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「あぁ、今日も閣下がお美しい……」
転生した先は、前世で寝食を忘れて没頭したBLゲーム『聖騎士の恋歌』の世界。しかし、私の目的は煌びやかな若き攻略対象者たちではありません。私の視線の先には常に、若き騎士たちに稽古をつける、枯れた色気漂う偉大な英雄——ジェラルド将軍閣下がいらっしゃいました。
ゲームの内容? 申し訳ないけれど、閣下のグラフィックを拝むための「作業」でしかなかったので、シナリオなんて一行も覚えていません。
《第一章:無自覚な熱視線》
「おい、またあの子が来ているぞ」
「……ああ。今日も今日とて、閣下から片時も目を離さないな」
訓練場の隅。私は柱の陰から、汗を拭い、厳しい表情で木剣を振るうジェラルド閣下を見つめていました。白髪混じりの髪、深い思慮を湛えた目尻のシワ、そして何より鍛え上げられた分厚い胸板。
(最高だ……。前世のピクセル越しより、生の方が一億倍尊い……!)
私はただのファンとして、そこに「存在」しているだけで幸せでした。攻略対象である第一王子や、稀代の魔術師が隣を通っても、目もくれません。
一方のジェラルドは、背中に突き刺さる熱烈な、けれど毒のない視線に戸惑っていました。
「(何故だ。あのような若者が、隠居間近の私をあそこまで熱心に見つめるとは……)」
地位も名誉も、若さも持たぬ自分。しかし、向けられる視線はあまりに純粋で、温かい。ジェラルドの凍てついた軍人の心は、次第にその視線を「心地よい」とさえ思うようになっていたのです。
《第二章:静かなる歪み》
異変に気づいたのは、やはり戦場を生き抜いてきたジェラルドの勘でした。
「……君、最近よくここに来るね。僕たちの稽古、そんなに面白い?」
爽やかな笑顔で私に話しかけてきたのは、ゲームのメイン攻略対象である第一王子。本来ならここで恋のフラグが立つはずですが、私の反応は塩対応そのものでした。
「いえ、特には。失礼します、閣下が移動されるので」
「えっ、ちょっ……」
王子の誘いを一秒で切り捨て、私は閣下の後を追います。
その様子を、数人の「攻略対象」たちが冷めた、けれど昏い火を灯した瞳で見送っていました。
「……あんなに無視されるのは、初めてだ」
「面白いな。あの子の瞳に、僕らは映ってすらいないらしい」
彼らは、自分たちに向けられるべき「愛」が、自分たちの師に向けられていることに気づきました。そして、自分たちに興味を示さない唯一の存在である私に、異常なまでの執着を抱き始めたのです。
《第三章:英雄の覚醒と独占欲》
ある日の夕暮れ。訓練場の裏で、私は攻略対象者たちに囲まれていました。
「ねえ、閣下のどこがいいの? 僕の方が君を愉しませてあげられるよ」
「離してください。閣下の夕食のお見送りに行かなきゃならないんです!」
彼らの手が私の肩に触れようとした、その時。
「——そこまでにしてもらおうか、若人たちよ」
空気を切り裂くような威圧感とともに、ジェラルド閣下が姿を現しました。その瞳は、いつもの温厚なものではなく、獲物を狙う猛獣のそれです。
「閣下……! お疲れ様です!」
私が駆け寄ると、閣下は大きな手で私の腰を引き寄せ、守るように抱き込みました。
「彼は、私の客だ。いくら教え子とはいえ、無作法が過ぎれば容赦はせんぞ」
若者たちが去った後、ジェラルドは私を抱いたまま、自嘲気味に笑いました。
「……狂っているな。親子ほども歳が離れているというのに。貴殿が他の男に触れられようとするのを見ただけで、胸の奥が焼けるようだ」
《第四章:はじまりの執着》
閣下の邸宅の奥深く。私は今、極上のソファに座らされ、閣下の手によって丁寧に、けれど逃げられないような力強さで指を絡められています。
「閣下……?」
「もう、視線だけでは足りんのだ。……いや、最初から足りていなかったのかもしれない」
ジェラルドの低い声が耳元で響きます。彼は私の首筋に深く顔を埋め、まるで自分の領土を主張するように深く、深く吸い込みました。
「ゲームの内容を覚えていないと言ったな。……なら、これからの物語は私が書き換えよう。貴殿の瞳に映るのは、私だけでいい」
それは、かつて英雄と呼ばれた男が、一人の愛しい存在のために「魔王」へと変貌した瞬間でした。
壮絶なまでの溺愛と、逃げ場のない執着。
私は、前世で一番好きだったキャラクターの腕の中で、ようやく「このゲームの本番」が始まったことを悟ったのでした。
転生した先は、前世で寝食を忘れて没頭したBLゲーム『聖騎士の恋歌』の世界。しかし、私の目的は煌びやかな若き攻略対象者たちではありません。私の視線の先には常に、若き騎士たちに稽古をつける、枯れた色気漂う偉大な英雄——ジェラルド将軍閣下がいらっしゃいました。
ゲームの内容? 申し訳ないけれど、閣下のグラフィックを拝むための「作業」でしかなかったので、シナリオなんて一行も覚えていません。
《第一章:無自覚な熱視線》
「おい、またあの子が来ているぞ」
「……ああ。今日も今日とて、閣下から片時も目を離さないな」
訓練場の隅。私は柱の陰から、汗を拭い、厳しい表情で木剣を振るうジェラルド閣下を見つめていました。白髪混じりの髪、深い思慮を湛えた目尻のシワ、そして何より鍛え上げられた分厚い胸板。
(最高だ……。前世のピクセル越しより、生の方が一億倍尊い……!)
私はただのファンとして、そこに「存在」しているだけで幸せでした。攻略対象である第一王子や、稀代の魔術師が隣を通っても、目もくれません。
一方のジェラルドは、背中に突き刺さる熱烈な、けれど毒のない視線に戸惑っていました。
「(何故だ。あのような若者が、隠居間近の私をあそこまで熱心に見つめるとは……)」
地位も名誉も、若さも持たぬ自分。しかし、向けられる視線はあまりに純粋で、温かい。ジェラルドの凍てついた軍人の心は、次第にその視線を「心地よい」とさえ思うようになっていたのです。
《第二章:静かなる歪み》
異変に気づいたのは、やはり戦場を生き抜いてきたジェラルドの勘でした。
「……君、最近よくここに来るね。僕たちの稽古、そんなに面白い?」
爽やかな笑顔で私に話しかけてきたのは、ゲームのメイン攻略対象である第一王子。本来ならここで恋のフラグが立つはずですが、私の反応は塩対応そのものでした。
「いえ、特には。失礼します、閣下が移動されるので」
「えっ、ちょっ……」
王子の誘いを一秒で切り捨て、私は閣下の後を追います。
その様子を、数人の「攻略対象」たちが冷めた、けれど昏い火を灯した瞳で見送っていました。
「……あんなに無視されるのは、初めてだ」
「面白いな。あの子の瞳に、僕らは映ってすらいないらしい」
彼らは、自分たちに向けられるべき「愛」が、自分たちの師に向けられていることに気づきました。そして、自分たちに興味を示さない唯一の存在である私に、異常なまでの執着を抱き始めたのです。
《第三章:英雄の覚醒と独占欲》
ある日の夕暮れ。訓練場の裏で、私は攻略対象者たちに囲まれていました。
「ねえ、閣下のどこがいいの? 僕の方が君を愉しませてあげられるよ」
「離してください。閣下の夕食のお見送りに行かなきゃならないんです!」
彼らの手が私の肩に触れようとした、その時。
「——そこまでにしてもらおうか、若人たちよ」
空気を切り裂くような威圧感とともに、ジェラルド閣下が姿を現しました。その瞳は、いつもの温厚なものではなく、獲物を狙う猛獣のそれです。
「閣下……! お疲れ様です!」
私が駆け寄ると、閣下は大きな手で私の腰を引き寄せ、守るように抱き込みました。
「彼は、私の客だ。いくら教え子とはいえ、無作法が過ぎれば容赦はせんぞ」
若者たちが去った後、ジェラルドは私を抱いたまま、自嘲気味に笑いました。
「……狂っているな。親子ほども歳が離れているというのに。貴殿が他の男に触れられようとするのを見ただけで、胸の奥が焼けるようだ」
《第四章:はじまりの執着》
閣下の邸宅の奥深く。私は今、極上のソファに座らされ、閣下の手によって丁寧に、けれど逃げられないような力強さで指を絡められています。
「閣下……?」
「もう、視線だけでは足りんのだ。……いや、最初から足りていなかったのかもしれない」
ジェラルドの低い声が耳元で響きます。彼は私の首筋に深く顔を埋め、まるで自分の領土を主張するように深く、深く吸い込みました。
「ゲームの内容を覚えていないと言ったな。……なら、これからの物語は私が書き換えよう。貴殿の瞳に映るのは、私だけでいい」
それは、かつて英雄と呼ばれた男が、一人の愛しい存在のために「魔王」へと変貌した瞬間でした。
壮絶なまでの溺愛と、逃げ場のない執着。
私は、前世で一番好きだったキャラクターの腕の中で、ようやく「このゲームの本番」が始まったことを悟ったのでした。
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