32 / 32
7章
第32話 またね!
しおりを挟む
翌日、メッセージ通りお父さんは昼頃にタクシーでやって来た。私は自室もといお母さんの部屋で荷物をまとめてから、忘れ物がないか最終チェックをする。
「うん。スマホも持ったし、忘れ物はなしっと……」
玄関先では、お父さんがおじいちゃんとおばあちゃんにお礼を言っている声が聞こえる。
「おーい。未来! そろそろいくぞ!」
「わかったー! 今行くー!」
玄関の方に叫んで部屋を出る。そこで私は足を止めて、振り返った。そして部屋を見回す。
1ヶ月間過ごしたこの部屋とも、もうお別れだ。
「お母さん。1ヶ月間使わせてくれて、ありがとう。また来るね」
誰に聞かせるわけでもないけれど、ぽつりとつぶやいて部屋を出た。背後で、時計のチャイムがなった。私は思わず振り返る。壊れてずっと動かなかった時計のはずなのに、針はまた時間を刻み始めていた。
まるでお母さんが返事してくれたみたい思えて、なんだか嬉しかった。
「みらーい! タクシー待たせてるから、そろそろいいかー?」
「ごめーん! すぐに行く!」
そう叫んでから、私はお母さんの部屋に別れを告げた。
外に出ると玄関前には、おじいちゃんとおばあちゃんのほかに篤志くんと夏海が見送りに来ていた。
「みらいちゃーん。ま、また会えるよねぇぇぇ?」
夏海がぼろぼろと涙をこぼしている。泣いているせいで話す言葉が全部濁点がついてしまっている。
「また来るから! 絶対、約束!」
夏海を抱きしめた。なんだか私まで悲しくなってくる。
「未来、東京でもしっかりやれよ!」
篤志くんが悲しみを堪えた笑みで言う。
「何言ってるの。私、東京の人間だよ? 元の生活に戻るだけ」
「そうだったな……。お前はもう俺たちの仲間だ! ……だから、俺たちのこと忘れんなよ」
「忘れない。忘れられないよ。この夏休み、初めてのことばっかりだったんだから。大人になっても忘れない」
夏海の時みたいに抱きしめたい気分に駆られたが、大人たちの目もあるし、さすがに恥ずかしい。代わりに私は手を差し出した。
「俺も忘れない」と篤志くんが手を握り返す。固く結ばれた手を私は離したくなかった。この町に来た時はあれほど帰りたかったのに。
「新幹線の時間もあるし、もう行こうか」
お父さんに促されて、私はタクシーに乗った。
「おじいちゃんもおばあちゃんもありがとう。楽しい夏休みだった! じゃあね!」
ドアを閉めると、タクシーはゆっくりと動き出した。私はお父さんの隣に座ってフロントガラスの先をぼんやり眺めていた。
その時、くぐもった声が背後から聞こえた。振り返るとリアガラスに篤志くんと夏海が追いかけてきているのが見えた。ふたりは必死に手を振っている。
私は慌てて窓を開けて手を振り返した。
「またねー!」
タクシーがスピードを上げ、ふたりが小さくなっていく。見えなくなるまで私は手を振り続けた。
タクシーが大通りに入って、ようやく私は手を止めた。窓を閉めようとスイッチに手をかけた時、広がる田んぼの向こうに裏参道が見えた。もうあそこにはスズノハさんはいない。
それでも私は「またね」とつぶやいて、窓を閉めた。窓が完全に閉まりきる寸前、どこかから「しゃらん」と鈴の音が聞こえたような気がした。
「うん。スマホも持ったし、忘れ物はなしっと……」
玄関先では、お父さんがおじいちゃんとおばあちゃんにお礼を言っている声が聞こえる。
「おーい。未来! そろそろいくぞ!」
「わかったー! 今行くー!」
玄関の方に叫んで部屋を出る。そこで私は足を止めて、振り返った。そして部屋を見回す。
1ヶ月間過ごしたこの部屋とも、もうお別れだ。
「お母さん。1ヶ月間使わせてくれて、ありがとう。また来るね」
誰に聞かせるわけでもないけれど、ぽつりとつぶやいて部屋を出た。背後で、時計のチャイムがなった。私は思わず振り返る。壊れてずっと動かなかった時計のはずなのに、針はまた時間を刻み始めていた。
まるでお母さんが返事してくれたみたい思えて、なんだか嬉しかった。
「みらーい! タクシー待たせてるから、そろそろいいかー?」
「ごめーん! すぐに行く!」
そう叫んでから、私はお母さんの部屋に別れを告げた。
外に出ると玄関前には、おじいちゃんとおばあちゃんのほかに篤志くんと夏海が見送りに来ていた。
「みらいちゃーん。ま、また会えるよねぇぇぇ?」
夏海がぼろぼろと涙をこぼしている。泣いているせいで話す言葉が全部濁点がついてしまっている。
「また来るから! 絶対、約束!」
夏海を抱きしめた。なんだか私まで悲しくなってくる。
「未来、東京でもしっかりやれよ!」
篤志くんが悲しみを堪えた笑みで言う。
「何言ってるの。私、東京の人間だよ? 元の生活に戻るだけ」
「そうだったな……。お前はもう俺たちの仲間だ! ……だから、俺たちのこと忘れんなよ」
「忘れない。忘れられないよ。この夏休み、初めてのことばっかりだったんだから。大人になっても忘れない」
夏海の時みたいに抱きしめたい気分に駆られたが、大人たちの目もあるし、さすがに恥ずかしい。代わりに私は手を差し出した。
「俺も忘れない」と篤志くんが手を握り返す。固く結ばれた手を私は離したくなかった。この町に来た時はあれほど帰りたかったのに。
「新幹線の時間もあるし、もう行こうか」
お父さんに促されて、私はタクシーに乗った。
「おじいちゃんもおばあちゃんもありがとう。楽しい夏休みだった! じゃあね!」
ドアを閉めると、タクシーはゆっくりと動き出した。私はお父さんの隣に座ってフロントガラスの先をぼんやり眺めていた。
その時、くぐもった声が背後から聞こえた。振り返るとリアガラスに篤志くんと夏海が追いかけてきているのが見えた。ふたりは必死に手を振っている。
私は慌てて窓を開けて手を振り返した。
「またねー!」
タクシーがスピードを上げ、ふたりが小さくなっていく。見えなくなるまで私は手を振り続けた。
タクシーが大通りに入って、ようやく私は手を止めた。窓を閉めようとスイッチに手をかけた時、広がる田んぼの向こうに裏参道が見えた。もうあそこにはスズノハさんはいない。
それでも私は「またね」とつぶやいて、窓を閉めた。窓が完全に閉まりきる寸前、どこかから「しゃらん」と鈴の音が聞こえたような気がした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる