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第4章
五右衛門はじっと隣で目をつむってはる。
しおりを挟む夜空に月が突き出てる。うちが目を覚ますと、まだ電車はゆっくりと走っている。途中で何回か駅に止まったみたいやけど、うちは気づかなかった。五右衛門はじっと隣で目をつむってはる。寝てるんやろうか。うちは少し疲れた。今夜はあまりに色んなことがたくさんあった。三条御池で静と別れてから、出町柳で仲条さんと話をして、植物園でこの子と出会い。うちは懐でうずくまっているリスを撫でる。とても温かく、思わず癒される。なんて小さくてかわいいんやろ。でもせっかく上賀茂神社で逃がしてやろうと思ったけど、うまくいかへんかった。逆にお坊さんから鞍馬寺に行ってお祓いを受けるように言われた。
「貴船神社前。貴船神社前。」と、そこで車内アナウンスが言った。
「あれ、貴船神社?」とうちは思わず立ち上がる。
「どうしたでござる。」と五右衛門も立ち上がる。
「ここで降りるんやっけ。」とうちは迷う。
「聞いてみてはいかがか。」と五右衛門は言う。確かにその通りやけど、聞く人が周りにおらへん。
「出発いたします。」というアナウンスが言う。
「降りよう。」とうちは五右衛門を見て、ドアから外に出る。
「分かり申した。」と五右衛門も素早く降りる。すぐに電車のドアは閉まって、カタコトと動き出す。うちらは何もないホームで、電車が過ぎゆくのを見送った。
「ほんまに降りてよかったんかな。」うちは猛列な不安に駆られた。
「どうでござるか。」五右衛門に聞いてもわかるわけない。
「お坊さんは確か、鞍馬寺って言ってたような。それとも貴船やっけ。」うちは混乱する。
「さっきの場所は神社でござる。」と五右衛門が言う。確かに上賀茂神社で聞いたんやから、教えてくれたんも貴船神社かもしれん。うちはそんな気がする。
「そうかもしれん。」とうちは駅にある地図を見る。貴船神社は少し歩いた所にある。鞍馬寺もそんなに遠くはない。山の駅を二、三ほど行ったところや。
「どうするでござる。」と五右衛門が聞いてくる。
「とにかく行こっか。」とうちは言う。電車から降りてしまったからには、歩かなしゃあない。
「行くでござる。」と忠犬のように五右衛門はうちの後ろをついてくる。さすが霊や。もしかしてこの五右衛門は守護霊なんちゃうやろうか。と、うちはそんな気さえしてくる。霊だって悪い霊と良い霊があるはずや。さっきの襲いかかってきた霊たちは、きっと悪い霊にちがいない。彼らから五右衛門はうちのことを守ってくれた。良い霊にちがいない。うちは山道を歩きながら、振り向いて五右衛門に微笑んだ。彼は不思議そうな顔をしながら、ゆっくりと後ろをついてくる。
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