異分子マンション

カナデ

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「ごめん。ユイカの母親は亡くなってるんだよね」

 彼女は「いいの」と力なく呟いた。「仕方ないことだもん」と続けたが本音ではないはずだ。

「あたし子供の頃から友達いなくて。人付き合いが得意じゃないから、悪気がなくても傷付けちゃうかも……なんて、言い訳になって申し訳ないけど」

「大丈夫だよ、リツコは悪くない。わたしには兄さまがいるし、叔父さまも優しいから……寂しいなんて思わないよ」

「……叔父さんとも仲良し?」

「うん。叔父さまはわたしと兄さまのことを愛してくれていて、頼りがいもあって、すごく素敵な人だよ」

 そう話すユイカの顔には笑みが戻っていた。
 叔父に対し刺々しい物言いをしていたハルと違い、ユイカは心からノブユキのことが好きそうだ。
 頼りになる家族が傍にいることで、いずれ悲しみを乗り越えることができれば――綺麗事かもしれないが、そんなふうに願った。

「店番手伝ってくれてありがと。まだレジの使い方が不安だから助かったよ」

「リツコならすぐ完璧になるよ。ねぇ、今度一緒にお出掛けしない? 素敵なカフェを知ってるの」

「……あたしなんかと一緒に行っても退屈じゃない?」

「全然。今日もリツコとお喋りしながら仕事して楽しかったもん」

「……じゃあ仕事に慣れた頃にでも」

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