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3章
第16話 約束の相手は……
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「早く東京に帰りたいよ。こんな田舎、何にもないしつまんない」
「東京の子供が何をして遊ぶかは知らんが、こっちでも友達と遊べばよかろう。きっといい思い出になるぞ」
友達と言われて、頭の中で夏海と篤志くんの顔がよぎった。夏海は町を案内してくれてから、たまに私の家まで遊びに来ていたけれど篤志くんとはあれっきり会っていない。
夏海は、「みんな未来ちゃんと遊ぶのを楽しみにしているよ」と橋へ来るように誘ってくれるのだけれど、あの疎外感を思い出すとなかなか足が向かない。だから、いつも曖昧に断っている。
こんなに暑いなかわざわざ外遊びをする必要も感じず、部屋でゴロゴロしながらスマホいじっている。何だかせっかくの夏休みを無駄に消費している気もするけれど、他にやることもない。
「知らない子と遊んでも楽しくないし……気まずいだけだよ」
「人の子のことは、分からんがそういうものなのか」
「そうだよ、そういうものなの。……はい、私の話はもうおしまい。それよりききたいことがあるんだけど」
私は無理矢理、話題を逸らした。我ながら強引だったけれど、スズノハさんは納得したようで、それ以上私のプライベートに口出ししなかった。
私は今朝おじいちゃんから聞いたばかりの話をスズノハさんにぶつける。
「スズノハさん。おじいちゃんから聞いたんだけど、葉っぱを鈴みたいに鳴らせたんだって?」
「ああ、それはワシの得意技じゃった」
スズノハさんは切り株の上に立つと、「ほいっ」と枝を振った。すると枝の先についた葉が擦れて「しゃらん……」と小さく鳴った。
本当に鈴の鳴るような音だった。けれど、枝の先には数えるほどの葉っぱがついているだけで、鈴がついているわけじゃない。それどころか音が鳴りそうなものは何もない。
「どうじゃ。きれいな音が鳴るじゃろう? 木が生い茂っていた頃は、全部の葉がこうして『しゃらん、しゃらん』と鳴ってのう。そりゃあ、見事なものだった。お祭りの日は張り切って鳴らしまくったもんじゃ」
そこまで言うと、スズノハさんは急に黙り込んだ。やがて我に返ったように小さく声をもらすと共に、自分の手のひらを見下ろした。
「……そうだ。あの約束は……子供の手だった。この道が表参道だった最後の年の夏祭りの日。これが最後の夏祭りになるのかと寂しく眺めておった時のあとのことだ。あー、だめだ。それ以上思い出せん」
「もうちょっと思い出せない? どんな子だった? 年齢は? 男の子? 女の子?」
矢継ぎ早に質問する。これで思い出すことができたら私もようやくお役御免だ。
胸の前で腕を組んで、スズノハさんは苦しそうに唸った。けれど、何も出てこないらしい。一気に脱力すると、しょんぼりと身を縮こませる。
「すまん。やっぱり、無理じゃ。今日はもうよい」
「……惜しかったね。じゃあ」
「ああ、ありがとう。夏休みとやらを楽しむんじゃぞ……」
参道からの帰り道、私は少し遠回りをして橋の近くまで行ってみた。決してスズノハさんの言葉を気にしてではない。ただ気が向いただけだ。
橋の上では、子供たちが数人集まって、楽しそうに騒いでいる。その姿を私は離れたところから眺めていた。
子供たちは、いつもそうしているのだろう。なんの躊躇もなく1人また1人と海へ飛び込んでいく。その中には夏海の姿もあった。篤志くんは……いないみたい。
声をかけてみようかな、と心が傾きかけたけれど、それよりも先に夏海は海へ飛び込んでしまった。わざわざ橋の上から海へ叫んでまでして声をかけるのは、恥ずかしい。
「東京の子供が何をして遊ぶかは知らんが、こっちでも友達と遊べばよかろう。きっといい思い出になるぞ」
友達と言われて、頭の中で夏海と篤志くんの顔がよぎった。夏海は町を案内してくれてから、たまに私の家まで遊びに来ていたけれど篤志くんとはあれっきり会っていない。
夏海は、「みんな未来ちゃんと遊ぶのを楽しみにしているよ」と橋へ来るように誘ってくれるのだけれど、あの疎外感を思い出すとなかなか足が向かない。だから、いつも曖昧に断っている。
こんなに暑いなかわざわざ外遊びをする必要も感じず、部屋でゴロゴロしながらスマホいじっている。何だかせっかくの夏休みを無駄に消費している気もするけれど、他にやることもない。
「知らない子と遊んでも楽しくないし……気まずいだけだよ」
「人の子のことは、分からんがそういうものなのか」
「そうだよ、そういうものなの。……はい、私の話はもうおしまい。それよりききたいことがあるんだけど」
私は無理矢理、話題を逸らした。我ながら強引だったけれど、スズノハさんは納得したようで、それ以上私のプライベートに口出ししなかった。
私は今朝おじいちゃんから聞いたばかりの話をスズノハさんにぶつける。
「スズノハさん。おじいちゃんから聞いたんだけど、葉っぱを鈴みたいに鳴らせたんだって?」
「ああ、それはワシの得意技じゃった」
スズノハさんは切り株の上に立つと、「ほいっ」と枝を振った。すると枝の先についた葉が擦れて「しゃらん……」と小さく鳴った。
本当に鈴の鳴るような音だった。けれど、枝の先には数えるほどの葉っぱがついているだけで、鈴がついているわけじゃない。それどころか音が鳴りそうなものは何もない。
「どうじゃ。きれいな音が鳴るじゃろう? 木が生い茂っていた頃は、全部の葉がこうして『しゃらん、しゃらん』と鳴ってのう。そりゃあ、見事なものだった。お祭りの日は張り切って鳴らしまくったもんじゃ」
そこまで言うと、スズノハさんは急に黙り込んだ。やがて我に返ったように小さく声をもらすと共に、自分の手のひらを見下ろした。
「……そうだ。あの約束は……子供の手だった。この道が表参道だった最後の年の夏祭りの日。これが最後の夏祭りになるのかと寂しく眺めておった時のあとのことだ。あー、だめだ。それ以上思い出せん」
「もうちょっと思い出せない? どんな子だった? 年齢は? 男の子? 女の子?」
矢継ぎ早に質問する。これで思い出すことができたら私もようやくお役御免だ。
胸の前で腕を組んで、スズノハさんは苦しそうに唸った。けれど、何も出てこないらしい。一気に脱力すると、しょんぼりと身を縮こませる。
「すまん。やっぱり、無理じゃ。今日はもうよい」
「……惜しかったね。じゃあ」
「ああ、ありがとう。夏休みとやらを楽しむんじゃぞ……」
参道からの帰り道、私は少し遠回りをして橋の近くまで行ってみた。決してスズノハさんの言葉を気にしてではない。ただ気が向いただけだ。
橋の上では、子供たちが数人集まって、楽しそうに騒いでいる。その姿を私は離れたところから眺めていた。
子供たちは、いつもそうしているのだろう。なんの躊躇もなく1人また1人と海へ飛び込んでいく。その中には夏海の姿もあった。篤志くんは……いないみたい。
声をかけてみようかな、と心が傾きかけたけれど、それよりも先に夏海は海へ飛び込んでしまった。わざわざ橋の上から海へ叫んでまでして声をかけるのは、恥ずかしい。
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