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おまけ1【side.パスカル】――罰ゲームは男の娘。
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しおりを挟むふっざけんな、という罵声が飛んできた。いつの間にか対戦を終えたノアが、仁王立ちで俺を見下ろしている。
「なんでオレが負けること確定みたいな言い方してんの?」
「電話で言ったでしょ? キミに負ける気がしない」
「ふん。その鼻へし折ってやる」
「キミこそセーラー服を着る心の準備をしておいてね?」
「着ねーよっ! オレはキュート呼ばわりされるのが大っ嫌いなんだから。つーかお前、オレの女装姿なんか興味ねーだろ」
「そんなことないよ。キミと知り合った頃からずっと《男の娘》させてみたいルックスだなーと思ってた。まぁ恥ずかしがってるところをいじりたいのが一番だけど」
「お前ホント意地悪いな! もっと楽しい罰ゲームに変えろっ!」
……この子は罰ゲームの意味を理解していないのだろうか。やるのが楽しみでワクワクするような内容だったら罰にならない。
「罰と銘打つ以上、ノアには可愛い服を着てもらうからね。もちろん俺が負けたときの処遇はキミに任せるよ」
「じゃあ…………なんにしよう? お前はなにがあっても動じなさそうって言うか……ダメージ与える方法が分かんない」
「大真面目に回答するなら、秘密を暴露されることだけど」
ノアは「ダメに決まってるだろ」と真顔で即答した。
世界でたった二人、エリックとノアだけに打ち明けた両親との確執。そしてノアだけが知る、俺の罪と恐怖意識。僅かでも匂わせるような発言をしないあたり、心の綺麗な彼らしい。
「んー……。俺が真っ先に『やめてくれ』って思うのは、休日エリックに会うのを禁じられることかな?」
「それはアニキを悲しませるから却下。まぁいいや、お前をコテンパンにしてから考える」
「罰ゲームありの勝負っていうのは決まりでいいんだね?」
「おう! 受けて立つぜ!」
「じゃあ約束ね」
コントローラーをひとつ借りてスタンバイ。バトル前に今回のルールを決めた。
三本先取。
同じキャラを再度使うのは禁止。
以上、単純明快だ。
俺はエンジェルス・ファイトシリーズの2~4しかプレイしたことがないため、当時から参戦しているキャラで行くか。《ジャック》にカーソルを合わせて決定ボタンを押すと同時、隣のノアが「マジ?」と苦笑した。
「そいつめっちゃ弱いじゃん。まぁキャラ自体は好きなんだけど」
「弱いのに好きなの?」
「〝ジャック〟っていうアニキのダチがいて、何となく親近感あるんだ。リアルのジャックはお前と違ってめちゃくちゃ優しいしな」
「そうだねぇ……俺はとってもイジワルだから容赦なく叩きのめしてあげるよ。防御面は最低ランクのジャックだけど、攻撃を食らわなければ何の問題もないからね」
「オレのこと初心者とでも思ってんのかよ」
「さて、どうかな。キミのメインキャラは?」
「ジャック相手にメインを出す必要ないから温存しとく。一回戦は《ケリー》で」
一試合目。
ラウンド1開始。
まずはノアの出方を伺った。こちらの防御を上手に崩しつつ技を当ててくる。ひたすらコマンドを入力しまくってゴリ押し、というタイプではなさそうだ。こちらの体力ゲージが半分まで減ったところで反撃スタート。そこからは一撃も食らうことなく打ち負かした。
後方から見守っていたタケル先生が「見事だ」と称賛してくれた。それが追い打ちを掛けたのか、ノアが眉を吊り上げる。
「い、今のはちょっと油断しちまっただけ!」
「はいはい。次は本気出してね」
ラウンド2も俺の勝利。
今回は体力ゲージもほとんど減っていない。一バトル二本先取の設定となっているため、これで一回戦は終了だ。
「俺が一歩リードだね」
「……次はぜってー勝つ!」
「はーい。お次はどのキャラで来る?」
「……連続で落とすのは避けたいからな。ここは念のためにメインで行くか」
ノアが選んだのはシリーズ初代から参戦している《エイミー》だった。さっきのケリーといい、女性キャラを扱うのが得意らしい。エイミーの髪はオレンジ系、そして前髪ぱっつんのおかっぱ頭――どことなくノアに似ている。
「俺も女性キャラに合わせようかな。ポニーテールがトレードマークの《ステラ》で」
「……ハメ技使うなよ?」
ハメ技――同じ攻撃パターンを延々と繰り返し、相手が身動きできない状態にハメる――卑怯な手段だ。対人戦で使ったら間違いなく嫌われる。ステラのハメ技はシリーズ3から攻略サイトに書き込まれていた。それを使えばタケル先生でも勝てるだろう。正義を絵に描いたようなタケル先生が卑怯技を活用するとは思えないが。
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