後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
66 / 79

第66話 視えた尻尾

しおりを挟む
「……後宮内で女性達が何者かに殺される事件が近頃頻発していました。それと何か関係があるのでしょうか?」
「なんだって!? そんな事があったのかい!?」

 目を見開き眉を吊り上げて驚く美琳。

「はい、そうなんです……」
「桃玉や。その話詳しく聞かせてくれんか?」

 桃婆の目は厳しさを増した。桃玉はごくりとつばを飲み込みながら首を縦に振ったのである。
 桃玉の話を全て聞き終えた桃婆は、お茶を飲んだ。

「ふむ、あやかしの仕業じゃな。それも強者……かつ桃玉の両親や皇帝陛下の生母となる妃を殺した者と同一犯と見て良いじゃろう」
「! や、やはり……」
「よいか、心臓を喰らうのはよくあるあやかしの食事方である。強者であればあるほど対象の臓腑のみを狙うのじゃ。特にそのようなあやかしにとって、心臓や肝臓は美味であると聞いた事がある」

 桃婆からもたらされた情報に、桃玉はごくりとつばを飲み込んだ。そんな桃玉の御膳にはまだ炊き込みご飯とおかずが少々残っている。

「桃玉、食べないの?」

 先に完食したらしい玉琳から心配そうに声をかけられた桃玉は大丈夫だよ! ととっさに作り笑いを浮かべながら答えた。

「炊き込みご飯いらないなら貰おうかなって」
「大丈夫だよ! 食べる食べる!」
「玉琳や、炊き込みご飯のおかわりならまだあるぞい」
「ほんと? やった」

 にかっと笑う玉琳。しかし桃婆の真剣な目つきは変わらない。

「そして、後宮で近頃そのような事件が相次いで起きているという事は……犯人は後宮にいるのじゃろうな」
「でも桃婆さん。調べてもそれらしいあやかしには遭遇出来なかったというか……私はあやかしが視えないので視えていないだけかもしれませんが」
「大方人間の身体に取り憑いて、隠密の術を使い気配を隠しているだけじゃろう。仮に後宮にあやかしが視えるものがいても、そのやり方だと気づかれる事はそうそうないからの」
(なるほどね……)
「桃婆さん。あやかしって視えるものなのかい?」

 美琳からの問いに桃婆はほっほっほ……。と笑った。

「ワシからすれば視えて当たり前じゃが……人間はまず視えないと言って良いじゃろうな。じゃが例外は勿論いる」
「例外? なんだいそれは」
「まず1つめは修行を積んだ道士がぼんやりとあやかしが視えたという記録がいくつかあるのぅ。そしてもう1つめは皇帝一族出身の者じゃな」
(龍環様だ)
「華龍国のの初代皇帝は仙女から生まれた男だと言われている。その脈々と流れ続けている仙女の血が色濃く発現する事であやかしが視えるようになる……というわけじゃな。ただ、仙女の血が発現するいわゆる先祖返りというのはまずめったに起きないとも言い伝えられているがの」

 龍環がなぜあやかしが視えるのか。その理由を知った桃玉は口を開けていた。そして両手を握りながら桃婆の目を見つめる。

「この事は内密にしてほしいのですが、実は……今の皇帝陛下はあやかしが視えるのです」
「なんじゃと?!」
「彼のおかげでこれまで私はこの、あやかしを浄化させる力を使ってきました」
「そうか……とうとう現れたのか……これからすごい事になるやもしれんの……」

 桃婆のくぐもった声に桃玉達はじっと聞き入っていた。

◇ ◇ ◇

 龍環は執務室で食事を取り終えた。しかし執務室からは出ようとはしない。先ほど遊んでいたあやかしはどこかへと去っていった。

(今日は夜伽をする事もない。祈祷もあるしさっさと書類仕事だけでも終わらせておこう)

 宦官にお膳を下げてもらった後は書類に目を通し印を押す作業に戻る。外は既に真っ暗で時折鳥の鳴き声が不気味に聞こえてきた。

「あとは、この山か……先は長いな」
(でも頭痛が治まってくれたおかげでやり切れそうだ)

 役人から届けられた書類を読んでいた時、皇帝陛下! と青美人の声が聞こえてきた。

(またひとりで……どうやって来たんだ?)
「青美人。何か用か?」
「皇帝陛下にお会いしたくてやってきてしまいました……」

 顔を赤らめる青美人。しかし龍環はある事実に驚きを見せていた。

(……し、尻尾?)

 青美人の服の裾からは白い鱗に覆われた蛇の尻尾が見え隠れしていた。上下に揺れるその尻尾はまるで青美人の感情を表しているようにも見える。
 そして尻尾が視えるという事は彼女は人ならざる者……すなわちあやかしであるという事の証左でもあった。

(まさか、こいつ……! 力分は知っているのか?)
「どういたしました、陛下?」

 青美人はとろんとした目つきを見せながら、自身の豊満な胸を当てるように龍環の右腕に抱き着いた。胸部は手同様に冷たく、温度を感じさせない。

「つめたっ!」
「わっ、すみません! でもずっとこうしていたら温かくなりますから……」

 さすがの冷たさに龍環は青美人から腕を振りぬこうとするも、青美人は腕を手放さない。

(まずいぞこれは……ああ、こんな時に桃玉がいてくれたら……! どうしよう、どうする俺?!)

 この状況からいかにして脱出すべきか。龍環は必死に思考を巡らせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。 彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。 毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。 はたして、己は何者なのか――。 これは記憶の断片と毒をめぐる物語。 ※年齢制限は保険です ※数日くらいで完結予定

後宮妃よ、紅を引け。~寵愛ではなく商才で成り上がる中華ビジネス録~

希羽
ファンタジー
貧しい地方役人の娘、李雪蘭(リ・セツラン)には秘密があった。それは、現代日本の化粧品メーカーに勤めていた研究員としての前世の記憶。 ​彼女は、皇帝の寵愛を勝ち取るためではなく、その類稀なる知識を武器に、後宮という巨大な市場(マーケット)で商売を興すという野望を抱いて後宮入りする。 ​劣悪な化粧品に悩む妃たちの姿を目の当たりにした雪蘭は、前世の化学知識を駆使して、肌に優しく画期的な化粧品『玉肌香(ぎょくきこう)』を開発。その品質は瞬く間に後宮の美の基準を塗り替え、彼女は忘れられた妃や豪商の娘といった、頼れる仲間たちを得ていく。 ​しかし、その成功は旧来の利権を握る者たちとの激しい対立を生む。知略と心理戦、そして科学の力で次々と危機を乗り越える雪蘭の存在は、やがて若き皇帝・叡明(エイメイ)の目に留まる。齢二十五にして帝国を統べる聡明な彼は、雪蘭の中に単なる妃ではない特別な何かを見出し、その類稀なる才覚を認めていく。

後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ
キャラ文芸
とある役人の娘は、大変見目麗しかった。 けれど美しい娘は自分の見た目が嫌で、見た目を褒めそやす人たちは嫌いだった。 そんな彼女が好きになったのは、彼女の容姿について何も言わない人。 密かに想いを寄せ続けていたけれど、想い人に好きと伝えることができず、その内にその人は宦官となって後宮に行ってしまった。 想いを告げられなかった美しい娘は、せめてその人のそばにいたいと、皇帝の妃となって後宮に入ることを決意する。 「そなたは後宮一の美姫だな」 後宮に入ると、皇帝にそう言われた。 皇帝という人物も、結局は見た目か……どんなに見た目を褒められようとも、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない。

後宮の下賜姫様

四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。 商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。 試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。 クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。 饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。 これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。 リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。 今日から毎日20時更新します。 予約ミスで29話とんでおりましたすみません。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

処理中です...