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しおりを挟む「何故なら、エリザベート=アンリの〝魂〟がぼくに宿っているから」
「要するにテツジさんは、その死刑執行人の生まれ変わり? 前世ってやつ?」
「そうじゃないよ」
実情は〝エリザベートの歩んだ人生が、テツジの脳内に転写されてしまった〟というものらしい。あくまでエリザベートの記憶を有しているだけであり、二重人格のように別人として分離することはないそうだ。
「そういうわけで、ぼくには拷問や処刑シーンの記憶が鮮明にある。人の首が落ちるところとか、身体が真っ二つになるところとか……」
「……そりゃキツイですね」
「ただ記憶があるだけならマシだったと思う」
「他に困ることがあるんですか?」
「エリザベートの魂が宿っているせいで、ぼくは昔から、残虐なものやグロテスクなものを見ると、笑いが止まらなくなってしまうんだ。誰かが血を流しているところとか、車に撥ねられた動物の死骸とか……楽しくてたまらないんだ。最低だよね」
「……エリザベートのせいでしょう? 仕方ないですよ」
「ずっと『人や動物の不幸を笑っちゃいけない、ぼくはそんな酷い人間じゃない』と言い聞かせてきたけど……どうしても変えられないんだ」
「……もしかして。テツジさんが常にマスクをしてるのは、表情を隠すため?」
「うん。いつどんな場面に遭遇するか分からないし、自分の意思で制御できるものでもないから……傷付いた人を見て笑うなんて狂気的な姿を、誰かに見られるわけにはいかないから。だからぼくは、人との接触をできるだけ避けてきた。学生時代も、いつも独りで絵を描いてたんだ。ぼくみたいな心の醜い人間、クラスメイトの会話に入ってはいけない気がしたというのもある」
〝心が醜い〟と言うが、テツジは残虐なものを見て喜ぶ自分を苦に思っている。それは彼自身の心が美しい証拠ではないだろうか。
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