異分子マンション

カナデ

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 その店は激辛料理一品のみで勝負しているという。ユイカを連れて行こうとしたこともあるが、彼女は「お店の空気ごと辛くてダメ」と言って身を引いたらしい。

「そういうわけですから二人で行きましょう。僕が車を出すので、マンション前の駐車場でお待ちください」

 それでは後ほど、とハルは去っていった。

 コンビニの閉店作業を終えた午後八時過ぎ。部屋に戻って出掛ける支度を整え、マンションの外に出た。すっかり日が暮れているというのに、熱っぽい空気が肌にまとわりついてくる。

 駐車場の出入口にある街灯の下で待っていると、エントランスの方から歩いてくる人影が見えた。ハルだと確認できたところで「お疲れ」と声を掛ける。

「お待たせして申し訳ありません。妹に『リツコさんと食事に行く』と伝えてきました」

「一緒に行きたいって言われなかった?」

「真っ先に心配されましたよ。リツコさんをあのお店に連れて行って大丈夫なのかと」

「あたしは平気。あの激辛スナックをキツイと思ったこともないし」

 ハルの車――黒いセダンの助手席に乗り込み、夜の街へと向かう。
 こうして男性の運転する車に乗って出掛けるのは初めてで、何となく居心地の悪さを覚えた。ハルの方からファミリアやアルバイトの話を振ってきたため、沈黙になることはなかったが。

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