後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第28話 龍羽池の人魚①

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 翌日の早朝。昨夜は夜中まで閨で作戦会議を練っていた龍環と桃玉はピシッと早起きをした。

「おはようございます。龍環様」
「おはよう、桃玉。池の範囲的には今日の午後にはあらかた水が抜けているはずだ」

 実は昨日の日没前の夕方に、龍環は龍羽池の水を抜くようあらかじめ命令をくだしていた。龍羽池は広い為水を抜くのにはかなりの時間を要する。龍環はそれを見越して命令を出したのだった。

「仮に全て池の水が抜けていなくても、くるぶしと膝の間くらいの水位に下がっていたら大丈夫だろう」
「確かに、その程度の低い水位なら仮に人魚がいたとしても身動きが取れないでしょうからね」
「……出てくるのは人魚か、それ以外か。いずれにせよ龍羽池の水を抜いて調べる事は、無駄にはならないはずだ」

 宦官達が閨に集合し、2人はここで一旦解散となる。

「桃玉。また呼ぶから待機しておくように。汚れても良い服を着ておいて」
「把握いたしました」
「じゃあ」

 龍環と別れて照天宮に戻った桃玉。早速女官に汚れても大丈夫な服な無いかを尋ねてみた。

「下女用の作業服ならございますが……」
「じゃあそれ着ます」
「かしこまりました。すぐに手配いたします。朝食の準備も出来ておりますが、召し上がりますか?」
「はい、お願いします」
「桃玉様お待たせしました! 作業服はこちらとなります」
「ありがとうございます! この服、試着してみても構いませんか?」

 桃玉は女官が用意した下女用の作業服の大きさを確認する為に試着してみた。作業服とだけあって、灰色に覆われた質素な服装だ。だが、機能性には優れている。

(うん。動きやすいし……きつくなくて、ぶかぶかした所も無い。大きさはこれで良いかな)
「桃玉様、いかがでございますか?」
「この大きさで大丈夫です。ありがとうございます」

 桃玉は朝の皇太后への挨拶に備えて、作業服からいつもの妃としての優美な服装へと素早く着替え、朝食の卵と野菜の雑炊を書き込みながら髪結いとお化粧を済ませた。

「桃玉様。そろそろお時間でございます」
「はい、では行きましょうか」

 朱龍宮へ女官達を連れ、徒歩で移動する桃玉。その道中あちこちから下女の遺体が見つかった話が湧き起こる。
 話をするのは下女だけでなく、女官や妃達もだ。

「嘉陽宮の下女の遺体は、足が食いちぎられてたって」
「怖いわよねぇ、絶対あやかしのせいよ。人間の足を食いちぎるバカでかい魚なんて、いる訳無いもの」
「私もそう思うわ。ていうか、これまで犠牲になった人達って皆若い女性なのね」
「女の人狙ってるって事かしら」
「怖いわよねえ……」
(やっぱり噂になってるよね)

 桃玉はちらりとひそひそ話をする妃を見たりしながら、朱龍宮の皇太后が挨拶をする広間へと到達し決められた位置で立って待つ。広間にはぞろぞろと妃達が入って来るが、皆顔はさえない。

(佳淑妃様……クマが出来ている)

 佳淑妃の目元には化粧でも隠し切れなかったのか青白いクマが出来ていた。

(あとで声かけた方が良いかな)

 妃達が全員所定の位置に揃った所で、女官が皇太后のおなりでございます。という高らかな声が響き渡った。
 女官の声の数秒後に現れた皇太后の顔にはやや疲労の色が見え隠れしている。

(疲れてるわね……)
「皆さん、おはようございます。ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、嘉陽宮の下女が今朝龍羽池にて遺体となって発見されました。事件が解決されるまでは、なるべく夜に出歩くのを控えるようにお願いいたします」

 はい、皇太后陛下。という揃った返事が広間中に響いた後、皇太后はではこれにて解散といたします。と静かに告げた。

「あやかしの仕業だなんてくだらない、そんなのあり得ない……」

 皇太后の寂しい呟きは、妃達の靴音でかき消されていく。
 照天宮の自室に戻った桃玉は、椅子に座ると下女用の作業着を膝の上に持って龍環からの指示を待っていた。

(まだ時間かかりそうかな……)

 胸の奥からせりあがって来る緊張に耐え兼ね、ふうっ……と息を吐く桃玉の元に、華奢で背の高い宦官がばたばたと走りながら現れた。

「李昭容様……! 皇帝陛下が龍羽池にてお呼びでございます……!」
「わかりました、着替えてから参ります……!」

 桃玉はばっと急いで下女用の作業着に着替えると宦官に付き添われて龍羽池へと向かった。

「桃玉! こっちだ!」
「皇帝陛下! ただいま参りました……!」

 薄茶色の作業着に剣を携えた着替えた龍環が、腰に手を当てて待っていた。彼の手には槍も握られている。
(武器を持ってきたんだ……。あっ! 龍羽池の水位がだいぶ下がっている!)
「これくらいの水位なら池中を歩いて調べられる。さあ、行こう!」
「はい!」

 バシャバシャと波音を立てながら勢いよく池に進む桃玉と龍環。途中龍環は水面に向けてじっと耳を澄まし目を凝らしはじめた。

「どうですか……?」
「! ……あっちだ。波紋が見えた」

 龍環は右前方を指さすと桃玉と龍環は、ゆっくりと音をたてないように歩を進める。
 
「っ!」

 突如、桃玉の右足を誰かが強く手でつかむ。桃玉が声を挙げ右足を上へ上げようとすると、龍環は桃玉の右足近くを槍で突いた。

「ぐおおおああっ……!! オマエは、この私が、視えるのかぁっ……! 術をかけていたはずだが……!」

 ざぱあっと低くなった水位から龍環と同じくらいの大きさをした女性の人魚が姿を現した。
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