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シーズン1 始まりの黒い剣

第八話「忌まわしき祟り」

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一瞬の出来事だった。






レギュに向かって襲いかかった縁の木の根が
瞬きする暇も無い速さで焼き切れたのだ。


「お前、めちゃくちゃ強えじゃねぇか……」


…と、レギュも本音を漏らすほどである。
しかし、疑問はこれだけでは終わらない。

ペテルの放った炎は、通常の限界突破オーバーレイジとは似て
異なる性質を持っている。
それは、レギュの直感でもわかっていた。

その時、木の根もろとも燃やされかけた縁が
何かに気付いた。

「へぇ~……アンタのその炎、アマルナ様と
同じ"秘術"か…!!」
「秘術…?」





秘術

オーバーレイジの延長線上にある派生能力、
「術式」の一種。
御三家に部類されるアンク家の血統の者しか
使用できないという特異性もあるが、その分
攻撃力と汎用性は桁違いである。




「……お前、思っていたより弱いんだな」
「ハハッ……ま、俺ってヘルヘブンの中では
弱い方だし?自分で言うのもアレだけど」
「……とにかく、一瞬で決着をつけてやる」

「はっ!その威勢もどこまで保つかな…!!」
樹海山群じゅかいさんぐん』!!


縁が自身の手のひらを地面に叩きつけると、
その足元から巨大な木の根が何本と生えて
ペテルに襲い掛かる。

しかし……



「甘い…!」『ハーミットヘイズ』!!



ペテルの掌にエネルギーが集まる。
そして、凝縮された巨大な魔球それは、縁の放った
木の根を全て薙ぎ、縁本体に直撃。
地面に亀裂が走る大爆発を引き起こした。


「ゔうっ……イッタいなぁ……」

縁は全身ボロボロになりつつも、かろうじて
生き延びていたようだ。


「……しぶといな」
「へっ……俺は……運が、良いからね……!」

言っている割にはかなり瀕死である。
そして、レギュはそれを見てこう思った。


(俺、いらないんじゃね……?)
(ペテル1人で良くね……?)

………と。



「でもこれは……流石に逃げよっかな…!」
「逃すか…!!」


レギュはここぞとばかりに剣を構え、
逃げようと試みた縁にすばやく斬りかかる。







縁の脳内……

(向こうから突っ込んできやがった…!!
……なら…一か八か、この街の伝承って奴に
頼るしかないか…!!)



縁は力を振り絞って細い木の根を生やし、
ケープシティのシンボルツリーの枝を一本。
へし折ってレギュの目の前に落とした。


「邪魔だっ!」

レギュは立ち塞がる巨大な枝を両断する。
だがレギュがそれを真っ二つに裂いた時には
既に縁の姿は消えていた。



「チッ、逃げたな……追うか?」
「……いや、逆だ」
「はぁ?」

「あの焦った様子だ、おそらく援軍を呼びに
一時撤退しただけだろう。いずれ大勢の兵を
連れて戻ってくるぞ」

「なるほど、キメラって少数だったもんな。
大勢に来られちゃこっちがピンチになるだけ
だって事か……」
「一旦拠点に帰って作戦を練ろう」


レギュとペテルは、キメラの拠点に帰ろうと
後ろを向いた。

すると……



「………?」

レギュが、一人の老人を見つける。

その老人は先ほど縁に切り落とされた巨大な
枝を見て……




酷く、何かに"恐れていた"。




「ペテル、あの人は……?」
「あの人は……ケープシティの町長だな。
……何してるんだ?」


不審に思う2人。


すると町長がレギュ達を見つけるや否や……

「た、助けてくれ…!」

と、唐突にペテルの両膝にしがみついた。


「お、おい……どうしたんだ…!?」

「枝を折られた…!神聖な木の枝が…!!
今に神がお怒りになるぞ!祟羅タタラ様が…!」

「た、タタラ…?」



その時、シンボルツリーを中心に地面を上を
巨大な亀裂が走る。

地面が揺らぎ、怒号にも聞こえる轟音が響く。
風が吹き、周囲の建物もギシギシと揺れる。

直後、地面に開いた亀裂から現れたのは……











……巨大な"足"のようなものだった。





「なっ……!?」
「ひ、ひぃぃい!祟羅様が現れおった!?」

「クソッ…!…あの縁とかいう奴、最初から
この事を知っていて枝を…!!」


巨大な足が三本、地面から伸び出て来る。


「ペテル!そのおっさんをアキシ達のとこに
運んでくれ!俺が時間稼いでやる…!」
「わかった…!」


レギュはペテル達が逃げたのを確認すると、
背中にしまった剣を再び構えた。



直後、出てくる巨大な目玉。

図体は先ほどの3本の足と直接繋がっており
なんとも不気味な容姿をしている。

そして、レギュはケープシティに古く伝わる
あの話を思い出した。





『"自然"を司る神、「祟羅」』

その存在にまつわる話。



そして、今レギュの目の前に聳えるのは、
何を隠そう、当の本人。








……神は、実在するのである。






レギュは祟羅に睨みつけられる。

刹那、視覚から背筋に迸る凄まじい威圧。

レギュは一瞬だけ日和るが、すぐさま威勢を
取り戻す。


(立っているだけで迸るこのプレッシャー……
間違いない、本物の神だ…!)

改めて、そう自覚する。


祟羅が足で地面を強く踏みつけ、ドンッと
爆音を鳴らす。

直後、地面に走った亀裂の中から、
縁のそれとは比較にもならない巨大な根が
先端を尖らせてレギュに襲い掛かる。


「チッ……やるしかないか…!」
『限界突破:叛逆ノ舞』!!


レギュはカウンターで次々と木の根を切断
していくが、キリは無かった。

遂には一瞬の隙を突かれ、鋭い木の根で
右肩を僅か貫かれてしまった。



更に、そこから生まれた大きい隙を、
祟羅は見逃さなかった。

1束に根をまとめ、動きの止まったレギュを
貫こうと試みたのだ。



(やっば……)


死を覚悟するレギュ。



だが、その直前……





























1発の"銃声"が、街中に響いた。
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