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第12話 えへへ
しおりを挟む忙しなく神崎さんの部屋に帰って来た僕達は、机の上に今持ってきたばかりの便箋を並べた。
神崎さんが潤んだ目でその便箋の一つ一つを撫でる。
「えへ、えへへ。ちゃんと20歳になる時の分まである。ママ、頑張って書いてくれたんだなぁ」
それを見届けて、僕は立ち上がった。
「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ」
「え、もう行っちゃうの?」
「うん。それは神崎さん一人で読むべきだと思うから」
「そっか。うん、そうだね」
そう言うと神崎さんも立ち上がった。
そして急に神崎さんが近づいてきたと思ったら、僕の体にやわらかな体が押し付けられる。
神崎さんが僕の背中に手を回して、僕を抱きしめていた。
「え、あ、神崎さん?」
えへへ、と神崎さんの笑い交じりの息が耳に吹きかかる。
「あんたさ、いっつも教室の隅で暗い顔してるネクラ野郎だと思ってたけど、実は結構いい奴だね」
背中に回った手にぎゅっと力がこもった。
「ありがと」
神崎さんの声には涙の気配が交じっていた。
「いや、あ、うん、たいしたことしてないけど」
神崎さんの手が離れると、僕はぎくしゃくした動きでドアに向かった。
「あの、それじゃ、また」
「うん、また学校でね」
神崎さんが涙で濡れた目のままにっと笑う。その笑顔はいつもよりずっと幼く見えた。
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