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青年期
49
ここからどうする?目の前には逆立ちしたって敵わなそうな大きな鷲。
母上に教わったのは対人の護身術だ。
魔物との戦闘経験なんてもちろんない。
いくら見失ったからといって音でも立てればすぐに襲ってくるだろう。
それに「彼」の魔力が空なのは今だけ。魔力が増えていったらすぐに見つかってしまう。
…いや、その時は俺が吸えばいいか?
でもいつ魔力が増えるかなんてわからない。
もし、吸いすぎてしまったら?俺は「彼」を殺してしまう?
というか、さっきから全く動かないんだが…生きてるよな。
ああもう、考えがまとまらない。
ぐるぐるといろんな想像が頭を巡っているのに肝心の体が動かない。
まるで硬直しているようだ。
魔物の力なのか、俺がビビっているだけなのか。
しっかりしろ、俺。
今、この子供を助けられるのは俺しかいないんだ。
額の汗がぽたりと地面に吸われていく。
まずは、この魔物を遠くに行かせよう。
そういうのはさんざんゲームでやっただろう?
ホラーゲームでもステルスゲーム鉄板の方法。
石を投げて遠くで物音を鳴らし注意を逸らす。
これが一番初歩的で、かつ効果的だ。
石ならその辺にたくさんある。
固まる足に無理やり力を入れる。
目は魔物を捉えたまま音を立てないようにゆっくりしゃがみこむ。
手探りで足元の石を拾い上げる。
こぶし大くらいの石だ。まずまずな音は出るだろう。
大丈夫。行けるぞ!
立ち上がり深呼吸する。
気分は、甲子園に初めて立った野球男児である。
唸れ、俺の右腕っ!!
ブウォン!!と風を切る音が耳元でして20メートルくらい離れたところに落下する。
一瞬の静寂がその場を包む。
音に反応したレイヴァスが体の向きを変える。
よしよし、狙い通りだ。
レイヴァスが遠くに行ったところで一気に足の力が抜けその場にへたり込んでしまう。
こ、怖かった~。終わったかと思ったよ!死ぬかと思った!
滲む視界にうつむいたとき、足元に広がる黒髪に気づいた。
一瞬で涙が引っ込んだ。
ふー…
さて、次は「彼」をどうしようか。
いったんレイヴァスが離れたからといって油断してはならない。
魔物があいつ一匹だけとは限らないのだ。
早急に彼を家に連れていく必要がある。
が、俺は彼に触れられない。
つまり俺が触れても大丈夫なくらい「彼」の魔力が回復する必要がある。
もしくは「彼」が目覚めるのを待って一緒に家に行ってもらう…か?
その方が確実な気がする。
ゲームでは、意識を失った「彼」が目覚めると火がたいてあった、とステラが言っていた。
「彼」が目覚めたのは一夜が明けた後、ということになる。
後から聞いたのだが、その焚火は魔物除けの効果があるらしい。
…俺にもそれ持たせてくれないかな?ステラさん?
今、持ってるのなんて水の入ったバケツとナイフ。それから保存食と…アストラ・リリウム。
…これだ!
まったく、俺ってば恐怖で記憶が飛んだのか?
さっきまでたくさん取ってたじゃないか。魔物除けの花を。
あるじゃないか!焚火の変わりが!
よしっ、そうと決まれば…
――
?
意識が浮上する感覚がした。
パチリと目を開けると真っ青な空が広がっていた。
鼻をくすぐるのは嗅いだことのない香り。
先ほどまで、鉄の匂いに包まれていたのに。
あれは知っている。
抵抗すると殴られた。
自身の口から流れるあの赤い色だ。
上半身を起こすとばさりと何かが落ちていく。
見ると自分の周り…体の上を紫色のものが覆い尽くしている。
その中の一つを拾い上げると、どうやらこれから香りがするらしい。
これは初めて嗅ぐ香りだ。
これは何なのか。
なぜ、こんなものが?
ここは…どこだろう?
何をしていたのだっけ?
ぼーっとして何も考えられない。
座ったまま何をするでもなく遠くを見つめる。
どうすればいいのか。
何をすればいいのか。
何もわからない。
ふと気づくとあたりは、青空からピンク色に変わっていた。
どのくらいそうしていたのかわからない。
数分なのか数時間なのか。それでも動かない。いや、動けない。
突然、耳にガサリと音が聞こえた。
全身をビクリと跳ねさせ音のする方を向く。
自身のいた場所から少し離れた場所…右側からだ。
あたりを見回すこともなかったために気づかなかったが、視線の先には花畑があった。
紫色が絨毯のように広がっている。どうやら体を覆うこの花のようだ。
何を思うでもなく体が動いた。
花が体から落ちていくのも気にせずただ、花畑に向かって歩いていく。
すると、花畑の中に立ち上がる人の姿があった。
遠目から見てもわかるその人の神秘さ。
真っ白の髪、真っ白の肌。真っ白の瞳。
自分とは正反対の姿。
真っ白の…天使?
母上に教わったのは対人の護身術だ。
魔物との戦闘経験なんてもちろんない。
いくら見失ったからといって音でも立てればすぐに襲ってくるだろう。
それに「彼」の魔力が空なのは今だけ。魔力が増えていったらすぐに見つかってしまう。
…いや、その時は俺が吸えばいいか?
でもいつ魔力が増えるかなんてわからない。
もし、吸いすぎてしまったら?俺は「彼」を殺してしまう?
というか、さっきから全く動かないんだが…生きてるよな。
ああもう、考えがまとまらない。
ぐるぐるといろんな想像が頭を巡っているのに肝心の体が動かない。
まるで硬直しているようだ。
魔物の力なのか、俺がビビっているだけなのか。
しっかりしろ、俺。
今、この子供を助けられるのは俺しかいないんだ。
額の汗がぽたりと地面に吸われていく。
まずは、この魔物を遠くに行かせよう。
そういうのはさんざんゲームでやっただろう?
ホラーゲームでもステルスゲーム鉄板の方法。
石を投げて遠くで物音を鳴らし注意を逸らす。
これが一番初歩的で、かつ効果的だ。
石ならその辺にたくさんある。
固まる足に無理やり力を入れる。
目は魔物を捉えたまま音を立てないようにゆっくりしゃがみこむ。
手探りで足元の石を拾い上げる。
こぶし大くらいの石だ。まずまずな音は出るだろう。
大丈夫。行けるぞ!
立ち上がり深呼吸する。
気分は、甲子園に初めて立った野球男児である。
唸れ、俺の右腕っ!!
ブウォン!!と風を切る音が耳元でして20メートルくらい離れたところに落下する。
一瞬の静寂がその場を包む。
音に反応したレイヴァスが体の向きを変える。
よしよし、狙い通りだ。
レイヴァスが遠くに行ったところで一気に足の力が抜けその場にへたり込んでしまう。
こ、怖かった~。終わったかと思ったよ!死ぬかと思った!
滲む視界にうつむいたとき、足元に広がる黒髪に気づいた。
一瞬で涙が引っ込んだ。
ふー…
さて、次は「彼」をどうしようか。
いったんレイヴァスが離れたからといって油断してはならない。
魔物があいつ一匹だけとは限らないのだ。
早急に彼を家に連れていく必要がある。
が、俺は彼に触れられない。
つまり俺が触れても大丈夫なくらい「彼」の魔力が回復する必要がある。
もしくは「彼」が目覚めるのを待って一緒に家に行ってもらう…か?
その方が確実な気がする。
ゲームでは、意識を失った「彼」が目覚めると火がたいてあった、とステラが言っていた。
「彼」が目覚めたのは一夜が明けた後、ということになる。
後から聞いたのだが、その焚火は魔物除けの効果があるらしい。
…俺にもそれ持たせてくれないかな?ステラさん?
今、持ってるのなんて水の入ったバケツとナイフ。それから保存食と…アストラ・リリウム。
…これだ!
まったく、俺ってば恐怖で記憶が飛んだのか?
さっきまでたくさん取ってたじゃないか。魔物除けの花を。
あるじゃないか!焚火の変わりが!
よしっ、そうと決まれば…
――
?
意識が浮上する感覚がした。
パチリと目を開けると真っ青な空が広がっていた。
鼻をくすぐるのは嗅いだことのない香り。
先ほどまで、鉄の匂いに包まれていたのに。
あれは知っている。
抵抗すると殴られた。
自身の口から流れるあの赤い色だ。
上半身を起こすとばさりと何かが落ちていく。
見ると自分の周り…体の上を紫色のものが覆い尽くしている。
その中の一つを拾い上げると、どうやらこれから香りがするらしい。
これは初めて嗅ぐ香りだ。
これは何なのか。
なぜ、こんなものが?
ここは…どこだろう?
何をしていたのだっけ?
ぼーっとして何も考えられない。
座ったまま何をするでもなく遠くを見つめる。
どうすればいいのか。
何をすればいいのか。
何もわからない。
ふと気づくとあたりは、青空からピンク色に変わっていた。
どのくらいそうしていたのかわからない。
数分なのか数時間なのか。それでも動かない。いや、動けない。
突然、耳にガサリと音が聞こえた。
全身をビクリと跳ねさせ音のする方を向く。
自身のいた場所から少し離れた場所…右側からだ。
あたりを見回すこともなかったために気づかなかったが、視線の先には花畑があった。
紫色が絨毯のように広がっている。どうやら体を覆うこの花のようだ。
何を思うでもなく体が動いた。
花が体から落ちていくのも気にせずただ、花畑に向かって歩いていく。
すると、花畑の中に立ち上がる人の姿があった。
遠目から見てもわかるその人の神秘さ。
真っ白の髪、真っ白の肌。真っ白の瞳。
自分とは正反対の姿。
真っ白の…天使?
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