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第1章
うちは出町柳のところで河原から地上に上がる。
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いつの間にか下鴨神社のあたりまで歩いてきた。鴨川は相変わらず緩やかな流れで、月も軽やかに光ってる。うちは出町柳のところで河原から地上に上がる。車がビュンと走って、赤信号で止まる。うちは信号を渡って、駅のところにあるミスタードーナツに入る。
「町子。」穏やかな声が聞こえて、うちが顔を向けるとそこには仲条さんがいる。
「こんばんは。」うちは挨拶をして、真向かいに座る。
「遅かったやん。」京大の仲条さんはここから三分のアパートに住んでる。
「そう?妹と喋ってたから。」うちはここまで歩いてきたことは内緒にした。
「そっか、静ちゃんは元気?」仲条さんは飲みかけのアイスコーヒーに口をつけた。
「うん、まぁまぁ。」うちはあいまいに答える。
「なんか食べる?」仲条さんはうちのご機嫌を伺うようにそう聞いてくる。
「どうしよ、甘いもん食べたい。」うちがそう言うと仲条さんは笑う
「ドーナツはどうでしょう、お嬢さん。」つまらん男やな、とうちは一瞬思う。でも顔はそこそこイケてるし、頭はピカイチ。すべてを求めては、奈落の底に落ちてしまう。
「ありがとう。」うちはそう言って、ドーナツとアイスコーヒーを注文する。
「読んだかな、こないだ貸した本。」仲条さんはタバコの代わりにガムを口に放り込む。
「えと、なんの本やっけ。」うちの頭の中はクルクルと回転するけど、どこにも行き着かへん。
「ほら、シュメール文明の。」仲条さんの専攻は考古学なのだ。うちにはよくわからん、と言うと仲条さんはその本を貸してくれた。
「ごめんまだ読めてない。」ほんとは一ページも開いてない。どうやって返却したものか。
「あれぜひ町子にも読んでもらいたい。」仲条さんはうちのことを町子と呼ぶ。恋人でもないのに。いや、彼のほうはもしかして恋人やと思ってるのかしらん。
「ね、仲条さん。」うちは思い切って聞いてみる。
「なに?」仲条さんは涼しそうな顔でガムをかんではる。
「うちのことどう思ってるん。」そう聞くとなぜかうちは顔が赤らんだ。
「え、なんなん急に。」そう言う仲条さんの顔は笑っている。あかん、勘違いさせてしまう。
「ちゃう、ちゃうで。そういう意味じゃなくて。」説明しようとするほど、ドつぼにはまるとはこのことや。
「なんなん。」仲条さんはシュメール人みたいな表情になる。
「だから、うちのこと友達とか妹とか、ほらあるやん。」言えば言うほど、まるで自分が告白してるような感じになってる。
「え、なに。彼女ってこと?」そう言う仲条さんの顔は笑顔になり、また一瞬で真剣になる。
「いやそういう意味ちゃうねんけど。」うちはもう爆発しそうなくらい赤くなる。向こうの店員もこっちを見てるんちゃうやろか。
「どういう意味なん。」仲条さんのその姿が突然うちにはクールに見えた。まいったな、月の明かりのせいやろか。
「よかったら、付き合ってください。」うちは怒涛のセリフに我ながら火を噴きそうやった。でも仲条さんは大人な態度でそれを受け止めてくれはる。
「ねぇ町子。その気持ちはうれしいんやけど。」うちの握っている手は汗まみれになってる。なんでなんやろ。
「だからそういう意味ちゃうねん。」今さらなにを弁解しようとしてるんやろ、うちは。
「じゃあどういう意味なん。」仲条さんの顔も少し赤らんで、でも温かい目でうちを見てくれている。
「いーから、外に出よ。」うちは飲みかけのアイスコーヒーを置いて立ち上がった。
「ほんとに?」仲条さんは少し戸惑いながらも、あとを追うように外に出た。うちは泣きたいような気分に襲われる。なんでこんな無謀なことをしてるんやろ。下駄の鼻緒が切れたからって、世界が終わるわけちゃうわけやし。
「町子。」穏やかな声が聞こえて、うちが顔を向けるとそこには仲条さんがいる。
「こんばんは。」うちは挨拶をして、真向かいに座る。
「遅かったやん。」京大の仲条さんはここから三分のアパートに住んでる。
「そう?妹と喋ってたから。」うちはここまで歩いてきたことは内緒にした。
「そっか、静ちゃんは元気?」仲条さんは飲みかけのアイスコーヒーに口をつけた。
「うん、まぁまぁ。」うちはあいまいに答える。
「なんか食べる?」仲条さんはうちのご機嫌を伺うようにそう聞いてくる。
「どうしよ、甘いもん食べたい。」うちがそう言うと仲条さんは笑う
「ドーナツはどうでしょう、お嬢さん。」つまらん男やな、とうちは一瞬思う。でも顔はそこそこイケてるし、頭はピカイチ。すべてを求めては、奈落の底に落ちてしまう。
「ありがとう。」うちはそう言って、ドーナツとアイスコーヒーを注文する。
「読んだかな、こないだ貸した本。」仲条さんはタバコの代わりにガムを口に放り込む。
「えと、なんの本やっけ。」うちの頭の中はクルクルと回転するけど、どこにも行き着かへん。
「ほら、シュメール文明の。」仲条さんの専攻は考古学なのだ。うちにはよくわからん、と言うと仲条さんはその本を貸してくれた。
「ごめんまだ読めてない。」ほんとは一ページも開いてない。どうやって返却したものか。
「あれぜひ町子にも読んでもらいたい。」仲条さんはうちのことを町子と呼ぶ。恋人でもないのに。いや、彼のほうはもしかして恋人やと思ってるのかしらん。
「ね、仲条さん。」うちは思い切って聞いてみる。
「なに?」仲条さんは涼しそうな顔でガムをかんではる。
「うちのことどう思ってるん。」そう聞くとなぜかうちは顔が赤らんだ。
「え、なんなん急に。」そう言う仲条さんの顔は笑っている。あかん、勘違いさせてしまう。
「ちゃう、ちゃうで。そういう意味じゃなくて。」説明しようとするほど、ドつぼにはまるとはこのことや。
「なんなん。」仲条さんはシュメール人みたいな表情になる。
「だから、うちのこと友達とか妹とか、ほらあるやん。」言えば言うほど、まるで自分が告白してるような感じになってる。
「え、なに。彼女ってこと?」そう言う仲条さんの顔は笑顔になり、また一瞬で真剣になる。
「いやそういう意味ちゃうねんけど。」うちはもう爆発しそうなくらい赤くなる。向こうの店員もこっちを見てるんちゃうやろか。
「どういう意味なん。」仲条さんのその姿が突然うちにはクールに見えた。まいったな、月の明かりのせいやろか。
「よかったら、付き合ってください。」うちは怒涛のセリフに我ながら火を噴きそうやった。でも仲条さんは大人な態度でそれを受け止めてくれはる。
「ねぇ町子。その気持ちはうれしいんやけど。」うちの握っている手は汗まみれになってる。なんでなんやろ。
「だからそういう意味ちゃうねん。」今さらなにを弁解しようとしてるんやろ、うちは。
「じゃあどういう意味なん。」仲条さんの顔も少し赤らんで、でも温かい目でうちを見てくれている。
「いーから、外に出よ。」うちは飲みかけのアイスコーヒーを置いて立ち上がった。
「ほんとに?」仲条さんは少し戸惑いながらも、あとを追うように外に出た。うちは泣きたいような気分に襲われる。なんでこんな無謀なことをしてるんやろ。下駄の鼻緒が切れたからって、世界が終わるわけちゃうわけやし。
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