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第3章 新たな勇者編

新人戦

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「ふぅ~」

俺は念入りに準備体操をする。途中で怪我をするといけないからな。

「それでは!まず、予選を始めるぞ!」

隊長が俺たちに呼びかける。
「最初の試合は····スゥ・トーラとマリル・ホーネンスだ!」

スゥは少し小柄だ。それに対してマリルはとても大きい。いや、大きく見えてしまうというのが正解か。
スゥとマリルが闘技場の真ん中で向かい合う。

「カウント!始め!」
「10!9!8!」

2人はそれぞれの武器を構える。スゥは杖、マリルは剣。遠距離から攻撃出来るスゥは少し有利と見た。

「7!6!5!4!3!」

スゥは後ろに、マリルは前に体重を乗せる。この戦いはなかなか面白くなりそうだ。

「2!1!」

場の空気が一気に凍り付く。

「0!」

その瞬間、スゥの周りに少し大きい魔法陣が現れる。あの大きさは恐らく連射系の魔法だろう。そしてマリルは真っ直ぐスゥに向かっている。

「風よ!我に集え!」
「ふっ!!」

「この勝負はスゥの勝ちだ」俺はそう考えた。その理由はただ1つ。マリルの足の速さではスゥの詠唱が終わるまでにスゥに剣を届かせることが出来ないからだ。

「『風弾ウィンド・ブレット!』」

スゥは詠唱を終えるとすぐさま魔法をマリルに放つ。しかしマリルは回避行動を取らなかった。ただひたすら真っ直ぐスゥに向かっていく。

「とった!!」

スゥは自らの勝利を確信した。しかし、マリルに当たる直前、スゥの魔法は別の方向に逸れていった。

「何!?」

マリルはスゥの魔法を剣を絶妙な角度に傾けることで受け流したのだ。だがあれは数年の努力で手に入るものでは無い。何故ならあの技は0.01ミリでもズレれば成功しない。恐らく何代にも渡ってその技術を磨いてきたのだろう。

マリルの行動に驚いたスゥは自らの魔法のイメージを崩してしまった。
その瞬間、スゥは気付いた。マリルと自分の距離はもうほとんどない事に。

「しまった!」
「はぁぁぁ!!」

マリルはスゥに剣を向け、そしてスゥに当たる前に止めた。

「勝者!マリル・ホーネンス!」

マリルとスゥは互いに礼をし、捌ける。

「マリル・ホーネンス····めちゃめちゃ強いな····」

あの剣技は侮れないな。魔法を受け流すのならば剣を受け流すのも容易なはずだ。

「次は!アカツキ・カケルとアル・ザキルの試合だ!」

隊長が俺たちに呼びかける。

「次は俺か····」

アル・ザキルは非常に大柄な男だが、魔法使いというよく分からない組み合わせの騎士だ。
俺とザキルは闘技場の真ん中で向かい合う。

「カウント!始め!」
「10!9!8!」

俺はファーストとセカンドの柄を握る。ザキルは杖を構える。杖を握っているアルの姿はめちゃめちゃ面白い。あの巨体で杖って····

「7!6!5!4!3!」

俺は足を肩幅くらいに開き、少し前傾姿勢になる。アルは先程の試合のスゥと同じように後ろに体重を乗せる。

「2!1!」
「すぅぅ····」

俺は思い切り息を吸う。アルは目を閉じ集中している。そして互いの覇気によって闘技場の空気が凍り付く。

「0!」
「はぁぁ!!」
「ふっ!!」

俺は一直線にザキルに向かう。アルはやはり大きく後ろに飛びながら魔法のイメージを作り上げる。

(すぐに魔法陣が現れない····ということは単発系の魔法だろう。ならば!)

俺は走りながらファーストとセカンドを鞘から抜く。そして更にスピードを上げる。しかし俺はある事に気付く。さすがに魔法陣が出るのが遅いと。
そして大きく1歩を踏もうとすると、足元に異変を感じた。

「まさか!!」

俺が踏もうとしている地面に魔法陣が隠されていたのだ。だが、俺の足はもう止まらない。
そしてその魔法陣を踏むと植物が生えてきた。

「くっ!」

その植物は目にも止まらぬ速さで俺の足に絡まっていく。そのせいか、俺は体勢を崩していた。

(まずい····だが!)

俺は植物をファーストとセカンドで切り裂く。そして前を向くが、既にアルの魔法陣は完成していた。

「『風の鉄槌ウィンド・ハンマー!』」
「間に合え!」

俺はマリルの動きを思い出した。

(一か八か!やるしかない!)

俺は咄嗟に剣をアルの魔法に向け、傾ける。

「はぁぁぁ!!」

そしてアルの魔法が俺の剣に当たる直前、魔法は別の方向に逸れていった。
そう、それは俺に舞い降りた神の奇跡だ。だが恐らく次はない。

俺は体勢を元に戻し、アルとの距離を一気に詰める。そして、

「『風の鉄槌ウィンド・ハンマー!』」
「何!?」

アルが使った魔法と同じ魔法を使用し、アルを吹き飛ばした。そして吹き飛んだアルが体勢を戻すまでにアルの元に行く。

そしてアルにファーストを振り下ろす。そして寸止めをした。

「しょ、勝者!アカツキ・カケル!」

俺はアルに礼をし、捌けようとする。しかし、アルに呼び止められた。

「アカツキ・カケル!」
「どうした?」
「何故お前が風の鉄槌ウィンド・ハンマーを使える?」
「え?普通は使えるだろ?」
「そんな訳ないだろ!あれは俺の家に伝わる魔法だ!お前が使える訳がないだろ!」

ちょっと待て····それは初耳だぞ?え?家ごとに伝統の魔法っていうのがあるのか?でも魔法なんてただのイメージじゃないのか?ん?ん?
俺が戸惑っていると、

「アカツキ・カケル!なぜお前が私の家に伝わる剣技を使えるのだ!」

マリル・ホーネンスが現れ、俺に質問をしてきた。

「ただの偶然だが?」
「偶然であの技が使えるわけないだろ!」
「だが、出来てしまったのは事実なんだからさ····」

俺はアルとマリルに完全に包囲され、逃げられなくなってしまった。
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