よるのまちのメヌエット、植物園襲撃~

ふし文人

文字の大きさ
27 / 80
第2章

 もうすぐ上賀茂神社やというのに、うちは五右衛門と歩きながら再び不安に襲われていた。

しおりを挟む

 もうすぐ上賀茂神社やというのに、うちは五右衛門と歩きながら再び不安に襲われていた。
「だってあの人たち、なんか怪しい。」と後ろをついてくる影たちの姿をうちは見る。
「見ては駄目でござる。」と五右衛門もまた速足でうちの後ろを守るように着いてくる。
「絶対、帰ったらお風呂に入る。」うちは関係ないことを言って気を紛らわそうとする。でも実際に汗もかいてきた。
「ねぇ、あの人たち。首あった?」とうちは振り返りもせずに五右衛門に話かける。
「いや。」と簡単に五右衛門は答えたけれど、うちの問いに対しては神妙な面持ちをしてはる。
「首なかったやんね。ないよね、首なし、え、死んでるってこと?」うちはもう想像がエスカレートするし、そうなると怖くて歩く足も速くなるばかり。
「あれは、もしかすると吊り首にされた武士の。」と五右衛門は月明かりが雲間から出そうなのを確認しながら言う。
「え、なんなん。武士のなんなん、あいつら。」うちは後ろの影たちをあいつら呼ばわりしたけど、ほんまはすっごい心臓がバクバクいってて、めっちゃ怖かってん。
「死霊。」と五右衛門は言ったところで、後ろを振り向いた。するとその影だか死霊だか、肥料だか知らんけど、そいつらが飛び跳ねて襲いかかってくる。
「きゃー。」とうちはドラマみたいな悲鳴を上げる。
「町子殿。」と五右衛門はたくましくもうちを後ろから守ってくれようとしている。で、うちが逃げながらも振り向くと、そこにはゾンビみたいな首のない死霊たちが、わんさか五右衛門に飛びかかる。
「あかん、やられる。五右衛門。」とうちは泣きそうになりながら、怖くて怖くて走った。そしてどれくらい河原を行ったかわからんけど、そこでへなへなと座りこんだ。もう死霊も何も見えんかった。うちはがくがく震えて、その震えが手元のリスにも伝わったのか、起きてきた。
「ねぇ、五右衛門がやられた。ねぇ。」とうちは泣きながらリスに話しかける。リスはそれを察知したのか、うちの涙を拭くようなそぶりで慰めてくれる。
「なんなん。うちが何をしたん。五右衛門が何を悪いことしたん。」とうちは悲しさに打ち震えた。
「拙者は何もしてござらん。」顔を上げると、そこには血だらけになった五右衛門がいた。この人は無敵。とうちは変に納得した。
「生きてたん?」とうちはむせび泣きながら五右衛門に話しかけた。
「なんとか。」と五右衛門はまだ息を切らしながら、その刀を鞘に収めた。
「切ったん?」とうちは聞いて、いらんこと言ってしまったと思った。お侍さんやから、そりゃ切るでしょ。しかも相手はゾンビなんやから。
「何人かは。しかし。」と五右衛門は浮かない顔で、うちのことを見つめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...