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第一章『嫌われ者の少年と翼の少女』
15.忘れていた弱さ
――日没後、フォルト王国の小村『バリサイ』
小さな柵で仕切られただけの静かな小村。その片隅で馬が荒く鼻を鳴らした。土を固めただけの広場に月光が差し、冷たい風が土埃を舞わせる。
一軒の家を訪れたハルトとダグラスは、玄関先で年老いた女性と話をしていた。
「わかりました。また前のところ辺りでしたら、テントを建てていただいてかまいませんよ」
「ありがとうございます、村長さん」
「寝るまでの間、できる手伝いがあれば言ってください」
ダグラスの提案に「あら」と驚いたような村長は、頬に手を添えて穏やかに笑った。
「じゃあ、井戸の水を汲んでいただけるかしら?若い子に頼みそびれてしまって」
「わかりました。ハルト、先に戻っててくれ」
その言葉に甘えて頷く。少し先で荷降ろしをするクレアとオリバーが見え、少し駆け足で砂地を鳴らし、二人に近づいた。
「手伝います」
「あっ、ハルトくんありがとう。でも、ほとんどオリバーさんがやってくれたから大丈夫よ」
「そうなんですね。オリバーさん、ありがとうございます」
「あぁ」
オリバーは軽く返事をして、無言のまま自身の馬車に戻った。やはり人付き合いは苦手なようだ。
「さっ、村の人たちが家に入っちゃう前にお話してきましょう!」
「……ですね」
対して、おしゃべりなクレアがハルトの腕を掴み、揚々と夜道を歩き始める。危うく風で取れそうになったフードを直すと、彼女は無邪気に笑顔を向けた。
――正直、自分ひとりではこんなふうに村人に声をかける勇気は出なかっただろう。だが、クレアが隣にいてくれるから、不思議と安心できる。
「すみませーん!」
「ん?な……なんですかな?」
クレアに呼び止められた初老の男性は、少し頬を赤らめて反応した。十中八九彼女の弾む胸のせいだが、気づかなかったことにする。
「この村の近くに遺跡があるって聞いたんですが、どんなものかご存知ないですか?」
「あ、あぁ。バリサイ遺跡ですな。見つかったのはまだワシも生まれとらんときですが、かなり小さくてボロボロだそうです」
男性の話を真剣に聞く。視線に気づいて照れるように頭をかいた男性は、少し逡巡した後に言葉を継いだ。
「えーっ、あるのは確か岩が積まれただけの小さな部屋で、なんでも、床いっぱいに円形の模様があったらしいです。ワシはそれが何かはわからんですがね」
「円形の模様……クレアさん、何か分かりますか?」
「んー、それだけじゃなんとも言えないわね。考えられるのは転送陣、封印陣、結界陣かしら?」
「確かに、あの遺跡の周りには強い魔物が寄りつかんで、結界の可能性はありそうですな」
クレアが腕を組んで顎を触りながら頷く。難しい顔で真剣に考えているあたり、本当に遺跡が好きなのだろうと感じた。商神の巫女の思わぬ一面だ。
それから、近くにいた数人に声をかけ、バリサイ遺跡について聴き込んだが、これ以上の情報は出てこなかった。
「――ありがとうございます」
「いえいえ、近頃は夜肌寒くなりましたので、暖かくして寝てくださいね」
若い女性との話を終えると、強い冷気を纏った風が吹き、クレアは組んでいた腕を摩った。ハルトも息の濁りが濃くなったのに気づき、次が最後の一人と決めて声をかける。
「あの、少しお話いいですか?」
振り返った男性はハルトの顔を見た瞬間、目を見開き、低く唸るように言った。
「――モンスターテイマー……」
その一言で、二人の背筋に冷たい戦慄が走った。同時にハルトは虚ろな瞳に手が震え、顔に一気に冷や汗を流す。
「……黙ってればバレないと思ったのか?魔物使いが村に入り込みやがって!」
その声は周囲の人々にも届き、ざわめきが広がっていく――
「モンスターテイマーだったのか?!」
「どうしよう、私話しちゃった……」
「村長呼ぶか?」
「いや、今すぐ追い出すぞ!」
この感じ、まただ。蔑まれ、卑下され、助けなどなく逃げるしかない。
「ちょ、ちょっと待って!なんでハルトくんがモンスターテイマーだって……それに彼がモンスターテイマーだったら何が悪いの?!」
「前に見たんだよ!こいつが川で魔物と飯食ってるのをな!!ボーンハウンドなんて村にけしかけられたらどうする?!俺はまだ死にたくない!」
「彼もグラちゃんもそんなことしない!」
庇ってくれているクレアの声が聞こえる。でも無駄だ。この世界は僕を受け入れない。半年前からずっと。
「……お前もこいつの仲間なんだろ?!みんな!この女の言葉に騙されるなー!」
「追い出せー!!」
「出ていけー!」
村人が団結してハルト、そしてクレアを糾弾する。その喧騒が耳に届いたダグラスと村長、そして馬車にいたオリバーが奥から見つめていた。
クレアには、目の前の光景が本当に自分が生まれた世界の光景とは思えなかった。彼はこんな現実の中で半年間も……胸を締め付ける痛みが苦しくて、心臓をギュッと握った。
「出ていけ!モンスターテイマーも、女も、他の仲間も村から出ていけー!!」
刹那――
『――ガッ』
「うっ……」
「ハルトくん?!」
ハルトの額に小石が飛来し、思わず地面にしゃがみ込んだ。流れ出た血が眉間を伝い、鼻先からぽたぽたと地面に落ちていく。
「僕だって……人間なのに……」
ハルトが絞り出した声は罵声に掠れ、暗い星空へ消えた。頭の痛みと胸の痛みに耐えきれず、流れた涙が鼻先で血と混じる。
「……ハルト、クレア、行こう」
ダグラスはハルトの手に布を手渡し、その手を誘導して額を抑えさせた。クレアはハルトの肩を支えながら、騒ぐ村人に唇を噛み締めて鋭い視線を向ける。口から零れかけた怒鳴り声を必死に飲み込み、胸の奥で怒りを押し殺した。
それでも止まぬ罵詈雑言に三人で並んで背を向ける。歩き始めた足の感覚が鈍く、そして重たかった。
――村を離れたあとも、夜風は鋭く冷たく、罵声が耳にこびりついて離れなかった。
「……ごめんなさい……僕のせいで……」
車輪が弾む音に消えるように、荷台に座り込むハルトは同じ言葉を繰り返す。まるで壊れた人形のように。
「ハルトくん、やめて……」
クレアは何度も否定するが、彼の震える声は止まらない。
その時、ハルトの頭の中では、過去の記憶が繰り返し響いていた――
『――モンスターテイマーを追い出せ!』
『いっそアイツも死んでくれたら――』
『――人間面してんじゃねーよ!』
『――モンスターテイマーは悪だ。常識だぜ?』
『追い出せー!!』『出ていけー!』
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
額に当てられた布は真っ赤に染まり、傷の深さが伺える。クレアは謝罪を続けるハルトの手をどかし、張り付く程濡れたその布を取った。床に落とすとべちゃり音を出して飛び散る。
左手でハルトの手を握り、右手でヒールをかける。暖かい光が傷を治癒していくと、傷が塞がっていく共にハルトの顔が歪み、再び涙がボロボロと溢れた。
「ハルトくん……君が抱えてたものは、こんなにも大きかったんだね。……ごめんね、気づいてあげられなくて。……もう大丈夫だよ」
彼の姿を見て瞳の中で灯りを揺らしたクレア。最後に綺麗な布を取り出し、額に残った血を拭きあげると、彼は悲痛な泣き声を夜道に響かせた。
――深夜
耳に僅かな寒さを感じる。辺りは静寂に包まれていた。ハルトは硬い寝床の感覚に違和感を覚えて目を覚まし、幕の隙間から入る柔らかいランタンの明かりで気づく。隣に一人の美しい女性が眠っていることに。
「……へ?!」
「んっ…………スー……スー……」
思わず出てしまった声を抑えるように手で口を塞ぐ。すると、外の明かりが陰り、振り返るとそこにはダグラスの姿があった。
「……身体は大丈夫か?」
「う、うん。ごめん、心配かけた」
「いや……。外で話そう。動けるか?」
「……うん、わかった」
クレアを起こさないようにそっと立ち上がり、ダグラスを追って外へ出た。そこは何の変哲もない草原地帯。夜気に草が揺れ、冷たく頬に刺さる。この時初めて、自分がクレアに顔を埋めて寝ていたのだと気づき、少し頬を赤らめた。
ダグラスが木箱を一つ持ってきて、ランタンの近くに置いた。「座ってくれ」と促されてそこに腰を下ろすと、向いにある木箱にダグラスが座った。
「……びっくりしただろ。クレアが一人で寝かせたくないって聞かなくてな。気まずくさせてたらすまない。許してやってくれ」
「う、ううん、僕こそ心配かけてごめん」
「……落ち着いたみたいでよかった」
穏やかな笑顔のダグラスは、夜空を見上げて呟いた。頭上には無数の星が冴え渡り、草を渡る夜風は冷たくも澄んでいた。遠くで馬の吐息が白く揺れ、湿った土と草の匂いが夜気に混じって漂っていた。
「ハルト……お前の立場をちゃんと理解してやれてなくて、悪かったな」
「……気にしないで、もう慣れっこだよ。旅に出てからすごく少ないくらい」
「……多分、俺なら耐えられない。お前はすごいやつだよ」
「ダグラス……。ううん、何度も折れてきたよ。今もそう。旅で忘れてたことを思い出したから。――僕は嫌われ者だって」
そう言って俯くハルトに、ダグラスはかける言葉を見つけられなかった。ただ、一緒にザバールを脱出し、共に暗殺者と戦ったはずの背中が、やけに小さく頼りなく見えた。胸の奥がきしむ。
「……明日アメントリには、二時間くらいで到着する。買い出しは……オリバーに行ってもらって、荷物を受け取って持ってきてくれないか?」
「うん、わかった。……やっぱり、オリバーには教えられない?」
「……すまない。信用してないわけじゃないんだ。ただ、教えるのはハルトだけにしておきたい」
「そっか、わかった。ありがとう」
また二人の間に長い沈黙が走った。風が草を押し分け、サラサラと擦れる音が耳に届く。ハルトの弱々しい声に、どうしても次を話しかける勇気が出ない。背中を預けられると思えた『勇敢なハルト』と、世界に嫌われた『内気なハルト』、彼が見せる二つの姿が、ダグラスには危うく思えた。
「ダグラス、大丈夫だよ」
その時、ハルトは真上にある月を見つめて呟いた。
「確かに僕は嫌われ者で、ダグラスが思うよりずっとヘタレだけど、それは半年前からそうだから。僕は僕のできることをやるよ」
「……ありがとう」
ランタンの炎が一度大きく揺れ、影が草の上を波のように走った。ハルトの儚げな瞳に月が映り、僅かに上がっている口角が涙腺を緩ませた。
そして、荷台で膝を抱えるクレアの目は僅かに潤み、それを隠すように腕に顔を埋めた。
しばらく静寂に身を委ねていると、近くに建てられていたテントから音がして、オリバーがゆっくりと顔を出した。
「ハルト、災難だったな」
「うん、迷惑かけてごめんね」
「気にしなくていい。……ダグラス、見張りを変わろう」
「あぁ、悪いな。ハルト、お前も休め」
「うん、ありがとう」
ハルトは「おやすみ」と一言残し、ダグラスが建ててくれていたテントの中に吸い込まれていった。
それを見送ったダグラスは馬車の荷台にそっと近づく。
「お前もテントで寝ろよ」
「ぐずっ……うん」
クレアは声を絞り出すように返事をした。
――翌朝、フォルト王国中央付近『名もない草原』
朝日がテントを照らし、透けた光が優しく瞼を叩く。重い体を持ち上げて、ゆっくり身体を起こしたハルトは、怠さを感じる足を踏ん張り、ようやくテントの外へでた。
「あっ、ハルトくん、おはよう」
外に出ると一番に、全身に朝日を浴びるクレアが気づいて話しかけた。ひんやりとした風に揺れる髪と眠気に細める目、穏やかにはにかむ口元が一枚の絵のように美しい。
昨晩のこともあり恥ずかしさが滲んでしまったハルトは、少し頬を赤らめて視線を外した。
「えっと、おはようございます」
「朝ごはん、ダグラスが昨日村長さんにもらったパンで何か作るって。ステラたち呼んで、少し待っててくれる?」
「はい。わかりました」
ハルトを見つめていたクレアはハルトの顔を見て、一瞬思い出したように瞼を持ち上げた。そして再び穏やかな表情に戻り、鼻で深く新鮮な空気を取り込んだ。
「うん!じゃあ、私身体拭いてくるね」
クレアはそう言って、そそくさとテントへ戻っていった。若干接し方に困っているように見えて申し訳ない。
ハルトは少し広い場所に行き、一度深呼吸して肺に空気を取り込むと、右手を前に突き出して仲間の名前を呼んだ。
「グラ、アン、ステラ、出てきて」
ズプズプと闇から顔を出し、各々に身体を伸ばす。ステラは朝日を見て目を細めてから、周りの景色を見渡して首を傾げた。
「……あら?ハルトさん、昨晩は結局野宿されたんですか?」
「うん、ちょっと……トラブルがあってね」
「ハルト、おはよウ」
「ワン!」
「うん。アン、グラ、おはよう」
駆け寄ってきたグラの頭を撫でてやると、細い尻尾をブンブン振って、喜びを表現した。
「今日は出発して二時間後にはアメントリに到着するから、その頃にはまたアビスに戻ってね」
「わかっタ」
「ワン!」
「わかりました……ハルトさん」
「うん?なに?」
「……いえ、やっぱりなんでもありません。困ったらいつでも呼んでくださいね」
「……うん、ありがとう」
ステラはさすが母親……ということだろう。何かを察したように眉を下げ、困ったように笑みを浮かべていた。
ハルトも一度テントに戻り、濡らした布で顔や身体を拭いた。少し身を清められたようでスッキリする。それから外に出ると、ステラは出てきたクレアと談笑していて、グラとアンがその近くで追いかけっこ始めていた。
朝露に濡れた草を踏みしめ、冷たい風が頬を撫でていく。馬たちが鼻を鳴らし、草原に頭を下ろして草を貪っていた。ハルトはゆっくりと身体の向きを変え、自分のテントを片付け始める。
その時、後ろから近づく足音に気づき、腰を上げて振り向いた。
「あ、オリバーさん、おはようございます」
「あぁ」
短く返事をし、見つめてくる。どう反応すればいいかわからず苦笑いを浮かべると、彼は徐に右手に持っているものを無言で差し出した。
「えっと……これは?」
「武器が折れただろ?やる」
「えっ?」
包んでいる布を解き中身を見ると、革の鞘に刀身を隠した重みのあるナイフが露になった。そっと抜いて見ると、青く輝く刃が目に入り目を丸くする。
「オリバーさん!これって相当いい物なんじゃ?!」
「かまわない。以前仕留めた盗賊が持っていたものだ。手入れはしていたが俺は扱えないからな」
「あ、ありがとうございます!」
悩んでいた事を忘れてしまうほどの品に、ハルトは思わず大声でお礼をしていた。それを聞いたクレアとステラが、ホッとしたように見つめてきて、少しだけ恥ずかしさを覚える。
オリバーはいつも通り「あぁ」とだけ残し、ダグラスのところへ歩いていった。
もう一度鞘から抜き、その全貌を見る。濃い青が朝日を反射して煌めき、尖った切先が強く輝いた。柄は滑り止めの布が巻かれていて鍔はなく、繋ぎ目も見当たらないことから、それが一つの素材で全て作り上げられたものだと分かる。
「……すごい」
ハルトはその言葉しか見つからないほどに感動し、しばらく刃を見つめ、感触を探るようにナイフを振った。
――やがて、パンと干し肉を煮込んだ簡素なスープの香りが、朝の草原に漂ってきて、ハルトはナイフを鞘にしまった。
鍋をかき混ぜるダグラスの横で、クレアが木皿を並べている。
「さ、できたぞ。冷めないうちに食べてくれ」
「わぁ、いい匂い!」
クレアがスプーンをすくい、ふぅふぅと息を吹きかける。その笑顔につられて、ハルトも少し肩の力を抜いた。
「……あの、ダグラス」
「ん?」
「今日は僕が手綱を握ってもいいかな? 身体を動かしてたほうが落ち着くんだ」
言いながら、ハルトは落としていた目線をゆっくり上げ、まっすぐにダグラスの瞳を見た。ほんのわずか震えが混じっていたが、それでも退かぬ意思を宿している。
ダグラスは一瞬だけ迷いを見せた。けれど昨夜の出来事を思い返したのか、すぐに大きな手でハルトの肩を軽く叩き、頷いた。
「……わかった。無理はするなよ」
「うん。ありがとう」
その一言で胸の奥が少しだけ温かくなる。ハルトはスプーンを握り直し、黙々と食事を口へ運んだ。味はよくわからなかったが、噛むごとに気持ちが落ち着いていく気がする。
早々に木皿を洗い、忘れていたテントを慌ただしく畳んで荷台に積み込む。仲間たちはそれぞれ片付けや馬の準備を進めていたが、時折ハルトの背に目を向けていた。心配する視線、信じる視線――それらが少し重くもあり、心強くもあった。
草原には朝の光が一層濃く差し込み、夜露に濡れた草葉がきらめいている。澄んだ空気を大きく吸い込み、ハルトは手綱を握った。
「よしっ」
ダグラスの号令に合わせ、仲間たちが次々と荷台へと乗り込んでいく。最後に振り返って、もう一度だけ草原を一瞥する。――さあ、進もう。
ハルトは両手で手綱を弾き、馬たちが力強く地を蹴る音を聞いた。
小さな柵で仕切られただけの静かな小村。その片隅で馬が荒く鼻を鳴らした。土を固めただけの広場に月光が差し、冷たい風が土埃を舞わせる。
一軒の家を訪れたハルトとダグラスは、玄関先で年老いた女性と話をしていた。
「わかりました。また前のところ辺りでしたら、テントを建てていただいてかまいませんよ」
「ありがとうございます、村長さん」
「寝るまでの間、できる手伝いがあれば言ってください」
ダグラスの提案に「あら」と驚いたような村長は、頬に手を添えて穏やかに笑った。
「じゃあ、井戸の水を汲んでいただけるかしら?若い子に頼みそびれてしまって」
「わかりました。ハルト、先に戻っててくれ」
その言葉に甘えて頷く。少し先で荷降ろしをするクレアとオリバーが見え、少し駆け足で砂地を鳴らし、二人に近づいた。
「手伝います」
「あっ、ハルトくんありがとう。でも、ほとんどオリバーさんがやってくれたから大丈夫よ」
「そうなんですね。オリバーさん、ありがとうございます」
「あぁ」
オリバーは軽く返事をして、無言のまま自身の馬車に戻った。やはり人付き合いは苦手なようだ。
「さっ、村の人たちが家に入っちゃう前にお話してきましょう!」
「……ですね」
対して、おしゃべりなクレアがハルトの腕を掴み、揚々と夜道を歩き始める。危うく風で取れそうになったフードを直すと、彼女は無邪気に笑顔を向けた。
――正直、自分ひとりではこんなふうに村人に声をかける勇気は出なかっただろう。だが、クレアが隣にいてくれるから、不思議と安心できる。
「すみませーん!」
「ん?な……なんですかな?」
クレアに呼び止められた初老の男性は、少し頬を赤らめて反応した。十中八九彼女の弾む胸のせいだが、気づかなかったことにする。
「この村の近くに遺跡があるって聞いたんですが、どんなものかご存知ないですか?」
「あ、あぁ。バリサイ遺跡ですな。見つかったのはまだワシも生まれとらんときですが、かなり小さくてボロボロだそうです」
男性の話を真剣に聞く。視線に気づいて照れるように頭をかいた男性は、少し逡巡した後に言葉を継いだ。
「えーっ、あるのは確か岩が積まれただけの小さな部屋で、なんでも、床いっぱいに円形の模様があったらしいです。ワシはそれが何かはわからんですがね」
「円形の模様……クレアさん、何か分かりますか?」
「んー、それだけじゃなんとも言えないわね。考えられるのは転送陣、封印陣、結界陣かしら?」
「確かに、あの遺跡の周りには強い魔物が寄りつかんで、結界の可能性はありそうですな」
クレアが腕を組んで顎を触りながら頷く。難しい顔で真剣に考えているあたり、本当に遺跡が好きなのだろうと感じた。商神の巫女の思わぬ一面だ。
それから、近くにいた数人に声をかけ、バリサイ遺跡について聴き込んだが、これ以上の情報は出てこなかった。
「――ありがとうございます」
「いえいえ、近頃は夜肌寒くなりましたので、暖かくして寝てくださいね」
若い女性との話を終えると、強い冷気を纏った風が吹き、クレアは組んでいた腕を摩った。ハルトも息の濁りが濃くなったのに気づき、次が最後の一人と決めて声をかける。
「あの、少しお話いいですか?」
振り返った男性はハルトの顔を見た瞬間、目を見開き、低く唸るように言った。
「――モンスターテイマー……」
その一言で、二人の背筋に冷たい戦慄が走った。同時にハルトは虚ろな瞳に手が震え、顔に一気に冷や汗を流す。
「……黙ってればバレないと思ったのか?魔物使いが村に入り込みやがって!」
その声は周囲の人々にも届き、ざわめきが広がっていく――
「モンスターテイマーだったのか?!」
「どうしよう、私話しちゃった……」
「村長呼ぶか?」
「いや、今すぐ追い出すぞ!」
この感じ、まただ。蔑まれ、卑下され、助けなどなく逃げるしかない。
「ちょ、ちょっと待って!なんでハルトくんがモンスターテイマーだって……それに彼がモンスターテイマーだったら何が悪いの?!」
「前に見たんだよ!こいつが川で魔物と飯食ってるのをな!!ボーンハウンドなんて村にけしかけられたらどうする?!俺はまだ死にたくない!」
「彼もグラちゃんもそんなことしない!」
庇ってくれているクレアの声が聞こえる。でも無駄だ。この世界は僕を受け入れない。半年前からずっと。
「……お前もこいつの仲間なんだろ?!みんな!この女の言葉に騙されるなー!」
「追い出せー!!」
「出ていけー!」
村人が団結してハルト、そしてクレアを糾弾する。その喧騒が耳に届いたダグラスと村長、そして馬車にいたオリバーが奥から見つめていた。
クレアには、目の前の光景が本当に自分が生まれた世界の光景とは思えなかった。彼はこんな現実の中で半年間も……胸を締め付ける痛みが苦しくて、心臓をギュッと握った。
「出ていけ!モンスターテイマーも、女も、他の仲間も村から出ていけー!!」
刹那――
『――ガッ』
「うっ……」
「ハルトくん?!」
ハルトの額に小石が飛来し、思わず地面にしゃがみ込んだ。流れ出た血が眉間を伝い、鼻先からぽたぽたと地面に落ちていく。
「僕だって……人間なのに……」
ハルトが絞り出した声は罵声に掠れ、暗い星空へ消えた。頭の痛みと胸の痛みに耐えきれず、流れた涙が鼻先で血と混じる。
「……ハルト、クレア、行こう」
ダグラスはハルトの手に布を手渡し、その手を誘導して額を抑えさせた。クレアはハルトの肩を支えながら、騒ぐ村人に唇を噛み締めて鋭い視線を向ける。口から零れかけた怒鳴り声を必死に飲み込み、胸の奥で怒りを押し殺した。
それでも止まぬ罵詈雑言に三人で並んで背を向ける。歩き始めた足の感覚が鈍く、そして重たかった。
――村を離れたあとも、夜風は鋭く冷たく、罵声が耳にこびりついて離れなかった。
「……ごめんなさい……僕のせいで……」
車輪が弾む音に消えるように、荷台に座り込むハルトは同じ言葉を繰り返す。まるで壊れた人形のように。
「ハルトくん、やめて……」
クレアは何度も否定するが、彼の震える声は止まらない。
その時、ハルトの頭の中では、過去の記憶が繰り返し響いていた――
『――モンスターテイマーを追い出せ!』
『いっそアイツも死んでくれたら――』
『――人間面してんじゃねーよ!』
『――モンスターテイマーは悪だ。常識だぜ?』
『追い出せー!!』『出ていけー!』
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
額に当てられた布は真っ赤に染まり、傷の深さが伺える。クレアは謝罪を続けるハルトの手をどかし、張り付く程濡れたその布を取った。床に落とすとべちゃり音を出して飛び散る。
左手でハルトの手を握り、右手でヒールをかける。暖かい光が傷を治癒していくと、傷が塞がっていく共にハルトの顔が歪み、再び涙がボロボロと溢れた。
「ハルトくん……君が抱えてたものは、こんなにも大きかったんだね。……ごめんね、気づいてあげられなくて。……もう大丈夫だよ」
彼の姿を見て瞳の中で灯りを揺らしたクレア。最後に綺麗な布を取り出し、額に残った血を拭きあげると、彼は悲痛な泣き声を夜道に響かせた。
――深夜
耳に僅かな寒さを感じる。辺りは静寂に包まれていた。ハルトは硬い寝床の感覚に違和感を覚えて目を覚まし、幕の隙間から入る柔らかいランタンの明かりで気づく。隣に一人の美しい女性が眠っていることに。
「……へ?!」
「んっ…………スー……スー……」
思わず出てしまった声を抑えるように手で口を塞ぐ。すると、外の明かりが陰り、振り返るとそこにはダグラスの姿があった。
「……身体は大丈夫か?」
「う、うん。ごめん、心配かけた」
「いや……。外で話そう。動けるか?」
「……うん、わかった」
クレアを起こさないようにそっと立ち上がり、ダグラスを追って外へ出た。そこは何の変哲もない草原地帯。夜気に草が揺れ、冷たく頬に刺さる。この時初めて、自分がクレアに顔を埋めて寝ていたのだと気づき、少し頬を赤らめた。
ダグラスが木箱を一つ持ってきて、ランタンの近くに置いた。「座ってくれ」と促されてそこに腰を下ろすと、向いにある木箱にダグラスが座った。
「……びっくりしただろ。クレアが一人で寝かせたくないって聞かなくてな。気まずくさせてたらすまない。許してやってくれ」
「う、ううん、僕こそ心配かけてごめん」
「……落ち着いたみたいでよかった」
穏やかな笑顔のダグラスは、夜空を見上げて呟いた。頭上には無数の星が冴え渡り、草を渡る夜風は冷たくも澄んでいた。遠くで馬の吐息が白く揺れ、湿った土と草の匂いが夜気に混じって漂っていた。
「ハルト……お前の立場をちゃんと理解してやれてなくて、悪かったな」
「……気にしないで、もう慣れっこだよ。旅に出てからすごく少ないくらい」
「……多分、俺なら耐えられない。お前はすごいやつだよ」
「ダグラス……。ううん、何度も折れてきたよ。今もそう。旅で忘れてたことを思い出したから。――僕は嫌われ者だって」
そう言って俯くハルトに、ダグラスはかける言葉を見つけられなかった。ただ、一緒にザバールを脱出し、共に暗殺者と戦ったはずの背中が、やけに小さく頼りなく見えた。胸の奥がきしむ。
「……明日アメントリには、二時間くらいで到着する。買い出しは……オリバーに行ってもらって、荷物を受け取って持ってきてくれないか?」
「うん、わかった。……やっぱり、オリバーには教えられない?」
「……すまない。信用してないわけじゃないんだ。ただ、教えるのはハルトだけにしておきたい」
「そっか、わかった。ありがとう」
また二人の間に長い沈黙が走った。風が草を押し分け、サラサラと擦れる音が耳に届く。ハルトの弱々しい声に、どうしても次を話しかける勇気が出ない。背中を預けられると思えた『勇敢なハルト』と、世界に嫌われた『内気なハルト』、彼が見せる二つの姿が、ダグラスには危うく思えた。
「ダグラス、大丈夫だよ」
その時、ハルトは真上にある月を見つめて呟いた。
「確かに僕は嫌われ者で、ダグラスが思うよりずっとヘタレだけど、それは半年前からそうだから。僕は僕のできることをやるよ」
「……ありがとう」
ランタンの炎が一度大きく揺れ、影が草の上を波のように走った。ハルトの儚げな瞳に月が映り、僅かに上がっている口角が涙腺を緩ませた。
そして、荷台で膝を抱えるクレアの目は僅かに潤み、それを隠すように腕に顔を埋めた。
しばらく静寂に身を委ねていると、近くに建てられていたテントから音がして、オリバーがゆっくりと顔を出した。
「ハルト、災難だったな」
「うん、迷惑かけてごめんね」
「気にしなくていい。……ダグラス、見張りを変わろう」
「あぁ、悪いな。ハルト、お前も休め」
「うん、ありがとう」
ハルトは「おやすみ」と一言残し、ダグラスが建ててくれていたテントの中に吸い込まれていった。
それを見送ったダグラスは馬車の荷台にそっと近づく。
「お前もテントで寝ろよ」
「ぐずっ……うん」
クレアは声を絞り出すように返事をした。
――翌朝、フォルト王国中央付近『名もない草原』
朝日がテントを照らし、透けた光が優しく瞼を叩く。重い体を持ち上げて、ゆっくり身体を起こしたハルトは、怠さを感じる足を踏ん張り、ようやくテントの外へでた。
「あっ、ハルトくん、おはよう」
外に出ると一番に、全身に朝日を浴びるクレアが気づいて話しかけた。ひんやりとした風に揺れる髪と眠気に細める目、穏やかにはにかむ口元が一枚の絵のように美しい。
昨晩のこともあり恥ずかしさが滲んでしまったハルトは、少し頬を赤らめて視線を外した。
「えっと、おはようございます」
「朝ごはん、ダグラスが昨日村長さんにもらったパンで何か作るって。ステラたち呼んで、少し待っててくれる?」
「はい。わかりました」
ハルトを見つめていたクレアはハルトの顔を見て、一瞬思い出したように瞼を持ち上げた。そして再び穏やかな表情に戻り、鼻で深く新鮮な空気を取り込んだ。
「うん!じゃあ、私身体拭いてくるね」
クレアはそう言って、そそくさとテントへ戻っていった。若干接し方に困っているように見えて申し訳ない。
ハルトは少し広い場所に行き、一度深呼吸して肺に空気を取り込むと、右手を前に突き出して仲間の名前を呼んだ。
「グラ、アン、ステラ、出てきて」
ズプズプと闇から顔を出し、各々に身体を伸ばす。ステラは朝日を見て目を細めてから、周りの景色を見渡して首を傾げた。
「……あら?ハルトさん、昨晩は結局野宿されたんですか?」
「うん、ちょっと……トラブルがあってね」
「ハルト、おはよウ」
「ワン!」
「うん。アン、グラ、おはよう」
駆け寄ってきたグラの頭を撫でてやると、細い尻尾をブンブン振って、喜びを表現した。
「今日は出発して二時間後にはアメントリに到着するから、その頃にはまたアビスに戻ってね」
「わかっタ」
「ワン!」
「わかりました……ハルトさん」
「うん?なに?」
「……いえ、やっぱりなんでもありません。困ったらいつでも呼んでくださいね」
「……うん、ありがとう」
ステラはさすが母親……ということだろう。何かを察したように眉を下げ、困ったように笑みを浮かべていた。
ハルトも一度テントに戻り、濡らした布で顔や身体を拭いた。少し身を清められたようでスッキリする。それから外に出ると、ステラは出てきたクレアと談笑していて、グラとアンがその近くで追いかけっこ始めていた。
朝露に濡れた草を踏みしめ、冷たい風が頬を撫でていく。馬たちが鼻を鳴らし、草原に頭を下ろして草を貪っていた。ハルトはゆっくりと身体の向きを変え、自分のテントを片付け始める。
その時、後ろから近づく足音に気づき、腰を上げて振り向いた。
「あ、オリバーさん、おはようございます」
「あぁ」
短く返事をし、見つめてくる。どう反応すればいいかわからず苦笑いを浮かべると、彼は徐に右手に持っているものを無言で差し出した。
「えっと……これは?」
「武器が折れただろ?やる」
「えっ?」
包んでいる布を解き中身を見ると、革の鞘に刀身を隠した重みのあるナイフが露になった。そっと抜いて見ると、青く輝く刃が目に入り目を丸くする。
「オリバーさん!これって相当いい物なんじゃ?!」
「かまわない。以前仕留めた盗賊が持っていたものだ。手入れはしていたが俺は扱えないからな」
「あ、ありがとうございます!」
悩んでいた事を忘れてしまうほどの品に、ハルトは思わず大声でお礼をしていた。それを聞いたクレアとステラが、ホッとしたように見つめてきて、少しだけ恥ずかしさを覚える。
オリバーはいつも通り「あぁ」とだけ残し、ダグラスのところへ歩いていった。
もう一度鞘から抜き、その全貌を見る。濃い青が朝日を反射して煌めき、尖った切先が強く輝いた。柄は滑り止めの布が巻かれていて鍔はなく、繋ぎ目も見当たらないことから、それが一つの素材で全て作り上げられたものだと分かる。
「……すごい」
ハルトはその言葉しか見つからないほどに感動し、しばらく刃を見つめ、感触を探るようにナイフを振った。
――やがて、パンと干し肉を煮込んだ簡素なスープの香りが、朝の草原に漂ってきて、ハルトはナイフを鞘にしまった。
鍋をかき混ぜるダグラスの横で、クレアが木皿を並べている。
「さ、できたぞ。冷めないうちに食べてくれ」
「わぁ、いい匂い!」
クレアがスプーンをすくい、ふぅふぅと息を吹きかける。その笑顔につられて、ハルトも少し肩の力を抜いた。
「……あの、ダグラス」
「ん?」
「今日は僕が手綱を握ってもいいかな? 身体を動かしてたほうが落ち着くんだ」
言いながら、ハルトは落としていた目線をゆっくり上げ、まっすぐにダグラスの瞳を見た。ほんのわずか震えが混じっていたが、それでも退かぬ意思を宿している。
ダグラスは一瞬だけ迷いを見せた。けれど昨夜の出来事を思い返したのか、すぐに大きな手でハルトの肩を軽く叩き、頷いた。
「……わかった。無理はするなよ」
「うん。ありがとう」
その一言で胸の奥が少しだけ温かくなる。ハルトはスプーンを握り直し、黙々と食事を口へ運んだ。味はよくわからなかったが、噛むごとに気持ちが落ち着いていく気がする。
早々に木皿を洗い、忘れていたテントを慌ただしく畳んで荷台に積み込む。仲間たちはそれぞれ片付けや馬の準備を進めていたが、時折ハルトの背に目を向けていた。心配する視線、信じる視線――それらが少し重くもあり、心強くもあった。
草原には朝の光が一層濃く差し込み、夜露に濡れた草葉がきらめいている。澄んだ空気を大きく吸い込み、ハルトは手綱を握った。
「よしっ」
ダグラスの号令に合わせ、仲間たちが次々と荷台へと乗り込んでいく。最後に振り返って、もう一度だけ草原を一瞥する。――さあ、進もう。
ハルトは両手で手綱を弾き、馬たちが力強く地を蹴る音を聞いた。
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