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天ぷらうどん(2)盗まれたレシピ
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「昨日の放課後、調理室で100年前からこの学校で伝わる天ぷらうどんを試しに作ってみようとして、部長さんの許可をもらって金庫を開けてレシピを出したの。
それを古びた封筒から取り出した途端、空いていたすぐ近くの窓から急にマジックハンドみたいなのが伸びてきてレシピを掴んで窓の外に持っていってしまったの。慌てて窓から外を見ると、レシピを持った男が一目散に逃げていくところだったわ。
もちろん私は部長さんや他の部員たちにもことの次第を告げて外に出て追いかけたんだけど、もう誰もいなかったの。私は皆さんに泣いて謝ったわ。
部長さんたちは不可抗力だから仕方ないと言ってくれたけど、それ以来何となくそれまでに比べてみんなの私に対する態度がよそよそしくなったような気がするの。まあ、無理もないと思うわ。100年前から伝わる大切なレシピを結果として流出させてしまったのだから。」
「ひどい話ね。それじゃ京子ちゃんは文化祭に何を作るつもりなの?」
「うん、それなんだけどね。いきなり全くの白紙状態になっちゃったからどうしたらわからないって感じ。
でもそれよりも私のせいで100年前に先輩が苦労の末作った、世界でたった一つの貴重なレシピが奪われてしまったことがショックでこの頃よく眠れないの。」
と言ってハラハラと涙を流した。
デイジーはシャトーに帰ると研究室に閉じこもったままの爺にも来てもらって相談をした。モンちゃんやリスくんも一緒に考えてくれた。爺はしばらく考えていたが、
「マドモワゼル、お友達を苦境から救ってあげたいというお気持ちはとても大切じゃが、犯人がどこの何者か分からない以上どうにもなりませんな。仕方ないですな。」
「爺、私が幼い頃、今は亡きお父様からいろいろな魔法を教わる中で、絶対に使ってはいけない禁断の魔法を3つ教えてくれたわ。使ってはいけないというのは、もしそのうちどれか一つでも使うと体にかなりの負担がかかって、場合によっては命にも関わるからなんだって。
だったら使用してはいけないと言いながら教えるなんて矛盾してると思うかもしれないけれど、何か大変な危険にさらされるなど状況によっては使えるように教えてくれたみたい。
その一つは爺もよく知っているはずよ。私の好きなヴァイオリンを使った魔法よ。確かこの魔法を使えばレシピがどこにあるのか探し当てることができるはずよ。」
「マドモアゼル、それは絶対にいけません。あれは体に大変な負担をかける魔法です。場合によっては命の危険も懸念されるほどの魔法です。そのお友達にも同情しますが、これは仕方ないことなのです。
人生には色々と思ったようにいかないことがあるのですよ、お嬢様。いいですか、あの魔法を使うことはこの爺が絶対に許しません。よろしいですね。」
デイジーは返事をしなかった。そんな彼女の様子を見て、幼少時から彼女の性格をよく知っている爺は一抹の不安を感じた。
翌日の放課後、デイジーは体調が悪いと言って部活を休み、ヴァイオリンを持つと誰にも気づかれないように注意しながら調理室へ向かった。今日は調理部の活動は休みの日で、部屋には誰もいない。
部屋に入るとデイジーはヴァイオリンを構え、マックスブルッフのコンチェルト第2楽章を弾きはじめた。美しい幻想曲だ。曲を弾きながらデイジーは目をつぶって唱えた。
「校庭、そしてこの周辺の全ての草木よ、花よ、私に教えておくれ、10日前の午後、ここで盗みをはたらいて逃げていった男が辿った道を、そして今どこにいるのかを。」
曲の後半に差しかかったところでデイジーの脳裏にある場面が映し出された。そこには校舎から逃げていく男の姿が、まるで防犯カメラの映像を見ているかのようにはっきりと見えた。そしてそのまま男の姿を追っていくと、1キロほど行ったあたりだろうか、林の中に小さな小屋があり、その中に入っていくのが見えた。
「そうか、そこにあるわけね。ただそのレシピが他に流出して高値で売られたりしていないといいんだけど。あっ、うっ…」デイジーは急に意識を失ってしまった。
それを古びた封筒から取り出した途端、空いていたすぐ近くの窓から急にマジックハンドみたいなのが伸びてきてレシピを掴んで窓の外に持っていってしまったの。慌てて窓から外を見ると、レシピを持った男が一目散に逃げていくところだったわ。
もちろん私は部長さんや他の部員たちにもことの次第を告げて外に出て追いかけたんだけど、もう誰もいなかったの。私は皆さんに泣いて謝ったわ。
部長さんたちは不可抗力だから仕方ないと言ってくれたけど、それ以来何となくそれまでに比べてみんなの私に対する態度がよそよそしくなったような気がするの。まあ、無理もないと思うわ。100年前から伝わる大切なレシピを結果として流出させてしまったのだから。」
「ひどい話ね。それじゃ京子ちゃんは文化祭に何を作るつもりなの?」
「うん、それなんだけどね。いきなり全くの白紙状態になっちゃったからどうしたらわからないって感じ。
でもそれよりも私のせいで100年前に先輩が苦労の末作った、世界でたった一つの貴重なレシピが奪われてしまったことがショックでこの頃よく眠れないの。」
と言ってハラハラと涙を流した。
デイジーはシャトーに帰ると研究室に閉じこもったままの爺にも来てもらって相談をした。モンちゃんやリスくんも一緒に考えてくれた。爺はしばらく考えていたが、
「マドモワゼル、お友達を苦境から救ってあげたいというお気持ちはとても大切じゃが、犯人がどこの何者か分からない以上どうにもなりませんな。仕方ないですな。」
「爺、私が幼い頃、今は亡きお父様からいろいろな魔法を教わる中で、絶対に使ってはいけない禁断の魔法を3つ教えてくれたわ。使ってはいけないというのは、もしそのうちどれか一つでも使うと体にかなりの負担がかかって、場合によっては命にも関わるからなんだって。
だったら使用してはいけないと言いながら教えるなんて矛盾してると思うかもしれないけれど、何か大変な危険にさらされるなど状況によっては使えるように教えてくれたみたい。
その一つは爺もよく知っているはずよ。私の好きなヴァイオリンを使った魔法よ。確かこの魔法を使えばレシピがどこにあるのか探し当てることができるはずよ。」
「マドモアゼル、それは絶対にいけません。あれは体に大変な負担をかける魔法です。場合によっては命の危険も懸念されるほどの魔法です。そのお友達にも同情しますが、これは仕方ないことなのです。
人生には色々と思ったようにいかないことがあるのですよ、お嬢様。いいですか、あの魔法を使うことはこの爺が絶対に許しません。よろしいですね。」
デイジーは返事をしなかった。そんな彼女の様子を見て、幼少時から彼女の性格をよく知っている爺は一抹の不安を感じた。
翌日の放課後、デイジーは体調が悪いと言って部活を休み、ヴァイオリンを持つと誰にも気づかれないように注意しながら調理室へ向かった。今日は調理部の活動は休みの日で、部屋には誰もいない。
部屋に入るとデイジーはヴァイオリンを構え、マックスブルッフのコンチェルト第2楽章を弾きはじめた。美しい幻想曲だ。曲を弾きながらデイジーは目をつぶって唱えた。
「校庭、そしてこの周辺の全ての草木よ、花よ、私に教えておくれ、10日前の午後、ここで盗みをはたらいて逃げていった男が辿った道を、そして今どこにいるのかを。」
曲の後半に差しかかったところでデイジーの脳裏にある場面が映し出された。そこには校舎から逃げていく男の姿が、まるで防犯カメラの映像を見ているかのようにはっきりと見えた。そしてそのまま男の姿を追っていくと、1キロほど行ったあたりだろうか、林の中に小さな小屋があり、その中に入っていくのが見えた。
「そうか、そこにあるわけね。ただそのレシピが他に流出して高値で売られたりしていないといいんだけど。あっ、うっ…」デイジーは急に意識を失ってしまった。
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