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第9話 謎の美女マリア、俺に説明する
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美少女アシュリーは、なぜかオレを全面的に信頼してくれた。今は俺の隣で寝ている。
(……よ、良いにおいがする)
アシュリーの髪の毛から、石鹸のにおいがただよってくる。いやいや、ここは紳士的な心持ちで、今日は寝よう。
──その時!
『これから、ゼント・ラージェントの能力について説明を申し上げます』
「ん? なんだ?」
若い女性の声が聞こえたような……。
俺は、俺の子ども部屋の周囲を見回した。アシュリーはぐっすり眠っている。アシュリーの声じゃないのか。
すると、周囲が突然光った。
「え? ここ、どこだ?」
気付くと、ここは──自分の部屋ではなかった。
どこかの芝生広場──高原のような場所だ。山に囲まれた、美しい場所だった。
俺は芝生の上に座っていた。
「な、なんだよ、ここ? うわっ!」
俺は声を上げた。いつの間にか、俺の前に、美しく若い女性がフワフワ浮かんでいたからだ。白いワンピースを着ている。
いつの間に現われたんだ?
「だ、誰なんだ、君は!」
女性は空中にフワフワ浮かんでいる。スタイルはいいし……胸がでかい……。
『私の名は、【マリア】』
彼女は、驚く俺を見ながら言った。
『私は、あなたを見守る存在』
意味分からん。何だそりゃ。
『これは夢ではありません。あなたの頭の中に、高原の風景を送っています』
「き、君は背後霊みたいなものか?」
俺が聞くと、マリアはちょっと顔を赤らめて、咳払いした。
『……そこはかわいらしく、守護天使と言ってください』
「君が、クローゼットに光る扉を作った人?」
『はい。私があなたに成長の機会を作りました』
マリアなる女はすんなり言った。
ともかく、このマリアって女子は、俺の守護霊とか、守護天使みたいな存在らしい。本当かよ……。
あっ、守護霊なら……聞くことがある!
「お、教えてくれ。俺、病気か何かで死んだ叔母さんを、つ、土に埋めちゃったんだけど……」
『ええ、知ってますよ。一部始終を見ていましたから』
「何で警察とか、俺のところに来ないんだ? 普通、村人が、『ラーサさんがいなくなった!』って騒ぐだろう」
『大丈夫ですよ』
マリアは平然とした顔で言った。
『私が、村人から叔母様の記憶を、一時的に消したのです』
「き、記憶を消した?」
『ええ、神様のルールに沿って、一時的にですけど。だからあなたのところに、叔母様のことで人が聞きにこないのです。1ヶ月くらい効力があります』
「そ、そ、そんなことができるのか」
『私は神様の使徒、可能です。今のあなたには別の仕事がありますから、私が少々、お手伝いをさせていただきました。そもそもあなたは、叔母様を思う優しい気持ちから、彼女をとむらったのです。ですから、胸を張って生きてください』
そしてマリアは付け加えた。
『このグランバーン王国は、魔物との戦争が多いのです。ですから、警察などを介さず、人が埋葬される場合が多いですよ。あなたが叔母様を埋葬した件は、罪に問われないはずです』
あ、安心した~……なんて言ってる場合じゃない。
しかし、マリアは構わず話を続けた。
『さてゼント、あなたは、【歴戦の武闘王】【神の加護】という二つの強力なスキルを持っています』
「ス、スキルって何だっけ?」
『えー……』
マリアは、そんなことも知らないのか、という風に頭を抱えて言った。
『スキルは簡単に言えば、能力のこと』
思い出した。強い戦士や魔法使いには、能力が身に付いているらしい。
俺にも、そんなものがあるって? そんなバカな。
『ではまず、あなたの持つスキルの一つ、【歴戦の武闘王】の説明をします。あなたは武闘家の才能があるのです。つまり格闘術の才能です』
「あのな~。クソ弱い俺が? そもそも俺は魔法剣士だったんだぞ。武闘家って、素手でモンスターをぶっ倒すヤツだろ。俺にそんな才能があるなんて、そんなのどうやって信じたらいいんだよ」
『ゼント、あなたはさっき、自分で武闘家としての才能を証明したはずです』
え?
あっ……そうか!
アシュリーの叔父を右カウンターパンチで倒したのも、そのせいなのか! そ、そういえばエルサが昔、「ゼントはすごい武闘家の才能がある」と言っていた気がする。
あれは本当だったのか。
『納得してくれましたか』
マリアはホッとした表情をした。いやいや……あれはラッキーパンチかもしれんだろ。……いや待てよ、ラッキーパンチで、あんな屈強なオヤジを倒せるか? うーむ……。
『さてゼント、あなたはもう一つのスキル、【神の加護】を持っています。神様が守ってくださる能力です』
「お、おう……。神様……? そうなのか、よく分からんが」
『このスキルは、神様の加護で、人の【運勢】【潜在能力】を引きあげる効果があります。すごいでしょう』
「ま、待て待て。俺は、二十年前、弱すぎて荷物持ちだったんだぞ」
俺はマリアに言った。
「しかも、今は引きこもりだ。神様に守ってもらえるスキルを、本当に持っていたら、もっと良い人生が送れたはずだ」
『いえ、この【神の加護】は、あなたが引きこもりにならなければ発動しないのです』
「へ?」
『つまり、あなたが引きこもりになった時に、発動するスキルなのです。あなたが生まれる前、あなたと神様がそう決めたのですよ。あなたの叔母が、あなたに毎日食事を持ってきてくれたことを、思い出してください』
「え……あっ……! いや、しかし」
俺は死んだ叔母さんのことを思い出していた。ど、どういうことだ?
『【神の加護】があなたから発動したから、あなたは食事を毎日食べられたのですよ。あなたの叔母は、あなたに愛がありました。彼女は、あなたを守る【神の加護】の役目を果たした、ということなのです』
叔母は、俺を愛してくれていたのか。俺は涙が出そうになった。い、いやいや。だまされんぞ。これは、ワナじゃないのか? 俺は周囲を見回した。
構わずマリアは言った。
『【神の加護】は、これからもあなたをずっと守り続けるでしょう。さてゼント、あなたはこれから、地上最強の勇者──最強の武闘王になるのです!』
マリアはビシッと俺を指差して言った。
「さ、最強の武闘王~?」
俺は驚いて声を上げた。
「そんなアホな……武闘王って伝説の格闘術の王者だろ。バカな、俺がそんなに強いわけ……」
『あ、ちなみに、現在、大勇者のゲルドンですが──。今月から運勢が急落します。彼も【神の加護】というスキルを持っているのですが』
「え? そうなのか?」
『今月から、有効期限切れですね』
「は? えええ? スキルに有効期限? そんなのあるのか?」
俺は首を傾げた。マリアはフフッと笑った。
『まあ、とにかく、あなたには最強の武闘家の才能がある。信じなさい』
さっきも【歴戦の武闘王】とかなんとか言っていたが、これ、マジ話なのか? 俺が最強の武闘王だって? 信じられん。
『以上、メッセージをお伝えしました。またお会いしましょう』
マリアはそう言うと、スッと消えてしまった。
また俺の部屋の風景に戻った。俺の横では、アシュリーがぐっすり寝ている。
い、今のは、何だったんだ? 夢だったのか?
しかし、俺が地上最強の勇者──最強の武闘王になること──。
次の日から、実現に向けて運命が動き出すのだった!
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アシュリーの髪の毛から、石鹸のにおいがただよってくる。いやいや、ここは紳士的な心持ちで、今日は寝よう。
──その時!
『これから、ゼント・ラージェントの能力について説明を申し上げます』
「ん? なんだ?」
若い女性の声が聞こえたような……。
俺は、俺の子ども部屋の周囲を見回した。アシュリーはぐっすり眠っている。アシュリーの声じゃないのか。
すると、周囲が突然光った。
「え? ここ、どこだ?」
気付くと、ここは──自分の部屋ではなかった。
どこかの芝生広場──高原のような場所だ。山に囲まれた、美しい場所だった。
俺は芝生の上に座っていた。
「な、なんだよ、ここ? うわっ!」
俺は声を上げた。いつの間にか、俺の前に、美しく若い女性がフワフワ浮かんでいたからだ。白いワンピースを着ている。
いつの間に現われたんだ?
「だ、誰なんだ、君は!」
女性は空中にフワフワ浮かんでいる。スタイルはいいし……胸がでかい……。
『私の名は、【マリア】』
彼女は、驚く俺を見ながら言った。
『私は、あなたを見守る存在』
意味分からん。何だそりゃ。
『これは夢ではありません。あなたの頭の中に、高原の風景を送っています』
「き、君は背後霊みたいなものか?」
俺が聞くと、マリアはちょっと顔を赤らめて、咳払いした。
『……そこはかわいらしく、守護天使と言ってください』
「君が、クローゼットに光る扉を作った人?」
『はい。私があなたに成長の機会を作りました』
マリアなる女はすんなり言った。
ともかく、このマリアって女子は、俺の守護霊とか、守護天使みたいな存在らしい。本当かよ……。
あっ、守護霊なら……聞くことがある!
「お、教えてくれ。俺、病気か何かで死んだ叔母さんを、つ、土に埋めちゃったんだけど……」
『ええ、知ってますよ。一部始終を見ていましたから』
「何で警察とか、俺のところに来ないんだ? 普通、村人が、『ラーサさんがいなくなった!』って騒ぐだろう」
『大丈夫ですよ』
マリアは平然とした顔で言った。
『私が、村人から叔母様の記憶を、一時的に消したのです』
「き、記憶を消した?」
『ええ、神様のルールに沿って、一時的にですけど。だからあなたのところに、叔母様のことで人が聞きにこないのです。1ヶ月くらい効力があります』
「そ、そ、そんなことができるのか」
『私は神様の使徒、可能です。今のあなたには別の仕事がありますから、私が少々、お手伝いをさせていただきました。そもそもあなたは、叔母様を思う優しい気持ちから、彼女をとむらったのです。ですから、胸を張って生きてください』
そしてマリアは付け加えた。
『このグランバーン王国は、魔物との戦争が多いのです。ですから、警察などを介さず、人が埋葬される場合が多いですよ。あなたが叔母様を埋葬した件は、罪に問われないはずです』
あ、安心した~……なんて言ってる場合じゃない。
しかし、マリアは構わず話を続けた。
『さてゼント、あなたは、【歴戦の武闘王】【神の加護】という二つの強力なスキルを持っています』
「ス、スキルって何だっけ?」
『えー……』
マリアは、そんなことも知らないのか、という風に頭を抱えて言った。
『スキルは簡単に言えば、能力のこと』
思い出した。強い戦士や魔法使いには、能力が身に付いているらしい。
俺にも、そんなものがあるって? そんなバカな。
『ではまず、あなたの持つスキルの一つ、【歴戦の武闘王】の説明をします。あなたは武闘家の才能があるのです。つまり格闘術の才能です』
「あのな~。クソ弱い俺が? そもそも俺は魔法剣士だったんだぞ。武闘家って、素手でモンスターをぶっ倒すヤツだろ。俺にそんな才能があるなんて、そんなのどうやって信じたらいいんだよ」
『ゼント、あなたはさっき、自分で武闘家としての才能を証明したはずです』
え?
あっ……そうか!
アシュリーの叔父を右カウンターパンチで倒したのも、そのせいなのか! そ、そういえばエルサが昔、「ゼントはすごい武闘家の才能がある」と言っていた気がする。
あれは本当だったのか。
『納得してくれましたか』
マリアはホッとした表情をした。いやいや……あれはラッキーパンチかもしれんだろ。……いや待てよ、ラッキーパンチで、あんな屈強なオヤジを倒せるか? うーむ……。
『さてゼント、あなたはもう一つのスキル、【神の加護】を持っています。神様が守ってくださる能力です』
「お、おう……。神様……? そうなのか、よく分からんが」
『このスキルは、神様の加護で、人の【運勢】【潜在能力】を引きあげる効果があります。すごいでしょう』
「ま、待て待て。俺は、二十年前、弱すぎて荷物持ちだったんだぞ」
俺はマリアに言った。
「しかも、今は引きこもりだ。神様に守ってもらえるスキルを、本当に持っていたら、もっと良い人生が送れたはずだ」
『いえ、この【神の加護】は、あなたが引きこもりにならなければ発動しないのです』
「へ?」
『つまり、あなたが引きこもりになった時に、発動するスキルなのです。あなたが生まれる前、あなたと神様がそう決めたのですよ。あなたの叔母が、あなたに毎日食事を持ってきてくれたことを、思い出してください』
「え……あっ……! いや、しかし」
俺は死んだ叔母さんのことを思い出していた。ど、どういうことだ?
『【神の加護】があなたから発動したから、あなたは食事を毎日食べられたのですよ。あなたの叔母は、あなたに愛がありました。彼女は、あなたを守る【神の加護】の役目を果たした、ということなのです』
叔母は、俺を愛してくれていたのか。俺は涙が出そうになった。い、いやいや。だまされんぞ。これは、ワナじゃないのか? 俺は周囲を見回した。
構わずマリアは言った。
『【神の加護】は、これからもあなたをずっと守り続けるでしょう。さてゼント、あなたはこれから、地上最強の勇者──最強の武闘王になるのです!』
マリアはビシッと俺を指差して言った。
「さ、最強の武闘王~?」
俺は驚いて声を上げた。
「そんなアホな……武闘王って伝説の格闘術の王者だろ。バカな、俺がそんなに強いわけ……」
『あ、ちなみに、現在、大勇者のゲルドンですが──。今月から運勢が急落します。彼も【神の加護】というスキルを持っているのですが』
「え? そうなのか?」
『今月から、有効期限切れですね』
「は? えええ? スキルに有効期限? そんなのあるのか?」
俺は首を傾げた。マリアはフフッと笑った。
『まあ、とにかく、あなたには最強の武闘家の才能がある。信じなさい』
さっきも【歴戦の武闘王】とかなんとか言っていたが、これ、マジ話なのか? 俺が最強の武闘王だって? 信じられん。
『以上、メッセージをお伝えしました。またお会いしましょう』
マリアはそう言うと、スッと消えてしまった。
また俺の部屋の風景に戻った。俺の横では、アシュリーがぐっすり寝ている。
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