婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

文字の大きさ
20 / 88

第19話 到着

 馬車の座席はやはり貴族が座るような座席よりも、質感が硬く柔らかさがほとんど感じられない。馬車の揺れ自体は想定よりも楽に感じられたがいかんせん座席の硬さのせいで、腰から尾てい骨にかけての辺りがだんだんと痛くなってくる。

「いたた……」

 あまりにも痛いので、私は思わず前かがみの状態で立ち上がって、腰をさするしかなくなる。それに、湿気がこもって暑さもひどく感じる。窓を全て開けているので痛みよりかは十分ましであるが。

「ジャスミンさん、大丈夫です?」
「すみません、腰が痛くて……」

 ハイダに心配されながらも、ユングミル城に到着したのは昼過ぎの事だった。トランクを持って馬車から降りると涼しい空気が私達を出迎えてくれた。

「わあ……!」

 白い入道雲にさわやかな深い青色をした青空のコントラストが美しく映える。風も涼やかで、北部らしい気候だ。
 ユングミル城は庭園と共にあの頃と変わらないまま、存在感を放っているのが見える。

「こちらへどうぞ」

 ユングミル城のメイドが私達を出迎え、城内にある薬師の部屋まで案内してくれた。ハイダの後ろをついていくような格好で、私は両手でトランクを持って辺りを見渡しつつ歩く。
 城内は少し暗いものの、涼しくて私達の靴音だけが響いているくらい静かな場所だ。

(静かだなあ)

 私とハイダはそれぞれ、城内にある専用の部屋に通された。宮廷と同じく1人部屋が与えられた。1人部屋ではあるが部屋自体はゲストルームのそれなので、宮廷での自室よりも格段に広い。ベッド含め調度品は宮廷のものよりも古めかしくて、屋敷にあったものを思い出してしまう。
 私は早速トランクの中から服や日用品といった荷物を取り出してクローゼットや棚の中にしまうと、メイドに促されて昼食を頂く事にする。
 それにしても、アダン様達王族はいつ到着なさるのだろうか。今回ユングミル城に来るのはアダン様と国王陛下と王妃アネーラの3名。王太后様は宮廷に留まると聞いている。

(もしかして、到着は夜くらいになりそうか?)

 昼食は軽くサンドイッチを頂いた。ハムとチーズが挟まったシンプルなものだが、塩気が効いていてとても美味しかった。昼食後、私はハイダと共に、城内にある医薬庫にて薬草や薬の在庫のチェックを城勤めのメイドと執事と共に行う。

「この薬草と、この薬。併せて5種の在庫が少なくなっていますね」
「計算ありがとうございます。ジャスミンさん」
「ここから薬屋までどのくらいかかりますか?」

 そう私がメイドに質問すると、馬車で10分程かかる街にある薬屋が一番近いと答えた。

(うへえ、また馬車かあ……) 
感想 4

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

【完結】今さら執着されても困ります

リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」 婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった―― アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。 いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。 蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。 ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。 「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」 ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。 彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。 一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。 ・全体的に暗い内容です。 ・注意喚起を含む章は※を付けています。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

侯爵令嬢アリスティアの愛する人

わらびもち
恋愛
 夜会で婚約者から婚約破棄を宣言されたアリスティア。  理由は「他に愛する女性がいるから」とのこと。  いえ、別に貴方に愛する女性がいても私には関係ありませんけど……?  

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。