勇者パーティーから追放された最弱の俺は、20年間引きこもりました。え? 今の俺? 最強武闘家となり、トーナメント連勝でワクワク爆進中ですが?

武志

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第53話 ゼントVSセバスチャン③

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 俺──ゼント・ラージェントは、セバスチャンとの決勝戦に挑んでいる。

 そして、セバスチャンのチョークスリーパーを防御するため、自分の首を、腕で守っているのだった。

「ムダだ!」

 セバスチャンは俺の背中に乗り、俺の首に腕を回してくる。俺の首に、セバスチャンの腕が回り込めば、頸動脈けいどうみゃくを絞められておしまいだ。

 俺は腕を使って、首を守る。

「くっ! しぶといヤツだ」

 セバスチャンはイラだち、パンチを俺の後頭部に打ち下ろしてくる。

 ガスッ

 俺は──何とかひざをたたみ、脇を絞めて首を腕で守る。

「うっ……こいつ!」

 セバスチャンはうめいた。

 おおっ……と観客からため息がもれる。

「あれは総合格闘技でいう『亀』の状態ってヤツだ!」
「ゼントがピンチってことか?」
「い、いや、首を守れるし、悪くないんじゃないか?」
「バカ、あの状態じゃ、セバスチャンは後ろから打撃を打ち放題だ」

 観客たちもざわめく。俺はまるで岩のような丸まった体勢になっている。

「フフッ、これは驚いた。なるほど、『亀』の体勢というわけか──。いわゆる君は『引きこもり』したのだ。再び」
 
 セバスチャンは半ば呆れたように言った。

 ガスッ

 セバスチャンは上から後頭部にパンチを落としてくる。俺は「亀」になって引きこもった。

「愚《おろ》かだ! 本当に君は愚《おろ》かだ!」

 ガスッ ガスッ

 セバスチャンは調子に乗って、何発も俺の後頭部にパンチを落としてくる。

 この調子だと、もう一発パンチが必ず来るはずだ!

 俺は背中に、多少の軽さを感じた。セバスチャンは打撃に夢中になり、体重の掛け方、バランスをおろそかにしている!

 ここだっ! せえのっ!

 ぐるり

 俺は亀の状態から右横に転がり、背中の上のセバスチャンのバランスを崩した。セバスチャンはパンチを打ち途中だったので、左腕を上げた状態だった。

「なにっ?」

 体勢を崩したセバスチャンが声を上げた。

 俺はうつ伏せから、仰向けの状態になり──。

 ガスウッ

 素早くセバスチャンの腹を蹴っ飛ばした! セバスチャンは吹っ飛んだ。

「ぐぐっ! な……んだと!」

 セバスチャンは驚いて、またしても声を上げた。

 俺は立ち上がった。そしてすぐに、ひざをついているセバスチャンの顔目がけて! 地面すれすれの左アッパーを放った!

 ガッスウウウッ

「ぐうっ」

 アゴに当たった! しかし完全な当たりではなかった。セバスチャンはあわてて立ち上がる。しかし俺は、すきを見逃さなかった。

 ここだああああっ!

 全体重を乗せ──右ストレート!

 ガシイイッ

 そんな音がした。俺の拳が、セバスチャンのほおに当たった。

「あが、ぐ」

 セバスチャンはうめき、ヨロヨロと左によろけ──武闘ぶとうリングに倒れ込んだ!

「お、おい……何が起こったんだ?」
「ゼントが逆転?」
「まさか? セバスチャンがあんなに攻めていたんだぞ」

 ザワザワと観客たちが騒いでいる。俺は……セバスチャンをダウンさせたのか?

『ダ……ダウンです! 1……2……3……4……』

 審判団長を声を上げる。

 ウオオオオオオオオオッ

 観客が騒然とする。そう……セバスチャンのダウンだ! セバスチャンは目を丸くし、座り込んで俺を見上げている。

「そんな……そんな……どうして……?」

 セバスチャンはつぶやきながら、呆然としている。

『5……6……7……』

 セバスチャンはあわてて、よろよろと立ち上がった。

「うう……私が、まさか? 2回もダウンを取られるとは? 信じられん。ゼント……君は何者なんだ?」
「俺は、20年間、子ども部屋に引きこもっていた、ゼント・ラージェントだ!」

 俺はそう言った。

 その時だ。リングサイドにミランダさんが駆け寄ってきた。

「ゼント君!」

 手には魔導まどう通信機を持っている。

「アシュリーを捜索そうさくしてくれる組織が、駆けつけてくれたわ。アシュリーは、まだ見つからない。私も捜索そうさくに参加するから」
「分かった!」

 俺は声を上げた。

「エルサ、ゼント君を見守ってあげて。それがあなたの仕事よ」

 ミランダはエルサに言った。エルサは静かにうなずくと、ミランダさんは、試合会場の奥の方に走っていってしまった。

 そうだ……俺たちはアシュリーも見つけなければならない。だから、俺はこの勝負、絶対に勝たなくてはいけないのだ!

屈辱くつじょくだ……」

 立ち上がったセバスチャンの顔は、真っ青だった。

「私は武闘家ぶとうかを支配し、世界を支配し、全てを支配するのだ。なのに、2回もダウンをとられる醜態しゅうたいを……!」

 セバスチャンはブルブル震えている。ミランダさんの、アシュリーの捜索そうさくの話も、耳に入ったのだろうか?

屈辱くつじょくだあああああああーっ! ゼントォオオオッ」

 その瞬間、セバスチャンの体から、彼の頭上に、不気味な灰色の影が飛び出した。武人の亡霊だ! 5名いる。筮内的な体の色は灰色であるが、全員、それぞれ、頭や腕や胸などから血を流してみえた。

 不気味だ……!

 俺はそのあまりの禍々まがまがしさに、一歩後退した。

 セバスチャンは、「亡霊よ、来い!」と声を上げた。すると、セバスチャンの頭上にいる武人の亡霊の一人が、セバスチャンの体内に入っていった。

「お、おい……何なんだ? セバスチャン」

 俺はそう言いつつ、目の前の奇妙な出来事に呆然とした。

 セバスチャンの体は震え、煙のような闇色やみいろのもやに包まれた。セバスチャンの姿は、煙に包まれ、見えなくなった。

「な、何だ?」

 俺は目を丸くした。やがて煙は薄れ、ぼんやりセバスチャンが姿を現わした。

「ほほう、これは……」

 セバスチャンはしげしげと、自分の手や腕を見ている。

 セバスチャンの姿自体は何も変わっていない。しかし、彼を包んでいるオーラが、もっとドス黒くなっている。いや、赤黒いと言っていい……。そうか、血の色か!

 そのオーラは、この世の恐怖や絶望、悲しみをすべて表わしているようだった。

「我が名は、『歴戦の魔闘神まとうしん』セバスチャン──ということらしいよ、ゼント君」

 セバスチャンはまるで他人ごとのように、笑顔で言った。

「歴戦の魔闘神まとうしん」? ど、どこかで似たような名前を聞いたような……。

 その時! 俺の頭の中で女性の声がした。聞き覚えのある声だ。

『お久しぶりです』

 あ、この声は! マリア! 俺の守護霊!

『そこはかわいらしく、守護天使といってください。って、前にも言いましたっけ?』

 頭の中のマリアは、そう俺に声をかけてきた。

『セバスチャンは体の中に取りいていた、本物の古代の悪魔的英雄、〈歴戦の魔闘神まとうしん〉と合体しました」
「そんなバカな……」
『最悪ですよ、あいつを早く倒さないと! 一般の人々にも被害が及びます!」
「え、えーっと……倒せったって……」

 俺が困惑していると、セバスチャンの手に、いつの間にか、光る棒状のものが握られていることに気が付いた。

 ……棒? いや、剣? そうだ、武器だ、剣だ!

『あ、あれは! 魔力──いや、怨念おんねんで作り上げた、刀剣とうけん──〈ねんやいば〉です』

 マリアはあわてながら言った。

「ゼント君、君の頭の中にいる守護霊の言う通り、私は武器を念で作り上げたんだ」

  観客たちも、静まり返って、俺たちを見ている。審判団も呆然としている。

「『歴戦の魔闘まとう神』と『歴戦の武闘ぶとう王』は古代、彼らが生きていた時、好敵手同士だったそうですよ」

 セバスチャンは話を続ける。

「ゼント君、君の体の中に、『歴戦の武闘ぶとう王』のスキルがあることは分かっている。だから、これから行う闘いは、宿命の闘いだと言っていい」
「お、お前……その得体の知れない武器で、俺と闘うってのか?」

 すると……。

「審判、この闘い、何かおかしいよ。中止させて! ゼントの命が危ない!」

 エルサが声を上げる。しかし、審判団は周囲と相談してはいるが、試合を止めない。

「選手が武器を持ったら、相手の反則勝ちになる。通常は──」

 セバスチャンは笑って言った。

「しかし、この武器は念で作り上げられた武器だ。私の肉体の一部でもある。──そもそも、私は君に敗れ去ったゲルドンに代わり、このトーナメントの最高責任者となった。だから、どんな武器を持ってこようと、審判団は私を止められないのだ」
「き、汚ねえ……」

 俺が言うと、セバスチャンはクスクス笑って言った。

「ここからの勝負は、命をかけた勝負になる。ゼント君、この勝負、受け入れますか?」

 命をかける……! 俺はゾクリとした。

 だが、この勝負に勝って、アシュリーを返してもらわなければならない!

「いい加減、アシュリーを返せ!」

 俺はセバスチャンに向かって、怒鳴った。

「アシュリーを返してほしければ、私との勝負を受けるんですね」

 セバスチャンはひょうひょうと言った。

「いや……君が真の武闘家ならば──『歴戦の武闘ぶとう王』の魂を継ぐ者ならば、この闘いからは逃げられない」
「この野郎……」

 俺はセバスチャンをにらみつけた。

「こんな勝負、危険すぎるよ、ゼント……。あれは刃物……武器だよ……。私、どうしたら……?」

 エルサは泣いている。俺は、エルサに言った。

「エルサ、大丈夫だ。俺は勝つ」
「ハハ、いいね、ゼント君。君はすごい、すごいヤツだ」

 セバスチャンは笑った。いつの間にか、ねんやいばにはさやがきちんとできていた。彼は帯の左に、ねんやいばを差し入れた。

「だが、斬られたら死にますよ」

 セバスチャンはニコッと笑って言った。簡単に言いやがって。

「さあ、アシュリーを返してもらうぜ!」

 俺は叫んだ。

 真の闘い、いや、真実の闘いが──これから始まる。
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