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1 はじめては卵サンド(2)
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同棲期間は二年。
倦怠感を覚えてはいたものの、仲は良いと思っていた。お互いに三十歳目前を控えていたから、結婚の流れになるのは当然だと思っていたのだが……。
――カナコといても癒やさるどころか、むしろ疲れるんだよ。常に結婚チラつかせてくるから重い。あとほら、メシ食う時のカナコの癖がキモいっていうか――
(うっ……、また元彼の声が頭の中によみがえってきた……つら……)
――俺、カナコよりも好きな人が出来たんだよ。悪いけど、部屋も出て行ってくれない? 少しは金も出してやるから――
「う、うう……」
最寄り駅のホームでよろめきながら電車に乗り、ドア際に立ったカナコは、窓に映った自分の顔を見て「まただ……!」と焦った。
シワが寄っている眉間に人差し指をあて、グイと押す。最近、気づけばいつもこんな険しい表情をしていた。
(先月の誕生日でとうとう三十歳になったのよ? 本格的にシワがついたら二度と消えなくなるんだから、考え込むのはやめやめ……!)
気合いを入れて、さらにぐいぐいと眉間を押して皮膚を伸ばす。
今日から「趣味」を持つのだ。
美味しい趣味を。楽しい趣味を。
そして婚活で堂々と「これが趣味です」と宣言できるようになり、元カレよりもずっとずっと、すっっばらしい男を捕まえる。
今日は、そのための第一歩なのだから。
電車を乗り継ぎ、東京の郊外に出る。駅から歩いてすぐの、大きな公園に到着した。
「土日だものね。ファミリーでいっぱいなのは当たり前か……」
公園ゲートは、たくさんの家族連れで賑わっている。もちろん、カップルや友人同士、年配のグループなども大勢いた。
(いいな、幸せそう。私も、絶対に幸せを掴むぞ……!)
よく見れば、ひとりで訪れている人も結構いる。おひとりさまでも気にしなくて良さそうだ。
どこへ行っても人人人……という密集状態になってしまう公園の場合、どうしても人目が気になってピクニックどころの話ではなくなる。
そんな状態を避けるために、この広大な土地にある公園を選んだのだが、やはり正解だった。この広さなら、たくさんの人がいても、まばらになって過ごしやすい。
カナコはホッと胸をなで下ろし、チケットを購入してゲートを抜けた。そして「ご自由にどうぞ」と置かれた園内マップを手にする。
「ええと……、目的地は左のルートね、よし」
ネットで調べてはいたものの、実際に来てみるとその広さに圧倒されてしまったカナコには、紙で出来たアナログのマップのほうがわかりやすく、ありがたかった。
カナコはトートバッグを肩にかけ直し、新緑が美しい木々の間を抜けていく歩道へ向かった。
舗装された道を進んでいく。道の両脇は大きな木々がざわめき、まるで森の中にいるような錯覚を覚えた。
「気持ちいいな……。空気も美味しく感じる」
五分ほど歩いた場所で足を止めて、スマホを手にする。
カナコは木々を仰ぎ、美しい緑を撮影した。
――なぜわざわざ、休日に誰も誘わず、ひとりでピクニックに来たのか。
その理由は「婚活イベント」に参加しようとして、つまずいたことにある。
恋人にフラれたカナコは、追い出されるようにして同棲していたマンションを出た。それが十日ほど前だ。
物件が出回る時期は過ぎており、どうにか決めたのが築四十年越えマンションの、1kの部屋だった。
倦怠感を覚えてはいたものの、仲は良いと思っていた。お互いに三十歳目前を控えていたから、結婚の流れになるのは当然だと思っていたのだが……。
――カナコといても癒やさるどころか、むしろ疲れるんだよ。常に結婚チラつかせてくるから重い。あとほら、メシ食う時のカナコの癖がキモいっていうか――
(うっ……、また元彼の声が頭の中によみがえってきた……つら……)
――俺、カナコよりも好きな人が出来たんだよ。悪いけど、部屋も出て行ってくれない? 少しは金も出してやるから――
「う、うう……」
最寄り駅のホームでよろめきながら電車に乗り、ドア際に立ったカナコは、窓に映った自分の顔を見て「まただ……!」と焦った。
シワが寄っている眉間に人差し指をあて、グイと押す。最近、気づけばいつもこんな険しい表情をしていた。
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気合いを入れて、さらにぐいぐいと眉間を押して皮膚を伸ばす。
今日から「趣味」を持つのだ。
美味しい趣味を。楽しい趣味を。
そして婚活で堂々と「これが趣味です」と宣言できるようになり、元カレよりもずっとずっと、すっっばらしい男を捕まえる。
今日は、そのための第一歩なのだから。
電車を乗り継ぎ、東京の郊外に出る。駅から歩いてすぐの、大きな公園に到着した。
「土日だものね。ファミリーでいっぱいなのは当たり前か……」
公園ゲートは、たくさんの家族連れで賑わっている。もちろん、カップルや友人同士、年配のグループなども大勢いた。
(いいな、幸せそう。私も、絶対に幸せを掴むぞ……!)
よく見れば、ひとりで訪れている人も結構いる。おひとりさまでも気にしなくて良さそうだ。
どこへ行っても人人人……という密集状態になってしまう公園の場合、どうしても人目が気になってピクニックどころの話ではなくなる。
そんな状態を避けるために、この広大な土地にある公園を選んだのだが、やはり正解だった。この広さなら、たくさんの人がいても、まばらになって過ごしやすい。
カナコはホッと胸をなで下ろし、チケットを購入してゲートを抜けた。そして「ご自由にどうぞ」と置かれた園内マップを手にする。
「ええと……、目的地は左のルートね、よし」
ネットで調べてはいたものの、実際に来てみるとその広さに圧倒されてしまったカナコには、紙で出来たアナログのマップのほうがわかりやすく、ありがたかった。
カナコはトートバッグを肩にかけ直し、新緑が美しい木々の間を抜けていく歩道へ向かった。
舗装された道を進んでいく。道の両脇は大きな木々がざわめき、まるで森の中にいるような錯覚を覚えた。
「気持ちいいな……。空気も美味しく感じる」
五分ほど歩いた場所で足を止めて、スマホを手にする。
カナコは木々を仰ぎ、美しい緑を撮影した。
――なぜわざわざ、休日に誰も誘わず、ひとりでピクニックに来たのか。
その理由は「婚活イベント」に参加しようとして、つまずいたことにある。
恋人にフラれたカナコは、追い出されるようにして同棲していたマンションを出た。それが十日ほど前だ。
物件が出回る時期は過ぎており、どうにか決めたのが築四十年越えマンションの、1kの部屋だった。
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