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『晴翔、初日から遅刻だってー』
『ウケる』
「まだ分かんないだろ!」
『今鳴ってるの予鈴だよ?無理でしょ』
「最悪。え、今年の担任誰?」
『ゼウス』
「大神かよ」
通話を切った。新しいクラスメイト、といっても選択科目の関係でほとんど変わり映えのしないメンツなのだろうが、な友人らの笑い声がぶつりと切れる。制服の浅いポケットから落ちないよう携帯を手で押さえながら走る速度を上げた。
結局教室に辿り着けたのはホームルームが始まってから二十分後。約3週間ぶり会うというのに誰も俺の名前を呼ばず、いつの間にかクラス中には「社長」というあだ名が浸透していた。教室の真ん中あたりで騒いでいるグループの一人が社長出勤だと囃し立てたからのようだ。こっちこっちと手招きしているのに腹が立つ。
既に固まりつつあるグループからはみ出してボッチになるよりは百倍マシなのだが、少なくともこの一年はこの不名誉なあだ名を呼ばれ続けるのだろう。早速今年のいじられキャラ決まったクラスは安心ムードで、近くの席と友好を深めていた。一応今年の係決めをするという名目でとられたはずの50分は、もはや自由時間と化していた。
「来てたか。お前、遅刻だぞ」
自分の席を探しかばんを片付けていると、担任の大神が入ってきた。たばこ臭い。仮にも授業中に一服するような教師に注意を受けたことにイラっとしたが、言い返すのもめんどくさいので三千円でしたー、と早口で言ってみた。ドっと笑い声が上がるが、耳の悪い大神にはよくわからなかったらしく、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「で、お前らくっちゃべってるけど、係決めは終わったんだな?」
矛先を向けられた生徒が怯えたように顔を上げる。立ち位置的に委員長か何かなのだろう。大神に当たるの初めてなのかもしれない。顔怖いし大体眉間に皺寄せてるが実際はそんな怒っていないことを、去年の教え子であった俺は知っていた。むしろ黙ってるといつまでも圧かけてくるタイプなので、さっさと答えた方がいい。
「はい、あの、一応、決まりました」
「あっそう。ならいいや。十二時なったら清掃だから、それまでは好きにして」
はーい、と声を揃えて返事をする。大神はまた教室を出ていった。
「ね、えっと、社長さん」
呼ばれて振り向くと、いつのまにか委員長が後ろに立っていた。名前を知らないのだろうが、流石に女子にまでそのあだ名を呼ばれるのはきつい。
「あー、小貫晴翔です」
「どうも、小貫さん。もう図書係しか残ってないんだけど、これで良い?」
「え……や、はい。良いよ」
思わず舌打ちしそうになった。振り向くとニヤニヤしながらこちらを見ていた数名からさっと目を逸らされる。押し付けられたらしい。
この学校における図書係はいわゆるはずれくじだ。数年前に建て替えられた新校舎から少し離れたところにある旧校舎、生徒からはボロ舎と呼ばれている、の奥の奥にある図書室は入学直後の学校案内ツアーかなにかでちらっと見ただけで、立ち入ったことは一度もない。俺以外のほとんどの学生もそうだろう。必要な本は新校舎の図書館に置いてあるし、わざわざあんなところまで足を運ぶ必要はないからだ。なぜボロ舎の図書室が残されているのか、しかも学年から一人ずつ図書係を決めて掃除やら蔵書点検やらをさせるのか。
「マジかあ、めんどくさ」
変えてもらいたいところだが、あの大神に不在裁判を訴えたところであしらわれるだけだろう。
大掃除が終わり帰宅の時間になったところで、放送が入った。委員会に入った生徒はこれから顔合わせがあるらしい。図書係が委員会かどうかは微妙なところだが、無視するわけにはいかないので、しぶしぶ向かうことにした。
『ウケる』
「まだ分かんないだろ!」
『今鳴ってるの予鈴だよ?無理でしょ』
「最悪。え、今年の担任誰?」
『ゼウス』
「大神かよ」
通話を切った。新しいクラスメイト、といっても選択科目の関係でほとんど変わり映えのしないメンツなのだろうが、な友人らの笑い声がぶつりと切れる。制服の浅いポケットから落ちないよう携帯を手で押さえながら走る速度を上げた。
結局教室に辿り着けたのはホームルームが始まってから二十分後。約3週間ぶり会うというのに誰も俺の名前を呼ばず、いつの間にかクラス中には「社長」というあだ名が浸透していた。教室の真ん中あたりで騒いでいるグループの一人が社長出勤だと囃し立てたからのようだ。こっちこっちと手招きしているのに腹が立つ。
既に固まりつつあるグループからはみ出してボッチになるよりは百倍マシなのだが、少なくともこの一年はこの不名誉なあだ名を呼ばれ続けるのだろう。早速今年のいじられキャラ決まったクラスは安心ムードで、近くの席と友好を深めていた。一応今年の係決めをするという名目でとられたはずの50分は、もはや自由時間と化していた。
「来てたか。お前、遅刻だぞ」
自分の席を探しかばんを片付けていると、担任の大神が入ってきた。たばこ臭い。仮にも授業中に一服するような教師に注意を受けたことにイラっとしたが、言い返すのもめんどくさいので三千円でしたー、と早口で言ってみた。ドっと笑い声が上がるが、耳の悪い大神にはよくわからなかったらしく、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「で、お前らくっちゃべってるけど、係決めは終わったんだな?」
矛先を向けられた生徒が怯えたように顔を上げる。立ち位置的に委員長か何かなのだろう。大神に当たるの初めてなのかもしれない。顔怖いし大体眉間に皺寄せてるが実際はそんな怒っていないことを、去年の教え子であった俺は知っていた。むしろ黙ってるといつまでも圧かけてくるタイプなので、さっさと答えた方がいい。
「はい、あの、一応、決まりました」
「あっそう。ならいいや。十二時なったら清掃だから、それまでは好きにして」
はーい、と声を揃えて返事をする。大神はまた教室を出ていった。
「ね、えっと、社長さん」
呼ばれて振り向くと、いつのまにか委員長が後ろに立っていた。名前を知らないのだろうが、流石に女子にまでそのあだ名を呼ばれるのはきつい。
「あー、小貫晴翔です」
「どうも、小貫さん。もう図書係しか残ってないんだけど、これで良い?」
「え……や、はい。良いよ」
思わず舌打ちしそうになった。振り向くとニヤニヤしながらこちらを見ていた数名からさっと目を逸らされる。押し付けられたらしい。
この学校における図書係はいわゆるはずれくじだ。数年前に建て替えられた新校舎から少し離れたところにある旧校舎、生徒からはボロ舎と呼ばれている、の奥の奥にある図書室は入学直後の学校案内ツアーかなにかでちらっと見ただけで、立ち入ったことは一度もない。俺以外のほとんどの学生もそうだろう。必要な本は新校舎の図書館に置いてあるし、わざわざあんなところまで足を運ぶ必要はないからだ。なぜボロ舎の図書室が残されているのか、しかも学年から一人ずつ図書係を決めて掃除やら蔵書点検やらをさせるのか。
「マジかあ、めんどくさ」
変えてもらいたいところだが、あの大神に不在裁判を訴えたところであしらわれるだけだろう。
大掃除が終わり帰宅の時間になったところで、放送が入った。委員会に入った生徒はこれから顔合わせがあるらしい。図書係が委員会かどうかは微妙なところだが、無視するわけにはいかないので、しぶしぶ向かうことにした。
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