

オクタビ

文字の大きさ
13 / 15

戦士、武闘家と戦う。

しおりを挟む
衝撃と共に護送車を引いていた馬はバラバラになり、丸みを帯びた形をしていた護送車の形は、さながらリンゴに果物ナイフで横から切れ目を入れるように原形を失っていく。

その護送車が風圧と共にバランスを崩し、転倒するか否かというところで、神父を背負ったフラクタルが飛び出す。

――そこをレイルレインは見逃さなかった。

レベル99の脚力を活かし、フラクタルとの距離を一気に縮め、容赦なく両手斧を振り落ろす――が。

、レイルレイン」

――刹那
振り下ろした斧の側面に衝撃が走り、背負った神父ごと真っ二つにしていたであろう斧の軌道は大きくズレ、外した先にある地面を抉る。

(速い……)

戦士は帽子の色を見てすぐにフラクタルだとわかった、フラクタルのスキルも頭の良さもギルドにいたころから知っている。だから避けられるリスクを考え、発動まで若干のタイムラグが発生する岩山鉄砕陣をあえて使わず、最速の通常攻撃で様子を見た。
予想外だったのはフラクタルが避けたのではなく、両手斧の軌道をずらした男。

「……じっちゃんを頼んだぜ!」

――目の前にいる火の立ち登るような髪形をした男の拳からは煙が出ていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ハイリッヒは昔から剣や斧といった武器を好まなかった。

というのもハイリッヒの生まれた地域周辺ではオークが生息していなかったというのもあるが、モンスターは基本的に自身の牙や爪を使って戦うのに対して、人間は武器を使って戦うということをズルイと思っていた。

例え戦いに勝っても武器を使っている時点で、モンスターに負けを認めているような感じがするのが嫌だった。

だからハイリッヒはひたすら拳で戦うことを突き詰めていった。
グローブや肘当てはしているが、これは過酷な修練をしても手や肘を傷めないようにといって、当時ハイリッヒがお世話になっていた僧侶がプレゼントしてくれたものであり、継戦能力の底上げはしてくれても、攻撃力や殺傷性を大きく高めるといったものではない。

そしてギルドに所属してからは初の遭遇となる槍を使うモンスター、オークとの戦いを経験する。

モンスターの中でも魔法を使うために杖を使うものはいても、近接武器を使うのはオークだけだったため、オークをずるいモンスターだと思っており、賞金がかかったモンスターの中にオークがいると積極的に狩りに行く。
そしてたまに気持ちが溢れ、フラクタルのことを間違ってオークと呼ぶことがある。

ギルドでのハイリッヒの評価は№7

これは竜種との戦いを視野に入れた場合、拳では竜種に致命傷を与えるのが難しいことが関係している。
現に黒剣のリヒトは所属当初は双剣を使っていたのに対して、途中から大きな両手剣に切り替えて竜種に対応していることからも、竜種の外殻がいかに堅牢であるかということを物語っている。



――ただこの評価は最近の評価であって、最新の評価ではない。



~~~~~~~~~~~~~~~



「ハイリッヒ、すぐ助けに戻るから粘れよ!」

僧侶を背負ったフラクタルが離れていく。

「おう!」

「させるか」

レイルレインはスキルの範囲攻撃を使い、周囲を薙ぎ祓おうとするが、ロウソクの火が消えるようにフッと目の前からハイリッヒの姿が消えた――そう思った時には。


ゴッ!


鈍い音と共に戦士の腹部にハイリッヒのボディブローが入る。


「がっ!」


そして腹部のダメージを認識した時には背中にハイリッヒの肘打ちが入っていた。


「がはっ!」


(なっ……)

まるで腹部と背中を同時に攻撃されたような感覚、信じられない速さ。

ハイリッヒが初めて壁を感じたのは、拳とそれ以外の武器を比較した際のリーチの差だった。
ある時はオークに一方的にやられ、それを見て周りは拳で戦うのは辞めて、おとなしく武器を使った方がいいと薦めた。
しかしそんな環境でもハイリッヒは拳で戦うことを辞めようとはせず、回避と攻撃につながる素早さを上げる修行をひたすらやった。

それは結果としてスキルを習得することに至る。


――武闘家上位スキル 迅動(しゅんどう)――
踏み込む際につま先に力と魔力を集中させ、瞬間的な機動性を大きく上げる。
一度に5m程度の距離までなら、文字通り消えるほどの機動性を発揮できる。
ただ制御が難しく、初動で動きを読まれるとそのままカウンターの餌食にもなりやすいため、熟練が必要となる。

しかし。

いくらスピードがあっても、攻撃自体はレイルレインはレベル99な上に最高レベルの鎧を着ているため、致命傷にはならない。
この攻撃にはクロノスが最後に放った攻撃魔法ほどの貫通力がなかった。

「関係ねえな…」

ハイリッヒの、レイルレインは範囲攻撃スキルを発動する。

――地獄車――
波紋のように円状に無差別に真空の刃が広がり飛んでいく。

「その技はリヒトで慣れてんぜ!」

飛んでくる刃を潜り抜け、一瞬で戦士の懐に入り込む。

「らあ!」

――スキル 双天衝――
迅動の勢いからの両手による渾身の掌底。

直撃

その威力は戦士を近くにある大岩まで吹き飛ばし激突させた。

(……手ごたえはあったぜ!)

しかしそう思ったのも束の間、戦士の体は動き出す。

(……この鎧着てなきゃヤバかったな、それに)

戦士はこれ以上時間をかけてはいられなかった。
先程距離を取ってから間もなくして、フラクタルが発光灯を打ち上げたのを見たからだ。
もう少しすればあの光を見て、ギルドの応援が駆けつけてくるのはわかりきっていた。

(相手の手の内はわかった、……これで終わりだ)

――上位スキル 烈震――
戦士が斧を持つ柄の底を勢いよく大地に突き刺して間もなくして、戦士の立っている場所以外の大地は恐怖を感じるほどに揺れた。

「……なんだよそれ」

それはもはやスキルではなく、災害に近かった。

「今から俺はさっきお前が避けた技と同じ技を出す、だからお前もさっきと同じセリフを言って、同じように避けてみろ」

そういって戦士は両手斧を振り回した。





――地獄車――





飛んでくる刃をハイリッヒは避けようとする。
しかし大地を強く蹴って発動するスキル、迅動は大きく揺れている大地では上手く発動できなかった。
そして、この揺れでは通常の回避すらもままならない。








「……ちくしょう」











その思いも空しく、ハイリッヒの片足と片腕は吹き飛んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...