71 / 220
71
しおりを挟むその店は激辛料理一品のみで勝負しているという。ユイカを連れて行こうとしたこともあるが、彼女は「お店の空気ごと辛くてダメ」と言って身を引いたらしい。
「そういうわけですから二人で行きましょう。僕が車を出すので、マンション前の駐車場でお待ちください」
それでは後ほど、とハルは去っていった。
コンビニの閉店作業を終えた午後八時過ぎ。部屋に戻って出掛ける支度を整え、マンションの外に出た。すっかり日が暮れているというのに、熱っぽい空気が肌にまとわりついてくる。
駐車場の出入口にある街灯の下で待っていると、エントランスの方から歩いてくる人影が見えた。ハルだと確認できたところで「お疲れ」と声を掛ける。
「お待たせして申し訳ありません。妹に『リツコさんと食事に行く』と伝えてきました」
「一緒に行きたいって言われなかった?」
「真っ先に心配されましたよ。リツコさんをあのお店に連れて行って大丈夫なのかと」
「あたしは平気。あの激辛スナックをキツイと思ったこともないし」
ハルの車――黒いセダンの助手席に乗り込み、夜の街へと向かう。
こうして男性の運転する車に乗って出掛けるのは初めてで、何となく居心地の悪さを覚えた。ハルの方からファミリアやアルバイトの話を振ってきたため、沈黙になることはなかったが。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる