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第66話 視えた尻尾
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「……後宮内で女性達が何者かに殺される事件が近頃頻発していました。それと何か関係があるのでしょうか?」
「なんだって!? そんな事があったのかい!?」
目を見開き眉を吊り上げて驚く美琳。
「はい、そうなんです……」
「桃玉や。その話詳しく聞かせてくれんか?」
桃婆の目は厳しさを増した。桃玉はごくりとつばを飲み込みながら首を縦に振ったのである。
桃玉の話を全て聞き終えた桃婆は、お茶を飲んだ。
「ふむ、あやかしの仕業じゃな。それも強者……かつ桃玉の両親や皇帝陛下の生母となる妃を殺した者と同一犯と見て良いじゃろう」
「! や、やはり……」
「よいか、心臓を喰らうのはよくあるあやかしの食事方である。強者であればあるほど対象の臓腑のみを狙うのじゃ。特にそのようなあやかしにとって、心臓や肝臓は美味であると聞いた事がある」
桃婆からもたらされた情報に、桃玉はごくりとつばを飲み込んだ。そんな桃玉の御膳にはまだ炊き込みご飯とおかずが少々残っている。
「桃玉、食べないの?」
先に完食したらしい玉琳から心配そうに声をかけられた桃玉は大丈夫だよ! ととっさに作り笑いを浮かべながら答えた。
「炊き込みご飯いらないなら貰おうかなって」
「大丈夫だよ! 食べる食べる!」
「玉琳や、炊き込みご飯のおかわりならまだあるぞい」
「ほんと? やった」
にかっと笑う玉琳。しかし桃婆の真剣な目つきは変わらない。
「そして、後宮で近頃そのような事件が相次いで起きているという事は……犯人は後宮にいるのじゃろうな」
「でも桃婆さん。調べてもそれらしいあやかしには遭遇出来なかったというか……私はあやかしが視えないので視えていないだけかもしれませんが」
「大方人間の身体に取り憑いて、隠密の術を使い気配を隠しているだけじゃろう。仮に後宮にあやかしが視えるものがいても、そのやり方だと気づかれる事はそうそうないからの」
(なるほどね……)
「桃婆さん。あやかしって視えるものなのかい?」
美琳からの問いに桃婆はほっほっほ……。と笑った。
「ワシからすれば視えて当たり前じゃが……人間はまず視えないと言って良いじゃろうな。じゃが例外は勿論いる」
「例外? なんだいそれは」
「まず1つめは修行を積んだ道士がぼんやりとあやかしが視えたという記録がいくつかあるのぅ。そしてもう1つめは皇帝一族出身の者じゃな」
(龍環様だ)
「華龍国のの初代皇帝は仙女から生まれた男だと言われている。その脈々と流れ続けている仙女の血が色濃く発現する事であやかしが視えるようになる……というわけじゃな。ただ、仙女の血が発現するいわゆる先祖返りというのはまずめったに起きないとも言い伝えられているがの」
龍環がなぜあやかしが視えるのか。その理由を知った桃玉は口を開けていた。そして両手を握りながら桃婆の目を見つめる。
「この事は内密にしてほしいのですが、実は……今の皇帝陛下はあやかしが視えるのです」
「なんじゃと?!」
「彼のおかげでこれまで私はこの、あやかしを浄化させる力を使ってきました」
「そうか……とうとう現れたのか……これからすごい事になるやもしれんの……」
桃婆のくぐもった声に桃玉達はじっと聞き入っていた。
◇ ◇ ◇
龍環は執務室で食事を取り終えた。しかし執務室からは出ようとはしない。先ほど遊んでいたあやかしはどこかへと去っていった。
(今日は夜伽をする事もない。祈祷もあるしさっさと書類仕事だけでも終わらせておこう)
宦官にお膳を下げてもらった後は書類に目を通し印を押す作業に戻る。外は既に真っ暗で時折鳥の鳴き声が不気味に聞こえてきた。
「あとは、この山か……先は長いな」
(でも頭痛が治まってくれたおかげでやり切れそうだ)
役人から届けられた書類を読んでいた時、皇帝陛下! と青美人の声が聞こえてきた。
(またひとりで……どうやって来たんだ?)
「青美人。何か用か?」
「皇帝陛下にお会いしたくてやってきてしまいました……」
顔を赤らめる青美人。しかし龍環はある事実に驚きを見せていた。
(……し、尻尾?)
青美人の服の裾からは白い鱗に覆われた蛇の尻尾が見え隠れしていた。上下に揺れるその尻尾はまるで青美人の感情を表しているようにも見える。
そして尻尾が視えるという事は彼女は人ならざる者……すなわちあやかしであるという事の証左でもあった。
(まさか、こいつ……! 力分は知っているのか?)
「どういたしました、陛下?」
青美人はとろんとした目つきを見せながら、自身の豊満な胸を当てるように龍環の右腕に抱き着いた。胸部は手同様に冷たく、温度を感じさせない。
「つめたっ!」
「わっ、すみません! でもずっとこうしていたら温かくなりますから……」
さすがの冷たさに龍環は青美人から腕を振りぬこうとするも、青美人は腕を手放さない。
(まずいぞこれは……ああ、こんな時に桃玉がいてくれたら……! どうしよう、どうする俺?!)
この状況からいかにして脱出すべきか。龍環は必死に思考を巡らせた。
「なんだって!? そんな事があったのかい!?」
目を見開き眉を吊り上げて驚く美琳。
「はい、そうなんです……」
「桃玉や。その話詳しく聞かせてくれんか?」
桃婆の目は厳しさを増した。桃玉はごくりとつばを飲み込みながら首を縦に振ったのである。
桃玉の話を全て聞き終えた桃婆は、お茶を飲んだ。
「ふむ、あやかしの仕業じゃな。それも強者……かつ桃玉の両親や皇帝陛下の生母となる妃を殺した者と同一犯と見て良いじゃろう」
「! や、やはり……」
「よいか、心臓を喰らうのはよくあるあやかしの食事方である。強者であればあるほど対象の臓腑のみを狙うのじゃ。特にそのようなあやかしにとって、心臓や肝臓は美味であると聞いた事がある」
桃婆からもたらされた情報に、桃玉はごくりとつばを飲み込んだ。そんな桃玉の御膳にはまだ炊き込みご飯とおかずが少々残っている。
「桃玉、食べないの?」
先に完食したらしい玉琳から心配そうに声をかけられた桃玉は大丈夫だよ! ととっさに作り笑いを浮かべながら答えた。
「炊き込みご飯いらないなら貰おうかなって」
「大丈夫だよ! 食べる食べる!」
「玉琳や、炊き込みご飯のおかわりならまだあるぞい」
「ほんと? やった」
にかっと笑う玉琳。しかし桃婆の真剣な目つきは変わらない。
「そして、後宮で近頃そのような事件が相次いで起きているという事は……犯人は後宮にいるのじゃろうな」
「でも桃婆さん。調べてもそれらしいあやかしには遭遇出来なかったというか……私はあやかしが視えないので視えていないだけかもしれませんが」
「大方人間の身体に取り憑いて、隠密の術を使い気配を隠しているだけじゃろう。仮に後宮にあやかしが視えるものがいても、そのやり方だと気づかれる事はそうそうないからの」
(なるほどね……)
「桃婆さん。あやかしって視えるものなのかい?」
美琳からの問いに桃婆はほっほっほ……。と笑った。
「ワシからすれば視えて当たり前じゃが……人間はまず視えないと言って良いじゃろうな。じゃが例外は勿論いる」
「例外? なんだいそれは」
「まず1つめは修行を積んだ道士がぼんやりとあやかしが視えたという記録がいくつかあるのぅ。そしてもう1つめは皇帝一族出身の者じゃな」
(龍環様だ)
「華龍国のの初代皇帝は仙女から生まれた男だと言われている。その脈々と流れ続けている仙女の血が色濃く発現する事であやかしが視えるようになる……というわけじゃな。ただ、仙女の血が発現するいわゆる先祖返りというのはまずめったに起きないとも言い伝えられているがの」
龍環がなぜあやかしが視えるのか。その理由を知った桃玉は口を開けていた。そして両手を握りながら桃婆の目を見つめる。
「この事は内密にしてほしいのですが、実は……今の皇帝陛下はあやかしが視えるのです」
「なんじゃと?!」
「彼のおかげでこれまで私はこの、あやかしを浄化させる力を使ってきました」
「そうか……とうとう現れたのか……これからすごい事になるやもしれんの……」
桃婆のくぐもった声に桃玉達はじっと聞き入っていた。
◇ ◇ ◇
龍環は執務室で食事を取り終えた。しかし執務室からは出ようとはしない。先ほど遊んでいたあやかしはどこかへと去っていった。
(今日は夜伽をする事もない。祈祷もあるしさっさと書類仕事だけでも終わらせておこう)
宦官にお膳を下げてもらった後は書類に目を通し印を押す作業に戻る。外は既に真っ暗で時折鳥の鳴き声が不気味に聞こえてきた。
「あとは、この山か……先は長いな」
(でも頭痛が治まってくれたおかげでやり切れそうだ)
役人から届けられた書類を読んでいた時、皇帝陛下! と青美人の声が聞こえてきた。
(またひとりで……どうやって来たんだ?)
「青美人。何か用か?」
「皇帝陛下にお会いしたくてやってきてしまいました……」
顔を赤らめる青美人。しかし龍環はある事実に驚きを見せていた。
(……し、尻尾?)
青美人の服の裾からは白い鱗に覆われた蛇の尻尾が見え隠れしていた。上下に揺れるその尻尾はまるで青美人の感情を表しているようにも見える。
そして尻尾が視えるという事は彼女は人ならざる者……すなわちあやかしであるという事の証左でもあった。
(まさか、こいつ……! 力分は知っているのか?)
「どういたしました、陛下?」
青美人はとろんとした目つきを見せながら、自身の豊満な胸を当てるように龍環の右腕に抱き着いた。胸部は手同様に冷たく、温度を感じさせない。
「つめたっ!」
「わっ、すみません! でもずっとこうしていたら温かくなりますから……」
さすがの冷たさに龍環は青美人から腕を振りぬこうとするも、青美人は腕を手放さない。
(まずいぞこれは……ああ、こんな時に桃玉がいてくれたら……! どうしよう、どうする俺?!)
この状況からいかにして脱出すべきか。龍環は必死に思考を巡らせた。
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