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秘密の綴り
しおりを挟む高校二年生の春、桜の花びらが舞い散る校庭を眺めながら、私は新しい生活の始まりに胸を躍らせていた。その日、図書室で一人の女生徒と偶然出会ったことが、私の人生を大きく変えることになるとは、その時の私は知る由もなかった。
彼女の名前は彩夏。長い黒髪が特徴的で、いつも少し物憂げな表情をしていた。同じクラスだったが、あまり話したことはなかった。彼女が静かに本を読んでいる姿を見て、私はふと声をかけてみたくなった。
「何を読んでるの?」
彼女は驚いたように顔を上げ、しばらく私を見つめた後、小さな声で答えた。「これは…詩集。好きな詩人の作品を集めたものなの。」
その日から、私たちは少しずつ話すようになった。彼女は詩や文学に詳しく、話すたびに新しい世界が広がっていくようだった。ある日、彼女は私に一冊のノートを差し出した。
「これ、交換日記をしない?」
驚いたが、興味深かった。「交換日記?どうして?」
「あなたともっと話がしたい。でも、言葉にするのは難しいこともあるから、書いて伝えたいの。」
そうして始まった交換日記は、毎日の楽しみとなった。彩夏は繊細な心の内を、丁寧に言葉に綴っていた。彼女の文章は美しく、読むたびに心が温かくなった。
「今日、放課後に見た夕焼けがとても綺麗だった。あなたにも見せたかったな。」
そんな何気ない一言が、私の心に響いた。私も彼女に負けじと、自分の思いや感じたことをノートに書き込んでいった。
「僕も夕焼けを見たよ。同じ空を見てたんだね。それだけで、なんだか嬉しい。」
交換日記を通じて、私たちはお互いのことを深く知るようになった。彩夏の笑顔が増え、私も毎日が楽しくなった。しかし、そんな幸せな日々は長く続かなかった。
ある日、彩夏は突然学校を休んだ。心配になった私は、彼女の家を訪ねてみることにした。インターフォンを押すと、彼女の母親が出てきた。
「彩夏は…?」
彼女の母親は悲しそうな顔をして言った。「彩夏は今、入院しているの。病気が再発してしまって…」
その言葉に、私は愕然とした。何も知らなかった自分が恥ずかしかった。彼女はいつも笑顔で、病気のことなど一言も言わなかったのだ。
次の日、病院を訪れた私は、ベッドに横たわる彩夏を見つけた。彼女は驚いた顔をした後、微笑んだ。
「来てくれてありがとう。でも、心配しないで。少し休めばまた元気になるから。」
しかし、彼女の顔には疲れが滲んでいた。私は交換日記を手に取り、彼女に見せた。
「これからも続けよう。君の言葉が、僕の力になるから。」
彩夏は頷き、また少しずつ交換日記を続けるようになった。彼女の病室で、私たちは静かに言葉を交わし合った。病気と戦う彼女の姿に、私は何度も勇気をもらった。
「今日も一緒に夕焼けを見たよ。窓の外からだけど、とても綺麗だった。」
「その景色、私も見たかったな。でも、あなたが教えてくれるから、それだけで十分だよ。」
彼女の病状は一進一退だったが、私たちはお互いを支え合っていた。ある日、彼女は涙を浮かべながら、こう言った。
「もしも…私がいなくなっても、あなたは前を向いて生きてほしい。あなたの笑顔が、私の一番の宝物だから。」
その言葉に、私は何も言えなかった。ただ、彼女の手を握りしめることしかできなかった。
その後、彼女の病状は悪化していった。最後のページに彼女が書いた言葉は、今でも私の心に深く刻まれている。
「あなたと過ごした時間が、私にとっての宝物。ありがとう。そして、さようなら。」
彼女が亡くなった日は、晴れ渡った空に美しい夕焼けが広がっていた。私は彼女との思い出を胸に、これからも生きていくことを誓った。
彼女との交換日記は、私の宝物となった。ページをめくるたびに、彼女の優しい笑顔が浮かんでくる。彼女が教えてくれた大切なことを胸に、私は前を向いて生きていく。
「秘密の綴り」は、私たち二人だけの大切な物語。いつまでも色褪せることのない、心の中に刻まれた思い出だ。
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