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第一章『嫌われ者の少年と翼の少女』
18. 覚悟の先に見えるもの
――夕刻、王都サフィーア中央区『ディートリッヒ商会本部』
空は曇天。遠くは僅かに赤みを帯びていたが、大地は既に暗闇に飲まれ、点々と街灯が灯りはじめた。湿気をまとった冷たい風がマントを煽り、激しい嵐を予感させる。
フードが飛ばないよう押さえながら、やっとの思いでディートリッヒ商会の本部へたどり着いたハルト。
以前のように躊躇する余裕もなく大きなガラス扉を開く。中には数人の商会員がいたが、一番に気づいて駆けつけたのは、あの日の受付係の男だった。
「ハルト様!お待ちしておりました。以前のご無礼、大変申し訳ございません」
「い、いえ!頭を上げてください」
屈託のない謝罪の言葉に、どう返すべきか言葉を失った。
確かに彼が過去に放った言葉は、僕を深く傷つけた。だが、それは彼なりの正義で、仕事だったと今は理解している。
怒りに縛られるよりも、今は前進を選ぶべきだ――そう自分に言い聞かせ、静かに息を整えた。
「本当に大丈夫です。あなたの立場であれば、当然のことをしたんですから。気にしていません」
「……ありがとうございます」
ゆっくりと顔を上げた彼の拳は、かすかに震えていた。
「……ケハンさんはいらっしゃいますか?」
「はい。個室へご案内します」
彼に続いて歩き始める。その背中を見つめながら、ハルトは僅かに微笑んだ。
――変わってくれる人もいるんだ。そう心を動かされながら。
通されたのは以前と同じ部屋だった。相変わらず豪華な装飾が目を見張り、ソファはフカフカで落ち着かない。
あの日、居心地の悪さと屈辱に押し潰されそうになった記憶が胸をよぎる。――それでも、今は同じ場所に立っている自分が、少しだけ違って見えた。
室内の細かな装飾に目を凝らしていると、ノック音が二回響いた後、少し待って扉が開かれた。
「お待たせ致しました」
「ケハンさん、お久しぶりです」
「はい。おかえりをお待ちしておりました」
ケハンは軽く会釈をすると、以前と同じ構図で目の前に座り、まっすぐ目を見て口を開いた。
「それで……クレア副会長は?」
「はい、無事です。事情があって場所は話せませんが、安全な場所に隠れています」
そう言いながら、ハルトは手に持っていた一枚の紙をテーブルに置いた。少し鼓動を早めながら指先で滑らせ、ケハンに差し出す。
それを開いたケハンの眉が僅かに動く。
『副会長に同行した二人の商会員が裏切り者でした。他にも仲間がいるかもしれません。調査してください』
そう書いた紙を凝視して固まったケハン。――数秒後、目を閉じて長く息を吐き出すと、中指で軽く眼鏡を持ち上げた。
「わかりました。できる限りの協力はさせていただきます。何かあればご相談ください。……副会長を、よろしくお願いします」
「……はい。必ず助けます」
頭を上げた彼と目線を交わす。眼鏡越しに伝わる怒りや覚悟は、ハルトの心をざわつかせた。
「では、今日は失礼します」
「はい。またいつでもお越しください」
その言葉を背に受けながら、ハルトは静かに部屋を出た。胸の奥には、わずかな安堵と、それを凌駕する緊張を残していた。
――
僅か十分程度の会談だったが、商会を出た時には夜が訪れていた。強風に僅かな雨が混ざり、街灯に照らされながら地に落ちる。
風を避けるように身を縮め、フードの端を引いて走り出す。険しく眉を寄せ、唇を固く結んだまま石畳を蹴った。
石畳を踏みしめ、濡れた街灯の光を背に路地を抜ける。雨に追われるように歩みを速め、やがて見慣れた扉の前へとたどり着いた。
勢いよく開き、ボロボロの我が家に飛び込む。力を込めてドアノブを引くと、直後、外の嵐が一層大きく唸りを上げた。
「ふぅ、今夜は荒れそうだな……。グラ、アン、ステラ、出てきて」
狭い部屋で右手をかざす。漆黒の渦が三つ現れ、仲間たちはゆっくりと浮き上がった。
「ワン!」
「ん、おかえリ」
「ハルトさん、お疲れ様です」
「ありがとう、ただいま。昨日からずっと出してあげられなくてごめんね」
フードを外しながら謝るハルトに、ステラは穏やかに笑いかけた。足元に擦り寄るグラの硬い頭を撫でる。
そのまま背中の荷物を下ろし、ベッドに腰掛けようと目線を上げる。だが、そこは既にアンが寝転がり、大半を陣取ってしまっていた。
「……まぁ、いいか」
そう呟いた時、ステラが辺りをキョロキョロと見回しているのに気がついた。
「どうしたの?」
「いえ……ここがハルトさんの家なんですね」
「……うん、ボロボロでしょ?」
昨夜は疲れてすぐに寝てしまい、彼女にここを見せるのは初めてだった。
窓に貼り付けた板の隙間から風が鳴り、天井からは雨水が滴る。ひび割れた壁が僅かに揺れて、崩れるのではないかと危機感を煽った。
「えぇ……。でも、綺麗に使ってるんですね。ハルトさんの性格の良さがよく見えます」
「それはちょっと恥ずかしいな……。でも、ありがとう」
彼女は柔らかい表情で頷き、アンの隣にそっと腰を下ろした。硬いベッドが軽く軋み、一瞬心臓が跳ねた。
なんとか堪えてくれているのにホッとしてから、疲れた重い足で調理場に向かう。
「……さて、今日は鶏肉でいいかな?」
「ん」
「手伝いましょうか?」
「ううん、アンとゆっくりしてて」
ステラの暖かい言葉に触れて、僅かに寒さが和らいだ気がした。
思い返すと、アンが初めてここに来たあの日も、翼が折れた少女の為に鶏肉を焼いた。
それから旅が始まり、楽しいこと、辛いこと、苦しいこと、様々なことを経験した。
そして、クレアさんとステラを助け、アンの翼も治った今、ここでまた緩やかな時の中で鶏肉を焼いている。
――なんて幸せなんだろう。そう気づいた瞬間、この空間がどんな屋敷よりも贅沢で、特別なものに思えた。
「ママ、寒くなイ?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「……ふっ」
やっぱり賑やかだといいな。――自分が嫌われ者だと忘れられる。
――同刻、王都サフィーア『ノーランド伯爵邸』
横殴りの雨が窓に打ち付け、カタカタと音を鳴らす。不気味に揺れる照明の火が、座る男の分厚い頬を照らした。
「……それで、次はどう動くつもりだ?――オリバー」
ノーランド伯爵がワインを片手に睨みつける。影に立つオリバーは一切の感情を見せず淡々と答えた。
「明日の夜中にここを発ち、仲間と共にターゲットを奇襲します」
「ふんっ、失敗は許されんぞ。早く終わらせんと尻尾を掴まれる……わしも、あやつも――お前もな!」
伯爵の瞳が僅かに揺れる。冷静に話しているように見えたが、額にはいくつもの血管が浮き出て、鼻息荒く歯を食いしばっていた。
「……はい。必ず成功させます」
「次はない。さっさと失せろ!!」
「失礼いたします」
オリバーは一礼すると、短く息を吐き、背筋を伸ばしたままゆっくりと振り返る。
扉を開ける音が部屋に響き、軋む窓の音に混ざって消えた。
廊下を音もなく歩く背中は無表情に見えた。だが、胸の奥では何かが固く締まっているのが伝わってくる。
計画を遂行する覚悟と、何かしら拭い去れない影のようなものが張り付いていた。
黒服の男によって開かれた玄関をくぐると、彼は一度だけ肩越しに短く息をつく。それから音もなく闇の中へ溶けていった――。
直後、オリバーの背中を見送った黒服は扉を閉めると、一人静かに屋敷の中を歩き始めた。
とある一室の前で立ち止まり、聞き耳を立てるように中の様子を伺う。
やがて、無人と分かるとドアノブに手をかけ、慎重に押して中に足を踏み入れた。
「……」
息を殺し、足音を立てないように進む。大きく高級感のある机の前に立つと、慣れた手つきで引き出しの鍵を解錠した。
中にある書類や封筒の中身を流し見る。その刹那、一通の便箋の中身に目を止め、鋭い視線で読み込み始めた。その時――
『ガチャッ――』
ドアノブが軋む音が響き、男は反射的に扉を見た。
「ったく、いつまでも時間をかけおって……」
ノーランド伯爵が部屋に来て、机の前で立ち止まった。鍵を使って引き出しを開けると、新たに一枚の紙を入れて鍵をかけ直した。
机の下で小さく身を潜める影。目の前の足を動きを観察しながら、額から汗を流した。
直後、部屋を二度ノックする音が聞こえる。
「誰だ?」
「失礼いたします。ご食事の用意が整いましたので、お迎えにあがりました」
「……わかった。すぐにいく」
扉越しの声に導かれ、伯爵は何も疑う事なく部屋を後にした。
静寂の中で安堵の息を漏らす。そして静かに立ち上がると、窓を開けて屋根に立つ。少し離れた先で華麗に飛び降りると、雨風を凌げる路地裏まで走り抜けた。
一度来た道を振り返える。目を強く閉じ、喉奥で詰まっていた息を吐き出した。直後――濡れた黒服の襟を乱暴に引き剥がすと、隠されていた赤髪が夜気にさらされた。
「ふぅ……少し危なかったかしら?でも、これで全ての糸口は掴めたわね」
リオナの手に握られた手紙。その中に、この事件の深い闇の入口が綴られていた。
――更に同じ時、冒険者ギルド本部『執務室』
大荒れの夜景を眺め、一人静かに思考を巡らせる大男がいた。飛ばされた枯葉が窓に張り付き、大粒の雨に撃たれる様を、一人の少年に重ねる。
彼の後ろ姿を見つめる二つの影。その内の一人、山吹色の長い髪を左側で縛った少女が、沈黙に耐えかねたように口を開いた。
「ねぇマスター、そんなにモンスターテイマーの彼が心配なの?」
「……今回ハルトを危険に晒すつもりはなかった」
マスターの言葉は重い空気の中に落とされ、後悔の念を滲みだす。
すると次にもう一人、同じ山吹色で短く切りそろえられた髪の少女が、落ち着いた様子でマスターを見つめる。
「でもマスター、帰ってきた彼の顔、前に見た時よりかっこよかった」
「……あぁ。死線をくぐり抜けて、覚悟を決めたようだな。……だからこそ――」
勇気という光の下に、いつでも命を捨てられる影が潜んでいる――マスターにはそう見えた。
これはきっと、蔑まれて生きてきて、自尊心を削られ続けた結果なのだろう。
勇気の裏にある傷ついた心。それを見逃さなかったマスターの心境は、穏やかではいられなかった。
「……せめて、麻薬工場のほうは俺たちで片付けないとな」
「その為にあたしたちを呼んだんでしょ?しかもこんな嵐の中」
「それは悪かった。今日は仮眠室で泊まってくれ」
「わかった。それで……私たちは何をすればいい?」
短髪の少女の問いかけに、マスターは振り返り、彼女たちの姿を瞳に映した。
「明日の夜、全てが動く。その時、麻薬工場から証拠品の押収と職員の拘束を頼みたい。お前たちS級冒険者チーム『戦乙女――ヴァルキリー』に」
眉間に深く皺を寄せ、交互に二人と視線を交わす。その思いに応えるように、ヴァルキリーの二人は頷いて、まっすぐにマスターの瞳を覗いた。
「……あたしたちに任せて」
「絶対に失敗しない」
「あぁ。頼りにしてる」
二人の瞳に一瞬、鋼のような光が宿る。
マスターは深く息をつき、重荷を少しだけ降ろした。
――二日後の昼、アメントリ郊外『糸の森』
秋らしい澄んだ風が、一層鮮やかに色付いた木の葉を揺らす。一枚がひらりと地面に落ちると、その上から黒い足が踏みつけていった。
口を固く閉ざし、真っ直ぐに進む先だけを見つめ、身に纏う黒い外套の裾を揺らす。
オリバーは今まさに――依頼を成しに林道を歩いていたのだ。
その胸裏に、一人の少年の寂しげな笑顔が浮かぶ。立場が違えば、ハルトと友になる未来もあったのだろうか……。
一歩進むたびに、心の奥でかすかな痛みが広がる。
だが、首を振る。そんな感傷は許されない。
自分は暗殺ギルドの第三幹部。感情に流されず、冷徹に首を刎ねる執行人――その覚悟だけを握りしめる。
やがて、木立の奥に舞台となる木屋の屋根が見えた。
オリバーは一度だけ目を閉じ、深く息を吸う。胸に残る濁りを押し沈めるように。
そして静かに目を開けると、音もなく前へと歩を進めた。
木屋の目前まで近づき、悟られぬようゆっくり窓から中を覗く。その瞬間、オリバーの目が僅かな動揺の色を見せた。
「…………いない」
そこに住むはずの二人の姿が見当たらない。それどころか、あの日入れた荷物ごと、綺麗さっぱりなくなっている。
逃げられた――そう悟った途端、全身から力が抜け、感覚が鈍くなる。
どこで気づかれた? 何がまずかった? 自問自答が際限なく巡り、思考が崩れていく。微かに震える指先で頭を押さえる。耳の奥で脈打つ音が爆ぜ、心臓の鼓動が胸を打ち破るように早まる。視界の端はじわりと暗く狭まり、世界が閉じていく。
その時――
「二人はもうここにはいませんよ。……オリバーさん」
「?!!」
背後から降る馴染みのある声に、全身の毛穴が逆立つ。反射的に振り向く。反射的に振り返ると、そこに立つ少年の悲しげな顔が目に映った。その一瞬が、鋭い刃よりも深くオリバーの胸を抉った。
「――ハルト…………。何故わかった」
「……」
答えはない。ただ眉間に皺を寄せ、わずかに潤んだ瞳が彼を見返すだけ。
「何故わかったかと聞いている!!」
冷静さの欠けらも無い、彼らしくもない怒声が響いた。
「……ずっと気づいてました。あなたと水晶洞窟の前で話をした時から」
「……なんだと?」
二人の間に風が吹き、傍らの荒れた畑に伸びる枯れ草たちが、乾いた音を鳴らした。
「……あなたが背負うその剣。すごく丁寧に手入れしてましたよね。――ザバールのあの小屋の中でも」
オリバーは思わず息を飲み、目を見開いた。胸の奥がギリッと嫌な音を立てる。
「剣先を地面に付けて研いだ跡が、あの小屋にもありました。『人を簡単に信じるな』。あなたの言葉は、自身のことも指していたんでしょう?」
気がつくと彼は、情けなく地面を見つめていた。今まで犯してこなかった初歩的なミス。痕跡を残すなんて、暗殺者失格だ。心臓の鼓動が、今はただ痛みとして胸を突き破ろうとしている。
「今きっと……あなたは自分を責めていますよね」
「……当然だ」
その返事にハルトは首を振った。
「違いますよ。あなたは僕に『見つけて欲しかった』んです。あなた自身も気づかない、心の奥深くで」
その声は震えていたが、決して揺らぎはなかった。
オリバーは僅かに指先を反応させ、ゆっくりと顔を持ち上げた。
視線の先に映るのは、胸を掴んで訴えかけるように見つめる少年の姿。そして穏やかに笑いかけ、再び口が開かれた。
「不思議だったんです。ステラが探知であなたを見つけられなかったのが。蜘蛛の僅かな意識ですら、見つけられるのに」
あぁ、そこまで見破られていたのか……。次に続く言葉を理解し、オリバーは背筋を伸ばし、堂々と受け止める覚悟を決めた。
「最初は研鑽によるものだと思ったんです。でも、あなたはずっと、足音がしなかった」
「……あぁ」
「そして何より、暗殺者であるはずのあなたが、僕に同情してくれた」
「…………あぁ」
「モンスターテイマーは、魔物の好意に敏感です。契約する意思はなくても、それに近い信頼には気づけます」
「……そうなのか」
オリバーの視線とハルトの視線が静かに交わる。陽に透けた紅葉が、二人の間を揺らめき落ちた
「人魔の中には、人と変わらぬ姿を持つ種もいます。……オリバーさん、あなたがそうですよね?影人――『シャドウストーカー』」
オリバーは無言のまま、鋭くハルトを睨みつけた。そして初めて、確かな笑みを向けた。
空は曇天。遠くは僅かに赤みを帯びていたが、大地は既に暗闇に飲まれ、点々と街灯が灯りはじめた。湿気をまとった冷たい風がマントを煽り、激しい嵐を予感させる。
フードが飛ばないよう押さえながら、やっとの思いでディートリッヒ商会の本部へたどり着いたハルト。
以前のように躊躇する余裕もなく大きなガラス扉を開く。中には数人の商会員がいたが、一番に気づいて駆けつけたのは、あの日の受付係の男だった。
「ハルト様!お待ちしておりました。以前のご無礼、大変申し訳ございません」
「い、いえ!頭を上げてください」
屈託のない謝罪の言葉に、どう返すべきか言葉を失った。
確かに彼が過去に放った言葉は、僕を深く傷つけた。だが、それは彼なりの正義で、仕事だったと今は理解している。
怒りに縛られるよりも、今は前進を選ぶべきだ――そう自分に言い聞かせ、静かに息を整えた。
「本当に大丈夫です。あなたの立場であれば、当然のことをしたんですから。気にしていません」
「……ありがとうございます」
ゆっくりと顔を上げた彼の拳は、かすかに震えていた。
「……ケハンさんはいらっしゃいますか?」
「はい。個室へご案内します」
彼に続いて歩き始める。その背中を見つめながら、ハルトは僅かに微笑んだ。
――変わってくれる人もいるんだ。そう心を動かされながら。
通されたのは以前と同じ部屋だった。相変わらず豪華な装飾が目を見張り、ソファはフカフカで落ち着かない。
あの日、居心地の悪さと屈辱に押し潰されそうになった記憶が胸をよぎる。――それでも、今は同じ場所に立っている自分が、少しだけ違って見えた。
室内の細かな装飾に目を凝らしていると、ノック音が二回響いた後、少し待って扉が開かれた。
「お待たせ致しました」
「ケハンさん、お久しぶりです」
「はい。おかえりをお待ちしておりました」
ケハンは軽く会釈をすると、以前と同じ構図で目の前に座り、まっすぐ目を見て口を開いた。
「それで……クレア副会長は?」
「はい、無事です。事情があって場所は話せませんが、安全な場所に隠れています」
そう言いながら、ハルトは手に持っていた一枚の紙をテーブルに置いた。少し鼓動を早めながら指先で滑らせ、ケハンに差し出す。
それを開いたケハンの眉が僅かに動く。
『副会長に同行した二人の商会員が裏切り者でした。他にも仲間がいるかもしれません。調査してください』
そう書いた紙を凝視して固まったケハン。――数秒後、目を閉じて長く息を吐き出すと、中指で軽く眼鏡を持ち上げた。
「わかりました。できる限りの協力はさせていただきます。何かあればご相談ください。……副会長を、よろしくお願いします」
「……はい。必ず助けます」
頭を上げた彼と目線を交わす。眼鏡越しに伝わる怒りや覚悟は、ハルトの心をざわつかせた。
「では、今日は失礼します」
「はい。またいつでもお越しください」
その言葉を背に受けながら、ハルトは静かに部屋を出た。胸の奥には、わずかな安堵と、それを凌駕する緊張を残していた。
――
僅か十分程度の会談だったが、商会を出た時には夜が訪れていた。強風に僅かな雨が混ざり、街灯に照らされながら地に落ちる。
風を避けるように身を縮め、フードの端を引いて走り出す。険しく眉を寄せ、唇を固く結んだまま石畳を蹴った。
石畳を踏みしめ、濡れた街灯の光を背に路地を抜ける。雨に追われるように歩みを速め、やがて見慣れた扉の前へとたどり着いた。
勢いよく開き、ボロボロの我が家に飛び込む。力を込めてドアノブを引くと、直後、外の嵐が一層大きく唸りを上げた。
「ふぅ、今夜は荒れそうだな……。グラ、アン、ステラ、出てきて」
狭い部屋で右手をかざす。漆黒の渦が三つ現れ、仲間たちはゆっくりと浮き上がった。
「ワン!」
「ん、おかえリ」
「ハルトさん、お疲れ様です」
「ありがとう、ただいま。昨日からずっと出してあげられなくてごめんね」
フードを外しながら謝るハルトに、ステラは穏やかに笑いかけた。足元に擦り寄るグラの硬い頭を撫でる。
そのまま背中の荷物を下ろし、ベッドに腰掛けようと目線を上げる。だが、そこは既にアンが寝転がり、大半を陣取ってしまっていた。
「……まぁ、いいか」
そう呟いた時、ステラが辺りをキョロキョロと見回しているのに気がついた。
「どうしたの?」
「いえ……ここがハルトさんの家なんですね」
「……うん、ボロボロでしょ?」
昨夜は疲れてすぐに寝てしまい、彼女にここを見せるのは初めてだった。
窓に貼り付けた板の隙間から風が鳴り、天井からは雨水が滴る。ひび割れた壁が僅かに揺れて、崩れるのではないかと危機感を煽った。
「えぇ……。でも、綺麗に使ってるんですね。ハルトさんの性格の良さがよく見えます」
「それはちょっと恥ずかしいな……。でも、ありがとう」
彼女は柔らかい表情で頷き、アンの隣にそっと腰を下ろした。硬いベッドが軽く軋み、一瞬心臓が跳ねた。
なんとか堪えてくれているのにホッとしてから、疲れた重い足で調理場に向かう。
「……さて、今日は鶏肉でいいかな?」
「ん」
「手伝いましょうか?」
「ううん、アンとゆっくりしてて」
ステラの暖かい言葉に触れて、僅かに寒さが和らいだ気がした。
思い返すと、アンが初めてここに来たあの日も、翼が折れた少女の為に鶏肉を焼いた。
それから旅が始まり、楽しいこと、辛いこと、苦しいこと、様々なことを経験した。
そして、クレアさんとステラを助け、アンの翼も治った今、ここでまた緩やかな時の中で鶏肉を焼いている。
――なんて幸せなんだろう。そう気づいた瞬間、この空間がどんな屋敷よりも贅沢で、特別なものに思えた。
「ママ、寒くなイ?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「……ふっ」
やっぱり賑やかだといいな。――自分が嫌われ者だと忘れられる。
――同刻、王都サフィーア『ノーランド伯爵邸』
横殴りの雨が窓に打ち付け、カタカタと音を鳴らす。不気味に揺れる照明の火が、座る男の分厚い頬を照らした。
「……それで、次はどう動くつもりだ?――オリバー」
ノーランド伯爵がワインを片手に睨みつける。影に立つオリバーは一切の感情を見せず淡々と答えた。
「明日の夜中にここを発ち、仲間と共にターゲットを奇襲します」
「ふんっ、失敗は許されんぞ。早く終わらせんと尻尾を掴まれる……わしも、あやつも――お前もな!」
伯爵の瞳が僅かに揺れる。冷静に話しているように見えたが、額にはいくつもの血管が浮き出て、鼻息荒く歯を食いしばっていた。
「……はい。必ず成功させます」
「次はない。さっさと失せろ!!」
「失礼いたします」
オリバーは一礼すると、短く息を吐き、背筋を伸ばしたままゆっくりと振り返る。
扉を開ける音が部屋に響き、軋む窓の音に混ざって消えた。
廊下を音もなく歩く背中は無表情に見えた。だが、胸の奥では何かが固く締まっているのが伝わってくる。
計画を遂行する覚悟と、何かしら拭い去れない影のようなものが張り付いていた。
黒服の男によって開かれた玄関をくぐると、彼は一度だけ肩越しに短く息をつく。それから音もなく闇の中へ溶けていった――。
直後、オリバーの背中を見送った黒服は扉を閉めると、一人静かに屋敷の中を歩き始めた。
とある一室の前で立ち止まり、聞き耳を立てるように中の様子を伺う。
やがて、無人と分かるとドアノブに手をかけ、慎重に押して中に足を踏み入れた。
「……」
息を殺し、足音を立てないように進む。大きく高級感のある机の前に立つと、慣れた手つきで引き出しの鍵を解錠した。
中にある書類や封筒の中身を流し見る。その刹那、一通の便箋の中身に目を止め、鋭い視線で読み込み始めた。その時――
『ガチャッ――』
ドアノブが軋む音が響き、男は反射的に扉を見た。
「ったく、いつまでも時間をかけおって……」
ノーランド伯爵が部屋に来て、机の前で立ち止まった。鍵を使って引き出しを開けると、新たに一枚の紙を入れて鍵をかけ直した。
机の下で小さく身を潜める影。目の前の足を動きを観察しながら、額から汗を流した。
直後、部屋を二度ノックする音が聞こえる。
「誰だ?」
「失礼いたします。ご食事の用意が整いましたので、お迎えにあがりました」
「……わかった。すぐにいく」
扉越しの声に導かれ、伯爵は何も疑う事なく部屋を後にした。
静寂の中で安堵の息を漏らす。そして静かに立ち上がると、窓を開けて屋根に立つ。少し離れた先で華麗に飛び降りると、雨風を凌げる路地裏まで走り抜けた。
一度来た道を振り返える。目を強く閉じ、喉奥で詰まっていた息を吐き出した。直後――濡れた黒服の襟を乱暴に引き剥がすと、隠されていた赤髪が夜気にさらされた。
「ふぅ……少し危なかったかしら?でも、これで全ての糸口は掴めたわね」
リオナの手に握られた手紙。その中に、この事件の深い闇の入口が綴られていた。
――更に同じ時、冒険者ギルド本部『執務室』
大荒れの夜景を眺め、一人静かに思考を巡らせる大男がいた。飛ばされた枯葉が窓に張り付き、大粒の雨に撃たれる様を、一人の少年に重ねる。
彼の後ろ姿を見つめる二つの影。その内の一人、山吹色の長い髪を左側で縛った少女が、沈黙に耐えかねたように口を開いた。
「ねぇマスター、そんなにモンスターテイマーの彼が心配なの?」
「……今回ハルトを危険に晒すつもりはなかった」
マスターの言葉は重い空気の中に落とされ、後悔の念を滲みだす。
すると次にもう一人、同じ山吹色で短く切りそろえられた髪の少女が、落ち着いた様子でマスターを見つめる。
「でもマスター、帰ってきた彼の顔、前に見た時よりかっこよかった」
「……あぁ。死線をくぐり抜けて、覚悟を決めたようだな。……だからこそ――」
勇気という光の下に、いつでも命を捨てられる影が潜んでいる――マスターにはそう見えた。
これはきっと、蔑まれて生きてきて、自尊心を削られ続けた結果なのだろう。
勇気の裏にある傷ついた心。それを見逃さなかったマスターの心境は、穏やかではいられなかった。
「……せめて、麻薬工場のほうは俺たちで片付けないとな」
「その為にあたしたちを呼んだんでしょ?しかもこんな嵐の中」
「それは悪かった。今日は仮眠室で泊まってくれ」
「わかった。それで……私たちは何をすればいい?」
短髪の少女の問いかけに、マスターは振り返り、彼女たちの姿を瞳に映した。
「明日の夜、全てが動く。その時、麻薬工場から証拠品の押収と職員の拘束を頼みたい。お前たちS級冒険者チーム『戦乙女――ヴァルキリー』に」
眉間に深く皺を寄せ、交互に二人と視線を交わす。その思いに応えるように、ヴァルキリーの二人は頷いて、まっすぐにマスターの瞳を覗いた。
「……あたしたちに任せて」
「絶対に失敗しない」
「あぁ。頼りにしてる」
二人の瞳に一瞬、鋼のような光が宿る。
マスターは深く息をつき、重荷を少しだけ降ろした。
――二日後の昼、アメントリ郊外『糸の森』
秋らしい澄んだ風が、一層鮮やかに色付いた木の葉を揺らす。一枚がひらりと地面に落ちると、その上から黒い足が踏みつけていった。
口を固く閉ざし、真っ直ぐに進む先だけを見つめ、身に纏う黒い外套の裾を揺らす。
オリバーは今まさに――依頼を成しに林道を歩いていたのだ。
その胸裏に、一人の少年の寂しげな笑顔が浮かぶ。立場が違えば、ハルトと友になる未来もあったのだろうか……。
一歩進むたびに、心の奥でかすかな痛みが広がる。
だが、首を振る。そんな感傷は許されない。
自分は暗殺ギルドの第三幹部。感情に流されず、冷徹に首を刎ねる執行人――その覚悟だけを握りしめる。
やがて、木立の奥に舞台となる木屋の屋根が見えた。
オリバーは一度だけ目を閉じ、深く息を吸う。胸に残る濁りを押し沈めるように。
そして静かに目を開けると、音もなく前へと歩を進めた。
木屋の目前まで近づき、悟られぬようゆっくり窓から中を覗く。その瞬間、オリバーの目が僅かな動揺の色を見せた。
「…………いない」
そこに住むはずの二人の姿が見当たらない。それどころか、あの日入れた荷物ごと、綺麗さっぱりなくなっている。
逃げられた――そう悟った途端、全身から力が抜け、感覚が鈍くなる。
どこで気づかれた? 何がまずかった? 自問自答が際限なく巡り、思考が崩れていく。微かに震える指先で頭を押さえる。耳の奥で脈打つ音が爆ぜ、心臓の鼓動が胸を打ち破るように早まる。視界の端はじわりと暗く狭まり、世界が閉じていく。
その時――
「二人はもうここにはいませんよ。……オリバーさん」
「?!!」
背後から降る馴染みのある声に、全身の毛穴が逆立つ。反射的に振り向く。反射的に振り返ると、そこに立つ少年の悲しげな顔が目に映った。その一瞬が、鋭い刃よりも深くオリバーの胸を抉った。
「――ハルト…………。何故わかった」
「……」
答えはない。ただ眉間に皺を寄せ、わずかに潤んだ瞳が彼を見返すだけ。
「何故わかったかと聞いている!!」
冷静さの欠けらも無い、彼らしくもない怒声が響いた。
「……ずっと気づいてました。あなたと水晶洞窟の前で話をした時から」
「……なんだと?」
二人の間に風が吹き、傍らの荒れた畑に伸びる枯れ草たちが、乾いた音を鳴らした。
「……あなたが背負うその剣。すごく丁寧に手入れしてましたよね。――ザバールのあの小屋の中でも」
オリバーは思わず息を飲み、目を見開いた。胸の奥がギリッと嫌な音を立てる。
「剣先を地面に付けて研いだ跡が、あの小屋にもありました。『人を簡単に信じるな』。あなたの言葉は、自身のことも指していたんでしょう?」
気がつくと彼は、情けなく地面を見つめていた。今まで犯してこなかった初歩的なミス。痕跡を残すなんて、暗殺者失格だ。心臓の鼓動が、今はただ痛みとして胸を突き破ろうとしている。
「今きっと……あなたは自分を責めていますよね」
「……当然だ」
その返事にハルトは首を振った。
「違いますよ。あなたは僕に『見つけて欲しかった』んです。あなた自身も気づかない、心の奥深くで」
その声は震えていたが、決して揺らぎはなかった。
オリバーは僅かに指先を反応させ、ゆっくりと顔を持ち上げた。
視線の先に映るのは、胸を掴んで訴えかけるように見つめる少年の姿。そして穏やかに笑いかけ、再び口が開かれた。
「不思議だったんです。ステラが探知であなたを見つけられなかったのが。蜘蛛の僅かな意識ですら、見つけられるのに」
あぁ、そこまで見破られていたのか……。次に続く言葉を理解し、オリバーは背筋を伸ばし、堂々と受け止める覚悟を決めた。
「最初は研鑽によるものだと思ったんです。でも、あなたはずっと、足音がしなかった」
「……あぁ」
「そして何より、暗殺者であるはずのあなたが、僕に同情してくれた」
「…………あぁ」
「モンスターテイマーは、魔物の好意に敏感です。契約する意思はなくても、それに近い信頼には気づけます」
「……そうなのか」
オリバーの視線とハルトの視線が静かに交わる。陽に透けた紅葉が、二人の間を揺らめき落ちた
「人魔の中には、人と変わらぬ姿を持つ種もいます。……オリバーさん、あなたがそうですよね?影人――『シャドウストーカー』」
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