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第1章
これもすべて小リスのおかげかもしれへん。
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いまやうちは夜の植物園を平和に歩いている。これもすべて小リスのおかげかもしれへん。だって小リスを抱いていると、なぜかしらとても居心地がよくすべての不安や恐怖を忘れてしまうから。あーいとしいわ、この小動物。手のひらにいる小リスを歩きながらうちは北門まで来る。そこでふと気がついた。「あ、門しまってる。」どうしよう、南門が開いてたからてっきり北門も開いているって勝手に思ってたけど。門の向こう側の北山通りでは車が軽やかに走り去る。「いーしまった。」と、うちは知らないうちに掛詞など発してるけど、今はそれどころちゃうねん。ウー小リスさん、こんなときはどうしたらええん?って見ると、やはり相変わらずのいとしさで小リスは眠っている。えーん、あてにならんやっちゃ。仕方ない、南門までもう一度戻るか。ってうちが思ったとき、思いがけず門がギーっという音をたてて開いた。おー、ってうちは驚嘆する。いや大きい方の門ちゃうでその横にある、人が一人出入りできるくらいの小さい門。いやどっちだってええねん。とにかくその門が勝手に急に突然開いてん。「かーなんてこったい。」と急に江戸っ子になったような気分で、うちは門から外界に出る。ちょうど周りには誰もおらへんから、よし。ささ、うちに帰ろうと思ったところで、手の中の小リスがこちょこちょと動き出した。「あれ、お前どうしたん?」とうちは愛しの小リスを見る。そして再び門を振り向く。するとあの小さき門がまたギーっと閉まっていくではないか。あれ、もしかしてお前なのかい。とうちは小リスに向かって話しかけた。でも小リスは小リスなりの無邪気さでうちを無視して、手から逃げようとしてる。「んなわけないか。」とうちは言いながらも、門に感謝する。でもこの小動物をどうしたらえーのかわからへん。「だってうちの部屋は動物禁止やしな。」いや誰もリスには気がつかへん気もするけど。犬や猫とちがって鳴かへんし。何よりこのかわいさやで、誰も文句なんて言わへんやろ。文句言う奴はすべて「うちが始末したる。」なんて言うてる場合ちゃう。それか誰かに預かってもらおうか。実家にいる静とか、電話してみよか。とケイタイを開くと見事に充電が切れてる。まったく役に立たへん妹や、もとい役立たずなケイタイや。じゃ、他に預けられる人といったら。「仲条さん?」うちはまた彼のことを思い出す。しまった。せっかく一瞬でも忘れかけたっていうのに。そうや仲条さんの下宿はどう考えても無理やから、後日仲条さんの実家に預かってもらおうか。小リスくらい預かってくれるやろ。なんやったら香苗ちゃんだってきっと喜んでくれる。うちは仲条さんの妹さん、香苗ちゃんにピアノも教えてあげてた仲や。そうしたらまたうちは仲条さんに会う口実ができるってもんや。などと考えて、うちは思わず頭を振る。「あかん、うち執着してる。ミスター仲条に振り回されてる。」わかってるで、そら仲条さんは何も悪くない。「しゃあない。」と言って、うちは小リスをなでる。「ごめん、許して。飼うことはできへんねん。」うちはうちを救ってくれた(とうちが勝手に思ってる)小リスを見つめた。すると小リスは純粋そうな「無」の瞳をうちに投げかけるではないかい。あかん、うちこの子を見捨てることできへん。うちがすべて悪いねん。勝手に振り回されてるねん。うちは北山通りを再び鴨川のほうに向かって歩いている。そして鴨川まで戻ってきて、この子を放そうとしたけどどうにも上手くできへん。そんなこんなのうちのことを見てるマラソンランナーとか弾き語りのミュージシャンとかいるし。夜の鴨川はよりいっそう静かに流れている。生暖かい空気が風にのってうちの心へと届く。「わかった、もう少し。」とうちはこの子にご飯を与えることにする。もとい、うちもお腹がグーっとなるほど減っていたのだ。河原にある馴染みのカフェレストラン「和風」にうちは駆け上がる。小リスを抱えて。
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