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日常6【side.エリック】――〝友人〟
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しおりを挟む「卒業後に同棲することは確定なんだよな? 日程や引っ越し先は決まったのか?」
「ノアの入社日が四月一日なので、それまでには引っ越し完了できればと。いくつかアパートをピックアップして、冬休み中に内見の予約を入れるつもりです。仕事優先なのでいつになるか分かりませんが」
既にある程度の候補は絞っているらしい。ピックアップした物件は全て、現在の家から車で十~二十分程度とのことだ。ノアは引っ越し後も度々、俺に食事を届けたいと話していたから。行き来しやすいよう配慮したのだろう。
「昨夜ノアにメールして、内見について報告したのですが。『一緒に行きたい』と返事があり……断れば機嫌を損ねるかもしれないと思ったので。一旦保留にしました」
「まぁノアはテンション上がってはしゃぐかもしれんが、面倒くさがらず連れて行ってやれよ。一緒に暮らす家なんだから」
「ノアが邪魔で断りたいのではありません。二人で街へ出て、他の生徒や先生に目撃されたらどうするんです?」
「あー、そういうことか。お前ら外出も一切禁止にしてるんだよな?」
「当然です。噂になれば一大事ですから」
俺は休日や放課後、パスカルと街へ繰り出すことがある。あいつが菓子を買い込む際の付き添い、もしくはゲーセン。アーケードゲームやクレーンゲームに興じている途中、他の生徒に遭遇したこともある。
もちろん妙な噂が立つことなどなく今日まで学園生活を送ってきた。「出先での俺たちはただの教師と生徒」という暗黙のルールが成立しているから。
そのあたりはパスカルもふざけたり茶化したりすることなく、器用に立ち回ってくれる。
お互い何を指示するでもなく、自然とそんな距離感を作っている――これは長い間サボりタイムを設けることで生まれた阿吽の呼吸なのかもしれない。
「エリック先生たちは以前から〝不良教師&問題児〟というセット扱いですからね。パスカルは長らくエリック先生のことを呼び捨てにしており、白い目で見ている教師・生徒も多い。街で目撃されても『不真面目同士仲が良いんだな』程度にしか思われないでしょう」
「ちょい癇に障る言い方だが、反論できないのが痛いぜ。事実以外の何物でもないからな」
「しかしパスカルも二年連続でエリック先生が担任となり、居心地が良かったのではないでしょうか」
……パスカルが年単位でお前に片想いしていたとも知らず、呑気なことだ。とはいえ今重要なのは内見について。話を軌道修正しなければ。
「タケルとノアが二人で出歩いていても、『あいつら付き合ってる』なんて誰も思わねーだろ。手を繋ぎでもしない限り」
「ただの娯楽ならそれで済むかもしれませんが、今回はアパートの内見ですよ? 『担任と教え子が同居する家を探している』と話が広まったら……」
一緒に不動産屋を出入りしたところで〝同棲するための部屋探し〟と断定することはできない。人の数だけ様々な事情がある。
タケルの場合「自分は悪いことをしている」という後ろめたさが先行し、視野が狭くなっているだけだ。一言でサクッと表すのであれば、ただの考えすぎ。
「ウジウジと面倒クセェ奴だな。鬼の形相で生徒を注意しまくってる奴と同一人物とは思えん」
「教師の僕と私生活の僕を同一視されても困ります。きちんと切り替えを行っていますから」
「その堅苦しさが面倒クセェと言ってんだ。毎日そんな調子じゃノアも『別人みたい』と戸惑うわな。オンオフの切り替えが極端、と言うよりヘタクソすぎる」
「……申し訳ないです」
二人きりで内見に行くのがどうしても不安と言うなら、俺の名を使えばいいだろう。
「ノアは一人暮らしするためのアパートを探している・本当はエリック先生が付き添う予定だった・急用のため担任の僕が代理を務めることになった」――という具合でノアと口裏を合わせておけば問題ない。
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