よるのまちのメヌエット、植物園襲撃～

第５章

「え、はい。」うちの心を読んだんやろうか。

　月が照らす階段をうちは降りて行く。天狗の体はうちの倍くらいはある。よく考えたら、天狗って鼻は高いし外国人みたいや。赤い顔してはるし、もしかして鬼の仲間かもしれん。
「鬼の仲間ちゃうで。」断固とした力強さで天狗は言った。
「え、はい。」うちの心を読んだんやろうか。
「鬼はあっち側の、私はこっち側のものや。」どっちがあっちで、こっちがどっちなんかさっぱり分からんけど。
「はぁ、そうですか。」ややこしい話しに巻き込まれたくないので、うちは適当に答える。
「もう巻き込まれとる。もっと責任を持て。」天狗はぶつくさ言いながら階段を降りて行く。
「すみません。」なぜかうちは謝っている。それなりにうちだって頑張ってるんやけどな、と思いながら。
「それなりに、ではなくて全力で御頼み申す。」と天狗は言う。
「はぁ、頑張ります。」なんかこの天狗は体育会系というか、ノリがあわへんわ。
「体育会系？」と天狗がつぶやく。
「やっぱり心読んでるやん。」と思わずうちはつっこんだ。
「ここや。」天狗はそれには答えず、階段の下で止まった。
「はぁ、やっとか。」だいぶ下まで来たから、もう鞍馬寺も見えやしぃひん。
「ここも鞍馬、いや蔵馬。」天狗は何か訳の分からんことを言ってる。
「どういうこと？」最近うちは分からんことは尋ねることにしている。
「ここは蔵馬、蔵、お蔵入り、いや真っ暗。」なんやねん。ますます訳わからん。
「大丈夫？」とうちは聞く。
「もちろん、訳は分かっとるで。」天狗はそう言うと、蔵の扉を開いた。
「ほんま真っ暗やん。」ただでさえ暗いのに、蔵の中は月明かりも届かへん暗さ。
「ロウソクをつけ申す。」と天狗が言うので、うちは懐中電灯で照らしてあげた。
「天狗さんもこの機械使ったら？」懐中電灯のことを機械と言うのはどうかと思ったけど。
「いや。」と天狗は頑固にロウソクにこだわる。
「中入るん？どうすれば。いたっ。」うちの髪の毛を天狗が引っ張った。
「失礼仕る。」そう言いながら、うちの髪の毛をさらに引っ張る。
「痛いっ。ちょっと、なにするん、失礼やろ。変態、鬼、悪魔。」うちは蔵の中で叫んだ。
「天狗、と言っておる。」そう言って、天狗はようやくうちの髪の毛から手を離した。
「なにするねん。」うちは本気で怒ったけど、ふと見ると天狗のお面がずれてはる。え？