上 下
12 / 13

第12話 えへへ

しおりを挟む

忙しなく神崎さんの部屋に帰って来た僕達は、机の上に今持ってきたばかりの便箋を並べた。

神崎さんが潤んだ目でその便箋の一つ一つを撫でる。

「えへ、えへへ。ちゃんと20歳になる時の分まである。ママ、頑張って書いてくれたんだなぁ」

それを見届けて、僕は立ち上がった。

「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ」

「え、もう行っちゃうの?」

「うん。それは神崎さん一人で読むべきだと思うから」

「そっか。うん、そうだね」

そう言うと神崎さんも立ち上がった。

そして急に神崎さんが近づいてきたと思ったら、僕の体にやわらかな体が押し付けられる。

神崎さんが僕の背中に手を回して、僕を抱きしめていた。

「え、あ、神崎さん?」

えへへ、と神崎さんの笑い交じりの息が耳に吹きかかる。

「あんたさ、いっつも教室の隅で暗い顔してるネクラ野郎だと思ってたけど、実は結構いい奴だね」

背中に回った手にぎゅっと力がこもった。

「ありがと」

神崎さんの声には涙の気配が交じっていた。

「いや、あ、うん、たいしたことしてないけど」

神崎さんの手が離れると、僕はぎくしゃくした動きでドアに向かった。

「あの、それじゃ、また」

「うん、また学校でね」

神崎さんが涙で濡れた目のままにっと笑う。その笑顔はいつもよりずっと幼く見えた。
しおりを挟む

処理中です...