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9 雨の日はおうちで(4)
(奥が深いのね……。キャンプに興味はなかったけど、ちょっと調べてみようかな……)
「あの、後でまたお見せしますので、メシにしませんか?」
興味津々で寝袋を見つめ続けるカナコに、大倉が申し訳なさそうに言った。
「あっ、すみません……! 楽しくてつい、図々しいことを」
「楽しいなら良かったです。俺こそすみません。……腹減っちゃって」
バツが悪そうに頭に手をやっている。
うっかりときめきそうになったカナコは、手にしていた袋を彼に差し出した。
「浅漬けを作ってきたんです。お気に入りのプリンも買ってきました。良かったら一緒に食べませんか?」
「えっ!! やった~! ありがとうございます! 冷蔵庫に入れてきますね。そこの椅子に座って待っててください」
「はい」
無邪気に喜ぶ大倉の顔を見て、カナコも嬉しくなる。
「――ということで、今日の実験はコレです」
同じ物が2個ずつあり、大倉とカナコの前に一揃えずつ置かれている。
「これらを使って焼き肉を……?」
カナコはテーブルの上に並べられた物たちを、真剣な目で見つめた。どれも手のひらに乗るサイズなので、どうやって使うのか検討がつかない。
「ええ、そうです。全て百均で買ってきました」
「焼き肉をする道具が百均で揃っちゃうんですね……!?」
カナコの驚きに、大倉も「そうなんですよ」と言って目を輝かせた。
「上手くいったら、そちらのセットを差し上げますので、良かったら持ち帰ってください」
「ありがとうございます。もちろんお支払いさせていただきますので」
「いえ、それは大丈夫です。俺が書いているブログの記事にするつもりなので、それは経費にしますから。では早速始めましょう」
「はい」
大倉が手にした小さな箱と同じ物を、カナコも手にする。紙の箱の中から、銀色の四角い物を取り出した。
「ちょっと固いですが、こうやってひらきます」
「こうですね。……よし、ひらきました」
ガチャガチャッと左右にひらくと、四角い台になった。可愛い手のひらサイズである。
「これは何ですか?」
「ポケットストーブと言います。底に固形燃料を置けば、これ自体が五徳になって、調理ができます」
大倉は床に置いていた袋から、丸い固形燃料を取り出して、ポケットストーブの上に置いた。
「これって旅館で個々のお鍋に使われる燃料ですよね。大きさがピッタリ」
「そうです、そうです。この他にアルコール燃料を使ったり、焚き火台になるストーブもありますね」
大倉は紙に巻いてあった平たい物を手にした。
「で、これが鉄板です」
そう言いながら、紙を外した鉄板をカナコのポケットストーブの上に置く。スマホより一回り大きいくらいのサイズだ。
「か、可愛いっ! こんなに小さな鉄板があるんですね!?」
「小さいですよね。昨日、俺がシーズニングしておいたのですぐに使えますよ」
「シーズニング……??」
「鉄のフライパンや鍋、鉄板を使う前にしておく作業のことです。油を塗って、鉄板を熱して、冷ましてからまた油を塗って……の工程を5、6回繰り返します」
説明されて、そういえばと思い出す。
「ずいぶん前ですけど、それが面倒だと思って鉄のフライパンを諦めたことがありました……。シーズニングっていうんですね」
ひとり暮らしを初めて1年後くらいだったろうか。
料理をすることに慣れてきて、調理器具にこだわりたくなった時期があった。
その時に鉄のフライパンに憧れたのだが、思った以上の重さと扱いの大変さに挫折したのである。
「実際、面倒なんですが、鉄を育てる楽しみもあるんですよ。使っていくうちに油が馴染んで、焦げ付かなくなりますし」
「鉄分も摂れるんですよね」
「ええ、そうです。そして何より、鉄で焼くと美味いんです。ただ、百均の製品では試したことがないので、やってみたかったんですよね」
大倉は自分の鉄板を持ち、表と裏をじっくり眺めている。
「それが今日の実験なんですね?」
「ええ、そうです。そんなに大げさなものじゃないんですが、面白そうなので。……と、いろいろ御託を並べちゃいましたが、とりあえず食べましょうか?」
「はい!」
元気よく返事をしたカナコに、大倉はうんうんと嬉しそうにうなずいた。
彼はテーブルに防火シートを敷き、アルミのトレイを2つ置いた。
鉄板から油が垂れても良いように、その中にポケットストーブを置く。
カナコはキッチンにいる大倉に声をかけ、箸やグラスなどを準備した。
「浅漬け、いただいちゃいますね~」
「どうぞ、どうぞ」
大倉に言われて、カナコは返事をする。
「こっちがお肉でーす」
若干テンション高めの大倉のそばに行くと、肉をパックから出して皿に盛り付けてくれていた。個別にしてくれるのはありがたい。
「わぁ、いいお肉ですね……! 美味しそう!」
「駅前のスーパーで買ったんですが、結構いいものが置いてありまして」
「私もそこ、よく利用しますよ」
「意外と品揃えいいんですよね」
「ですです」
何てことない話題を共有することが、なんだか嬉しかった。
彼に渡された紙のエプロンをつけて着席する。焼肉屋で出されるものと同じだ。
焼き肉が成功するのか否か、楽しみで仕方がない。
「あの、後でまたお見せしますので、メシにしませんか?」
興味津々で寝袋を見つめ続けるカナコに、大倉が申し訳なさそうに言った。
「あっ、すみません……! 楽しくてつい、図々しいことを」
「楽しいなら良かったです。俺こそすみません。……腹減っちゃって」
バツが悪そうに頭に手をやっている。
うっかりときめきそうになったカナコは、手にしていた袋を彼に差し出した。
「浅漬けを作ってきたんです。お気に入りのプリンも買ってきました。良かったら一緒に食べませんか?」
「えっ!! やった~! ありがとうございます! 冷蔵庫に入れてきますね。そこの椅子に座って待っててください」
「はい」
無邪気に喜ぶ大倉の顔を見て、カナコも嬉しくなる。
「――ということで、今日の実験はコレです」
同じ物が2個ずつあり、大倉とカナコの前に一揃えずつ置かれている。
「これらを使って焼き肉を……?」
カナコはテーブルの上に並べられた物たちを、真剣な目で見つめた。どれも手のひらに乗るサイズなので、どうやって使うのか検討がつかない。
「ええ、そうです。全て百均で買ってきました」
「焼き肉をする道具が百均で揃っちゃうんですね……!?」
カナコの驚きに、大倉も「そうなんですよ」と言って目を輝かせた。
「上手くいったら、そちらのセットを差し上げますので、良かったら持ち帰ってください」
「ありがとうございます。もちろんお支払いさせていただきますので」
「いえ、それは大丈夫です。俺が書いているブログの記事にするつもりなので、それは経費にしますから。では早速始めましょう」
「はい」
大倉が手にした小さな箱と同じ物を、カナコも手にする。紙の箱の中から、銀色の四角い物を取り出した。
「ちょっと固いですが、こうやってひらきます」
「こうですね。……よし、ひらきました」
ガチャガチャッと左右にひらくと、四角い台になった。可愛い手のひらサイズである。
「これは何ですか?」
「ポケットストーブと言います。底に固形燃料を置けば、これ自体が五徳になって、調理ができます」
大倉は床に置いていた袋から、丸い固形燃料を取り出して、ポケットストーブの上に置いた。
「これって旅館で個々のお鍋に使われる燃料ですよね。大きさがピッタリ」
「そうです、そうです。この他にアルコール燃料を使ったり、焚き火台になるストーブもありますね」
大倉は紙に巻いてあった平たい物を手にした。
「で、これが鉄板です」
そう言いながら、紙を外した鉄板をカナコのポケットストーブの上に置く。スマホより一回り大きいくらいのサイズだ。
「か、可愛いっ! こんなに小さな鉄板があるんですね!?」
「小さいですよね。昨日、俺がシーズニングしておいたのですぐに使えますよ」
「シーズニング……??」
「鉄のフライパンや鍋、鉄板を使う前にしておく作業のことです。油を塗って、鉄板を熱して、冷ましてからまた油を塗って……の工程を5、6回繰り返します」
説明されて、そういえばと思い出す。
「ずいぶん前ですけど、それが面倒だと思って鉄のフライパンを諦めたことがありました……。シーズニングっていうんですね」
ひとり暮らしを初めて1年後くらいだったろうか。
料理をすることに慣れてきて、調理器具にこだわりたくなった時期があった。
その時に鉄のフライパンに憧れたのだが、思った以上の重さと扱いの大変さに挫折したのである。
「実際、面倒なんですが、鉄を育てる楽しみもあるんですよ。使っていくうちに油が馴染んで、焦げ付かなくなりますし」
「鉄分も摂れるんですよね」
「ええ、そうです。そして何より、鉄で焼くと美味いんです。ただ、百均の製品では試したことがないので、やってみたかったんですよね」
大倉は自分の鉄板を持ち、表と裏をじっくり眺めている。
「それが今日の実験なんですね?」
「ええ、そうです。そんなに大げさなものじゃないんですが、面白そうなので。……と、いろいろ御託を並べちゃいましたが、とりあえず食べましょうか?」
「はい!」
元気よく返事をしたカナコに、大倉はうんうんと嬉しそうにうなずいた。
彼はテーブルに防火シートを敷き、アルミのトレイを2つ置いた。
鉄板から油が垂れても良いように、その中にポケットストーブを置く。
カナコはキッチンにいる大倉に声をかけ、箸やグラスなどを準備した。
「浅漬け、いただいちゃいますね~」
「どうぞ、どうぞ」
大倉に言われて、カナコは返事をする。
「こっちがお肉でーす」
若干テンション高めの大倉のそばに行くと、肉をパックから出して皿に盛り付けてくれていた。個別にしてくれるのはありがたい。
「わぁ、いいお肉ですね……! 美味しそう!」
「駅前のスーパーで買ったんですが、結構いいものが置いてありまして」
「私もそこ、よく利用しますよ」
「意外と品揃えいいんですよね」
「ですです」
何てことない話題を共有することが、なんだか嬉しかった。
彼に渡された紙のエプロンをつけて着席する。焼肉屋で出されるものと同じだ。
焼き肉が成功するのか否か、楽しみで仕方がない。
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