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5【side.ノア】――パスカル/灰
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しおりを挟む十一月下旬。
秋も深まり肌寒い夜。
キッチンで夕食の支度をしていると、仕事を終えたアニキが帰ってきた。「おかえり!」と笑顔で出迎える。
「おう。帰って早々申し訳ないが、ちょっくら面倒な知らせがある」
「……え?」
「明日から三日間――金土日と、県外のホテルで行われる教員研修へ行くことになった。じゃんけんで負けて、急遽別の教師の代理を務めることになったんだ」
「三日間帰ってこないの?」
「あぁ、ワリィ」
「そっか。寂しいけどオレは大丈夫だよ」
「……面倒な知らせってのはここからだ。俺がいない間、タケルがウチに泊まりに来ることになった」
「――え!?」
思わず声が大きくなる。
担任と二人きりで三日間過ごすなんて冗談じゃない。
春頃に一度だけ、アニキがタケルを連れて帰宅したことがある。それ以来の珍事だ。しかも泊まるなんて……。
「ワリィ、発端は俺なんだ。三日もノアに留守番させるのは初めてだからつい『心配だ』と口にしちまって。タケルも『確かに』と」
「あのサボり魔だって一人暮らしじゃんか!」
「パスカルは高三と言ってももうすぐ二十歳になるからな。すぐ近くに両親も住んでる」
「そうだけど……」
「タケルが保護者役をすると言い出したとき、『そこまでしなくていい』と断ったんだぜ? だが『ノアは他の生徒より幼いから心配だ』と言われちまってな」
「なんだよそれ! あいつ最低すぎじゃね!?」
「タケルはお前の生い立ちを知ってるからな。また無駄な使命感にでも駆られてるんじゃねーか? 『自分が三日間〝兄代理〟を務める! 生徒の安全確保が担任の責務だ!』とか鼻息荒くしてんだろ」
「さすがアニキ、めっちゃタケルっぽい! ……とか褒めてる場合じゃなかった。あいつ尋常じゃないレベルで口うるさいし粘着質だからなー」
「俺はああいう真っ直ぐな奴、嫌いじゃないぜ? 最近はずいぶん丸くなったしな」
「……それはクラスのヤツもみんな思ってるはず」
出会った頃のタケルは鬼教師で、クラスじゅうからウザがられていた。もしかしたらその空気が本人に伝わったのかもしれない。徐々に態度が軟化し、怒鳴るシーンは減ってきた。
それでも他の教師とは比べ物にならないほど厳しく、〝堅物ウザ教師〟なんてあだ名も付いている。
「どうせアニキがいないなら、友達呼んでパーティーしたかったな」
「それはそれで、お前にとっちゃ面倒事になりそうだけどな」
「どういう意味?」
「パーティーの話を嗅ぎつけたパスカルが、面白半分で乱入してくる映像しか思い浮かばん」
「ぜってーやだ!」
パスカルはオレをおもちゃにして遊ぶのが趣味だ。オレの三大イライラ要素「小さい」「可愛い」「子供」を網羅しながら攻撃してくる。あいつにバカにされるくらいなら、タケルの方がまだマシだ。とはいえ――。
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