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第3章
「ありがとうございます。」とうちはお坊さんにお礼を言う。
しおりを挟む早ければ早いほどいい、とお坊さんは言った。そうは言っても、今日はもう深夜や。うちは行くかどうしようか迷った。
「ありがとうございます。」とうちはお坊さんにお礼を言う。
「何もしてやれんで、すみませぬ。」とお坊さんは言ってくれる。
「いえ、原因と解決方法がわかっただけでも。」うちは頭を下げる。
「タクシーを呼びましょうか?」とお坊さんは言ってくれる。
「いえ、大丈夫です。歩きますから。」とうちが答えると、少しお坊さんは心配そうな顔をした。
「若い乙女が。」と不憫そうな表情。ま、たしかにうら若い乙女には違いないけど、お金がないねん。とは言えない。
「若いので、歩けます。」とうちは答える。
「そうですか。」とお坊さんは言う。そして、柊の葉っぱをうちにくれる。
「これは?」とうちが聞くと、お坊さんはこう言った。
「お守りです。邪悪な念、霊から一時的ですが身を守ってくれるでしょう。」これや、こういうのを待っててん。
「ありがとうございます。」とうちは感謝して再び頭を下げる。
「お気をつけて。」とお坊さんは境内の端っこまでうちを見送ってくれる。入ってきたのとは逆、北側の裏口。
「はい。」とうちはリスを抱いて、周辺を伺う。あたりは静けさに覆われている。さっき雨が降ったみたいや。今は月明かりが京都の町を照らしている。うちはそそくさと、神社を離れる。遠くにお坊さんの姿がいつまでも見えて、名残惜しそうにしてはる。でもいつまたあの死霊たちが襲ってくるとは限らへん。うちは半分ダッシュと早歩きで、東へ向かう。そう、ここからちょっと行ったとこに叡山電鉄が走ってる。もし行けるなら行ってしまいたい。さっさとお祓いしてもらお。もう深夜やから終電車があるかどうかわからんけど。
「とにかく行ってみよ。」とうちは行動することに賭ける。あれこれ考えてもしゃあない。携帯の電池は切れてるし、調べることもできへん。それに電車がなかっても、そのまま南に下ったら自分の部屋へも帰れるやん。
「これぞ一石二鳥。」とうちは息を切らしながら歩く。
「あの五右衛門が、ずいぶん前からうちに憑りついてるなんて。」不思議というか、なんで今まで気づかんかったんやろ。やっぱりこの子が関係してるんやろうか。放してやれんかったけど。うちは再び眠りについているリスを胸に抱えている。まるでふわふわの温かいボールを抱いているみたい。この子も生きてるんや、とうちは生命のエネルギーを感じながら思う。
「町子殿。」とそこで声がした。うちは一瞬びくっとなる。
「五右衛門?」うちの目の前に彼は立っている。
「無事でよかった。」と五右衛門は言う。その姿はぼろぼろで、悪霊たちとの戦いの遍歴が見てとれた。
「血が。」うちは五右衛門に近づく。彼の全身は切り傷だらけで、血が滴っている。
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