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Ⅲ 第3の審判
chapter 14 夏季休暇 -5
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5 8月20日 朝倉医院
朝倉医院と呼ばれる比較的には小さな規模の総合病院で、陽太は目を覚ました。
規模は小さい病院ではあるが、医師である先生の対応と実績により、地域では評判のいい病院である。
陽太は白い壁に囲まれたベッドから身体を起こした。
最初はここがどこなのかわからなかった。
しかし、意識がはっきりしてくるにつれて、なんとなく病院であるということがわかってきた。
陽太は再びベッドに寝た。窓の外を見ると、夕焼けが見え、既にそんな時刻なのかと心の中で思った。
自分はいったいどうしてここにいるのか、はっきりとした意識のなかでも、それだけは未だにわからなかった。
そのとき、がらっと病室のドアが開いた。
「気が付いたかい?」
相も変わらない嫌みったらしい目つきで、口元に笑みを浮かべながら、霧島がやって来た。
「安心して。疲労が溜まっていただけだろうって。医者によれば、キミが平気なら、すぐにでも帰宅していいらしい」
手にはペットボトルのお茶を持っていた。
彼は、ホラと差し出してきて、椅子に腰掛けた。
「霧島? どうして俺は病院に?」
陽太は率直に尋ねた。
「覚えてないのかい神谷君?キミは急に乙黒さんを突き飛ばしたんだよ。そして、そのあとにキミも倒れてしまって」
陽太は目を見開いた。
そうだ、自分は、まるで身体が奪われたかのように意識がぼんやりして、そして、乙黒の首を……。
「わからない……どうして、あんなことを」
陽太は目に手を当てて、俯きながら呟いた。
「キミは……乙黒さんに何か気に喰わないことでもされたのか?」
「い、いや……なにも……されてないはず」
「なら、どうして……?」
陽太は思い出したようにはっとして、霧島に尋ねた。
「霧島! 乙黒さんは!?」
「安心してくれ。別の病室で寝ている……ただ……」
「ただ……?」
「勿論、命に別状なんかないし、身体もいたって健康だ。だが、どういうわけか意識が戻らない。常に眠っているみたいな状況だ」
陽太は愕然として、俯いた。
「そ、そんな……どうして」
「大丈夫だ。問題は無いよ」
霧島は微かに笑ってそう言ったが、眼の奥は笑ってはいなかった。
霧島なりに、自分に下手な心配をかけないようにしているのだろうと、陽太はすぐにわかった。
「仕方が無いから……あとは僕の父親に頼めば、御影浪子のことは調べてくれるだろう」
「そんなこと、できるのか?」
「絶対にやりたくはなかったが、僕が頭を下げれば、どうにか動いてくれるだろう」
「御影零に聞いたら、教えてくれたりは……」
「しないだろうねえ。彼女が僕たちに協力してくれるとは思えないし。そもそも別れた血の繋がってない母なんて、最早他人だろ」
「……」
冷たく無機質な言葉。
しかし、御影零の気持ちを察するには、「他人」という表現は生易しいものだろうなと感じた。
陽太は再び不安げに俯いた。
いったい自分を襲ったあの現象はなんだったのだろう?
「まるで自分が自分じゃないみたいだ……」
思わず声に出てしまった。
霧島はその言葉を逃さなかった。真剣な表情を浮かべ、霧島は尋ねた。
「……神谷君、キミはいったい?」
「……わからない」
「こんなこと、今回が初めてかい?」
「……ああ。初めてだ」
陽太は嘘をついた。
霧島にそう尋ねられた瞬間、以前のことを思い出した。
そう以前にも、あれは夢だと思っていたが、自分が自分でないような錯覚に襲われたことがあるような気がしたのだ。
そして、そのときにあの『御影零』と会っているようなデジャヴを抱えていた。
あれは夢じゃなかったのか。あれは夢じゃなかったのか。
また、審判のときにもあった。ときに襲ってくる感覚。
自分の意識ではない意識が自分のなかに存在している感覚。
【自分はいったい誰なんだ?】
まるでそれは、いうなれば、自分自身の知らない闇の面……
dark side
なのかもしれない。
朝倉医院と呼ばれる比較的には小さな規模の総合病院で、陽太は目を覚ました。
規模は小さい病院ではあるが、医師である先生の対応と実績により、地域では評判のいい病院である。
陽太は白い壁に囲まれたベッドから身体を起こした。
最初はここがどこなのかわからなかった。
しかし、意識がはっきりしてくるにつれて、なんとなく病院であるということがわかってきた。
陽太は再びベッドに寝た。窓の外を見ると、夕焼けが見え、既にそんな時刻なのかと心の中で思った。
自分はいったいどうしてここにいるのか、はっきりとした意識のなかでも、それだけは未だにわからなかった。
そのとき、がらっと病室のドアが開いた。
「気が付いたかい?」
相も変わらない嫌みったらしい目つきで、口元に笑みを浮かべながら、霧島がやって来た。
「安心して。疲労が溜まっていただけだろうって。医者によれば、キミが平気なら、すぐにでも帰宅していいらしい」
手にはペットボトルのお茶を持っていた。
彼は、ホラと差し出してきて、椅子に腰掛けた。
「霧島? どうして俺は病院に?」
陽太は率直に尋ねた。
「覚えてないのかい神谷君?キミは急に乙黒さんを突き飛ばしたんだよ。そして、そのあとにキミも倒れてしまって」
陽太は目を見開いた。
そうだ、自分は、まるで身体が奪われたかのように意識がぼんやりして、そして、乙黒の首を……。
「わからない……どうして、あんなことを」
陽太は目に手を当てて、俯きながら呟いた。
「キミは……乙黒さんに何か気に喰わないことでもされたのか?」
「い、いや……なにも……されてないはず」
「なら、どうして……?」
陽太は思い出したようにはっとして、霧島に尋ねた。
「霧島! 乙黒さんは!?」
「安心してくれ。別の病室で寝ている……ただ……」
「ただ……?」
「勿論、命に別状なんかないし、身体もいたって健康だ。だが、どういうわけか意識が戻らない。常に眠っているみたいな状況だ」
陽太は愕然として、俯いた。
「そ、そんな……どうして」
「大丈夫だ。問題は無いよ」
霧島は微かに笑ってそう言ったが、眼の奥は笑ってはいなかった。
霧島なりに、自分に下手な心配をかけないようにしているのだろうと、陽太はすぐにわかった。
「仕方が無いから……あとは僕の父親に頼めば、御影浪子のことは調べてくれるだろう」
「そんなこと、できるのか?」
「絶対にやりたくはなかったが、僕が頭を下げれば、どうにか動いてくれるだろう」
「御影零に聞いたら、教えてくれたりは……」
「しないだろうねえ。彼女が僕たちに協力してくれるとは思えないし。そもそも別れた血の繋がってない母なんて、最早他人だろ」
「……」
冷たく無機質な言葉。
しかし、御影零の気持ちを察するには、「他人」という表現は生易しいものだろうなと感じた。
陽太は再び不安げに俯いた。
いったい自分を襲ったあの現象はなんだったのだろう?
「まるで自分が自分じゃないみたいだ……」
思わず声に出てしまった。
霧島はその言葉を逃さなかった。真剣な表情を浮かべ、霧島は尋ねた。
「……神谷君、キミはいったい?」
「……わからない」
「こんなこと、今回が初めてかい?」
「……ああ。初めてだ」
陽太は嘘をついた。
霧島にそう尋ねられた瞬間、以前のことを思い出した。
そう以前にも、あれは夢だと思っていたが、自分が自分でないような錯覚に襲われたことがあるような気がしたのだ。
そして、そのときにあの『御影零』と会っているようなデジャヴを抱えていた。
あれは夢じゃなかったのか。あれは夢じゃなかったのか。
また、審判のときにもあった。ときに襲ってくる感覚。
自分の意識ではない意識が自分のなかに存在している感覚。
【自分はいったい誰なんだ?】
まるでそれは、いうなれば、自分自身の知らない闇の面……
dark side
なのかもしれない。
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