スズノハの約束

秋月とわ

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2章

第11話 お水やり

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 私は早く帰りたくてスマホの時計を見る。朝から外に出て、もうお昼も過ぎている。ロック画面には、おばあちゃんからのメッセージが何件か入っていた。そのどれもが、「お昼ごはんだから帰っておいで」という内容のものだった。

「あのー。もういいですか? 帰らないと」
「悪いが最後に水を汲んできてくれんか。この参道の先に湧き水が出ている場所がある」
「……なんで私が」
「固いこと言うんでない。老人の言うことは聞くもんじゃぞ」
「老人って言ってもあやかしなんでしょ?」
「あやかしだって生きとるんだ。老人にもなるさ」

 皮肉のつもりで言ったのだけれど、お面のおじいさんには全く通じていないようだった。

 仕方がないから、さっさと水を汲みに行く。スズノハの木から少し坂を登ったところの岩壁に石でできた水がめがあった。岩の隙間からパイプが伸びていて、そこからちょろちょろと水が湧き出ている。

 神社の人が使っているのか、水がめの横にはいくつかバケツが伏せてあった。私はそのひとつを借りて水がめの水をすくう。

 この水をあのお面のおじいさんに渡して、早く帰ろう。そう思いながらバケツいっぱいの水を持ち上げる。確かな重さに腕が引っ張られる。

 よろよろ、ふらふら歩きながら木まで戻る途中、偶然目にした『イノシシ注意』と書かれたその看板に、私はギョッとする。

「えっ……。この山、イノシシ出るの!?」

 バケツの取手を握り直して、私は急いでお面のおじいさんのところに戻った。

「ご苦労じゃったな」
「はい、お水」

 バケツを差し出すと、お面のおじいさんは水を切り株の根っこにかけるように言った。バケツの底に手をかけて、根っこ周辺に水を撒くとお面のおじいさんは、気持ちよさそうな声をあげる。

「あー、生き返るわい。ありがとう、お嬢ちゃん」
「じゃあ、用件は済んだでしょ。私は帰るから」
「ちょっと待ってくれんか。お嬢ちゃん。頼まれついでに老人の願い事をもうひとつ聞いてくれんか?」

 木に背を向けた私は、眉間にシワを寄せて振り返る。どれだけお願い事をすれば気が済むんだろうか、このおじいさんは。あきれてため息が出てくる。

「なに? まだ何かあるの? 私、もう帰りたいんだけど」
「いや、大したことではない。これから数日、こうして水をやりに来てほしいのだ。そう長い間ではない。ワシの命もこの木とともにもうすぐ尽きる」

 お面おじいさんは、懐かしむような声で続けた。

「だが、ひとつ心残りがあっての。約束をしたのだ。あるひとりの人間と。とても大切な約束だ。それを果たさずに消えるわけにはいかぬ」
「約束ってどんな?」

 尋ねてから、しまった、と思った。これは願いを聞いた私がそれを叶えなければいけないパターンだ。しかし後悔しても、もう遅い。お面のおじいさんは、遠い目をして、語り始めた。

「それは……それはなぁ──忘れた」
「ええっ!?」
「なにせ、あの雷のショックでのう。だが、約束があると言うことはだけは思い出し、最後の力を振り絞って戻ってきたのじゃ。人の子であるお前さんと話していたら思い出すかもしれん。だから、頼む!」
「嫌なんだけど。家まで送った上に水まであげたんだから、もういいでしょ。そこまでする義理なんかない!」
「そこをなんとかならんかのう」

 顔の前で両手を合わせる老人に、私は顔をプイッと背ける。そんなに都合よく使われてたまるもんか。

「それをして、私に何の得があるの? 何かをしてもらうなら、それなりの対価を支払うべきだと思う」
「むっ……」
 
とお面のおじいさんはうなった。それからボソボソとつぶやく。

「言っておることは正しいが……最近の子は可愛げがないな……」
「聞こえてるんだけど」

 お面のおじいさんはびくりとか肩を震わせる。それから誤魔化すように笑い声を上げた。
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