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第4章
暗さが増してくるようなのは、ここが山やからや。
しおりを挟むせせらぎが流れるその横を、うちと五右衛門は歩く。暗さが増してくるようなのは、ここが山やからや。少し肌寒い。
「だいぶ下とはちゃうね。」とうちは心細さを誤魔化すように言った。
「そうでござるな。下界はちと騒がしい。」と五右衛門に言われて、そっか下のほうがうるさかったんやと思った。この山の静けさのほうが実は本当なんかもしれん。
「夜でも明るくて賑やかなんに慣れてるから。」とうちは独り言のように言う。
「すごい時代でござる。」と五右衛門も答えてくれたので、やっと彼も歴史感覚を身につけたんやと思った。
「五右衛門の時代はどんなんやったん?」うちはようやく彼のことを尋ねることができた。
「そうでござるな。少なくとも、このような動物はおらんかったでござる。」と五右衛門はリスのことを言った。
「そうでござるか。」そううちは答えて、微笑んだ。五右衛門もリスのことを気遣う余裕ができたみたいや。
「そうでござる。」と五右衛門は言って、ふぅとため息をついた。それでうちはこのお侍さんが、本当に霊なのかまた分からなくなった。霊でもため息つくんやろうか。それとも、やっぱりタイムスリップしてきただけちゃうんやろか。それはそれでえらいこっちゃやけど。
「こっちでええんかな。」とせせらぎの横を歩きながら、うちは言った。あたりが一層暗くなっていることに気づいたのはその時やった。
「危ない。」と言って、五右衛門がうちのことを押す。うちは思わず倒れそうになった。
「わっ。」と叫んで、ようやくせせらぎに落ちずにすんだ。さっきまでは月明かりが川面に映っていたのに、それが消えていることがようやく分かった。真っ暗に近い。
「大丈夫でござるか。」という五右衛門の声は聞こえるけど、真っ暗になった空間で彼の姿も見えへん。
「五右衛門?」とうちは言う。だけど、何も反応はない。すると、突然すぐそこで声が上がった。
「おりゃ。」という声とともに、また刀がぶつかり合う音がした。「えいや、せいや。」という声が飛びかう。うちは思わず身をかがめる。暗闇の中の戦いは見えへんくて、余計に恐怖が増してくる。いやや、こんなとこで死にたくない。もっと恋愛したいし、おいしいものも食べたい。ああ、静にもっと優しくしとけばよかった。お父さんやお母さんにも、親孝行しとけばよかった。などと、うちの中で色んなことが走馬灯のように駆け巡る。死に瀕すると、人間ってほんまにこんな風になるんやと初めて知った。「とりゃ、そりゃ。」という声は、まだ続いている。そうや、あのお坊さんにもらった柊の葉っぱをつけよう。と、そうしてうちはしばらく身を伏せている。
「五右衛門?」少ししてから、うちは声に出してみる。すると一斉に声が止んで、静けさが再びやってくる。ただ川のせせらぎだけが、いつまでも聞こえている。うちは恐怖と希望の中をいったりきたりしながら、まるで迷える子羊のよう。するとお腹のところで小リスが動いて、それでようやくうちは自分がまだ生きてることを感じられた。いやや、生きてはるんはこの小さな動物であって、もしかしてうちはもう死んでるのかもしれん。
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