青年は勇者となり、世界を救う

銀鮭

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第七章

第九十三話 さらなる再開

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「ロイドさん!?」

「枢機卿様もいます!」


 ヴァンハルトは呆然としている。巨大な炎の剣は通常の剣に戻っており、そのおかげでフルールさんには届いていない。フルールさんは気絶しているようだが無事だ。

 急いで合流する。そのころにはヴァンハルトも一度距離をとり、体勢を整ているようだった。


「ロイドさんお久しぶりです! 枢機卿様も!」

「よう! ツカサも嬢ちゃんもほんとに久しぶりだな! それとバルドレッド将軍におかれましては――」

「んん! ロイドくん、挨拶はあとにしましょうか。今は目の前の敵に集中してください。かなりの手練れですよ」

「は! 承知しました!」


 久しぶりに会ったロイドさんは、相変わらず枢機卿様に対しての言葉遣いがおかしい。今の調子だと、もしかしたらバルドレッド将軍に対しても堅い言葉遣いで話すのかもしれない。


「ふむ。ここはひとまずバルドレッド将軍に指揮を頼んでも?」

「任されよう。下手な連携はかえって互いの邪魔をしかねんからな。……ではアリシアくんとルールライン殿はフルールくんの治療を。攻めはツカサくんとロイドくん。わしは守りながら援護をしよう」


 バルドレッド将軍の指示に各自別れて行動を開始する。

 ヴァンハルトはこちらを警戒しているのか動きがない。ただ、視線は動いている。その視線の先を読み取るに、警戒しているのは枢機卿様とバルドレッド将軍のようだ。


「ツカサはあいつの情報、何か持ってるか?」


 小さな声でロイドさんから質問がくる。ただ、残念なことにたいした情報は持っていない。


「名前はヴァンハルト。格闘、剣、それと炎の魔法を使います。両手両足の装備は魔道具で魔法を反射するので注意してください。……あとは、かなり強いってことぐらいです」

「なるほどな。炎の魔法はルールライン様がいればなんとかなる。さっきも簡単に防いでくれたからな。近距離戦だけなら囲んじまうのが常套手段だ。となると、俺たちは攻めて気を引いてりゃいいってことだ」

「時間稼ぎをしてフルールさんを回復させる。そのうえでみんなで戦うってことですね?」

「そういうことだ。よし! ……じゃあ、いっちょやるか!」


 気合の入った声とともにロイドさんが走り出す。真正面から仕掛けるようだ。それにたいして俺は、側面へと回り込むように走り出す。

 ロイドさんが先にヴァンハルトの間合いに入り、走る勢いそのままに両手のナイフで斬りつけていく。

 二振りのナイフがヴァンハルトを嵐のように攻め立てる。しかし、そのほとんどが剣一本で受け止められてしまっていた。

 お返しとばかりに今度はヴァンハルトの剣がロイドさんに迫る。ロイドさんのほうは受け流そうとしたように見えたが、接触した瞬間に何かあったのか防御へと切り替えたようだ。

 その結果として弾かれるようにロイドさんが飛ばされていく。

 ヴァンハルトは追撃しようとしているが、やらせはしない。横から全力で斬りかかる。

 しかし空振りに終わってしまう。さすがに警戒されていたようだ。横から来るのも分かっていたのだろう。

 その後も続けて斬りかかっていくが、俺の攻撃はほとんどが回避されていた。たまに受け止められると、すぐさまカウンターで蹴りが飛んでくる。攻めていはいるが、まるで効いていない。相手は防御のみだというのに、押されているような感覚だった。


「ツカサぁ!」


 真後ろから聞こえてきた声にとっさに横へ飛ぶ。すると、すぐ横を唸るような風が抜けていくのを感じた。ロイドさんの風の魔法だ。

 不可視に近い風の魔法がヴァンハルトへと迫るが、剣の一振りであえなく散ってしまう。ただ、魔法はそれだけでは終わらない。

 横へ飛んだとき、地面に不可解な影が見えていた。俺は大きく下がりながら上を見る。

 上空からは巨大な岩石が落ちてきていた。

 明らかに避けきれない大きさの岩がヴァンハルトに落下していく。

 それはおそらくバルドレッド将軍の魔法であり、完全に虚をついていた。俺にはいつ撃ったのかもわからない。そして、それはヴァンハルトも同様だったようだ。

 ただ、ヴァンハルトはそれでも冷静だった。回避できないのを感じてか一瞬で剣に炎を纏わせている。しかし、その規模は先ほどに比べると小さい。さすがに時間が足りなかったのだろう。

 炎の剣と岩石が接触する。

 瞬間、大きな爆発が起き、辺りが爆炎に包まれていく。

 追撃のため、魔力を集める。しかし、魔力を集めきるよりも早く大小さまざまな石が高速で飛来してきた。石であっても当たればただでは済まない。仕方なく回避を優先し、追撃を断念する。

 俺がロイドさんと同じ位置まで下がると爆発の余波も収まっていた。ヴァンハルトの姿も確認できる。その姿は煤で汚れてはいるが、怪我をしているようには見えなかった。


「……あいつ、やばいな。剣の腕もいいが、そもそも力が半端じゃねぇ。受け流そうとしたら、強引に剣筋を変えやがったぞ」

「反射神経も想像以上です。ロイドさんの魔法、結構ぎりぎりで躱したと思うんですけど、斬られちゃいましたし……そのあとの大岩まで対処されるとは」

「ああ、でも反射ってのはしてこなかったよな? 最初の時点でツカサへ跳ね返してれば沈んでてもおかしくない。まぁ、もちろん防ぐ手立ては用意してたが。それに岩のほうも爆発で吹き飛ばしただけに見えた。使わなかったのか使えなかったのか……もし使えなかったのなら、何か条件でもいるのかもな」


 ロイドさんの言葉に前回戦ったときのことを思い返す。


 たしか、あの戦いのときはとっさでも反射をしてきたはずだ。使う気はなかったとも言っていた気がする。だったら条件なんてなさそうだけど……もしかして壊れた?


 戦いの最後、俺は破壊の魔法を放った。撃つ方向こそ制御できたが、そのときは暴走気味だった記憶がある。威力は間違いなく充分、そのうえまともに当たっていたはずだ。反射の魔道具で防いだとしても、特殊属性の魔法までは跳ね返せずに壊れた可能性は充分にあるだろう。

 思いついたことをロイドさんに伝える。


「だったら魔法での牽制も効果はありそうだな」

「はい。魔法は俺が撃ちます。特殊属性のほうが警戒してくれるでしょうから。……あっ! 俺が特殊属性を使えるってるのは――」

「聞いてるから大丈夫だ。それより、ほら。何か仕掛けてくるみたいだぜ」


 ヴァンハルトは懐から小さな皮袋を取り出していた。俺は魔力を集めながらようすを窺う。

 先ほどから思っていたが、ヴァンハルトは受け身であり、積極的に攻めてきていない。今も俺たちが話をしているというのにようすを見ていた。時間稼ぎをしているため問題はないのだが、少し不気味である。


「……これ以上は分が悪くなりそうですね。残念ですが、ここは一度引かせてもらいましょう」


 そう言うとヴァンハルトは皮袋から三つの石を取り出した。銀色の石だ。色以外なら土の騎士の核によく似ているが、他にも違う点がある。それは、まるで心臓のように脈動しているということであった。


「……まさか」

「ツカサ? 何か知ってるのか?」


 ヴァンハルトが三つの石を地面へと投げつけた。すると一瞬で三体の白銀に輝く騎士が現れる。


「おいおい、ずいぶん豪華だな。途中で見てきたやつとは大違いだ」

「ロイドさん、あれとほぼ同じのと戦ったことがあります。もし一緒なら、魔法はほとんど効きません。それに全身金属なので防御力も高いです」

「豪華な分、性能もいいってわけか」


 以前見たときとは作られ方が違う。ただ、あのときは想定外だったはずだ。だとするなら、目の前のはドルミールさんが改良したか、本来の完成されたものなのかもしれない。


「皆さんの相手はドルミール様の人形に任せるとしましょう。では、二度と会わないことを願って……ごきげんよう」


 ヴァンハルトが後退していく。だが、追うことができない。剣と盾を持つ白銀の騎士が油断できない相手だからだ。


 どうする? ロイドさんと二人で三体はさすがに厳しい。バルドレッド将軍に出てもらう? ……いや、守り手がいないとアリシアとフルールさんが危ない。こうなったら独自魔法と破壊の力で――


「お待たせしました。残念ながら間に合わなかったようですが……その分、今から働きましょう」

「枢機卿様!?」

「ふむ、ならわしも出るかの。一気にいくか?」

「そうですね。先ほどの魔族が消極的だったことも気になりますし、早めに片をつけましょう」


 気が付けば枢機卿様とバルドレッド将軍が横に並んでくれていた。ちなにロイドさんは目を輝かせている。バルドレッド将軍の戦いが見れるのが嬉しいのかもしれない。

 四人ならバラバラに戦っても何処かは二対一にできる。そして、二人のようすを見る限り、二人組になるのは俺とロイドさんになりそうだ。だとしたら数の有利を生かして早めに倒し、加勢する必要があるだろう。

 先陣を切ろうとしたとき、肩を掴まれ動きを封じられる。掴んできたのはバルドレッド将軍だった。何を、と言う前に反対の手で枢機卿様を指し示され、見るように促される。

 顔を向けると同時に枢機卿様から青い光が溢れた。さらに杖からは目視するのも厳しいほどの強烈な光が放たれていく。そして次の瞬間、気が付けば俺の視界は青く澄んだ激流に埋め尽くされていた。
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