婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

文字の大きさ
84 / 88

第75話 決闘②

しおりを挟む
 大広間には貴族と庶民が入り混じった群衆が集い、お祭り騒ぎになっている。そして剣を携え武装したアダン様とジョージが広場に到着した所で、更に群衆のボルテージが高まる。ここまでの騒ぎは見た事が無い。大歓声で地割れが起きそうだ。

「これより。アダン王太子殿下と、ジョージ・ヨージスによる決闘を執り行う」

 立会人は騎士団長。中年の彼もまた武装し、剣を天に掲げて騎士らしく振舞っている。その振る舞いには落ち着いた部分と高揚している部分の相反する2つが織り交ざっているかのように感じられたのだった。

「では、両者。挨拶を」

 その騎士団長の言葉を受け、2人は互いに頭を垂れてお辞儀をした。アダン様は深々とお辞儀をしたのに対してジョージは軽く済ませ更に動きがぎこちない事もあってさっそく群衆からヤジを受け始めた。

「おいおいヨージス家の坊ちゃんそれじゃあだめだぞーー!」
「もっと深く礼をしなさいよ!!」
「相手は王太子殿下だぞ! ちゃんと礼しろ!」
(これは緊張してるな)

 礼が済むと互いに距離を2人分取り、そこで騎士団長がはじめ! と力強く叫んだ。

「はじまったぞ!」
「王太子殿下頑張って!」

 2人は距離を取ったまま、互いの出方を伺っている。その間にもアダン様へは応援の声が、ジョージにはヤジが飛ぶ。この時点で大群衆のほとんどがアダン様支持に傾いているのが分かる。

「たっ!」

 隙を捉えてアダン様が一気に前に出て剣で突くが、ジョージがそれを剣で防ぐ。しかしアダン様も体勢を崩す事無く防御の構えを取り、ジョージからの攻撃を剣で防ぐ。
 彼らが持つ剣がかち合う度に、きんきんと金属音が響き渡り、その度に大群衆から歓声が沸く。

(勝って!)

 ヒットアンドアウェイの一進一退の攻防戦が続く。互いに呼吸が少し荒くなっては来ているが、目はしっかり相手を見据えている。ジョージは若干アダン様から放たれる殺気におびえているようにも見えたが、それでも食らいついていく。

(なんで私なんだろう)

 途中で私との婚約を破棄してジュナと結婚した癖に。エミリアと婚約を結んだ癖に。最後になってなんで私を選んだのか。

(理解できない)

 聞いたって無駄だ。それに、彼にはもう愛想も何にもない。それにアダン様がいる。ここでジョージには勝ってほしくはない。
 すると、ジョージがアダン様の右足のすねに向けて剣で薙ぎ払うように攻撃した。

「っ!」

 これでアダン様は足を滑らせて、その場で転倒してしまう。更にアダン様の上からジョージが剣を突き差し、アダン様の腹部に命中した。

「!!」

 幸い、斬られたのは脇腹で、アダン様はすぐに転がって起き上がり体勢を元に戻すも、ダメージが大きいのか肩で息を吐いている。
 すかさずジョージが派手な連続突きを繰り出すが、アダン様は全て剣で弾き、更にジョージの右太ももを切り裂いた。

「ぐっ……!」

 ジョージもアダン様もここで動きが止まる。動きが止まって約3分が経過した所で、騎士団長が一時停戦を告げた。
 私はこの隙に、彼らの元に向かって走る。何かここで話さないと駄目なような、そんな気に駆られたからだ。

「はあっ……」
「ジャスミン」
「なぜ、ジャスミンがここに」
「まずは、ジョージ。なぜ私が好きか聞かせて」
「……ジュナと結婚したのが間違いだった。君と結婚していれば良かったんだ。全部やり直したい。本当の気持ちに気づくのが、遅かったと思う」
「アダン様は……その私のどこに」
「全部だ。あの時泣いていた弱い俺を助けてくれた時から君に惹かれていた」
「……」

 これ以上、語る事は無いと言った表情は2人は浮かべる。

「健闘を祈ります」

 私はそう2人に言い残し、その場から去る。今気づいたのだが、あれだけ歓声を上げていた群衆は静まり返っている。
 私が元いた場所に戻り、騎士団長が再会を告げると2人は闘志を燃やし、何度も剣が激しくぶつかって起こる金属音がこだまする。

(すごい迫力だ)

 2人の傷が少しずつ増える。顔や四肢が赤い血の色で染まっていく。

「いけーー!」
「殿下ーー! 頑張ってーー!」

 その時。ジョージの剣がアダン様の右胸付近をばすっと切り裂いた。

「がっ!」
「もらった!」

 ジョージが飛びかかるようにして、アダン様の息の根を止めようと剣を振りかざす。しかし。

 ぶすっ!

 アダン様の剣が、ジョージの左胸を貫いた。

「がっ、はあっ……」
「はあっ、はあっ……」
「決着! この勝負、アダン様の勝ち!」

 アダン様の勝ちが、高らかに宣言された。大群衆は雄叫びの如き歓声を挙げる。

「殿下が勝った!」
「殿下ーー!」

 私は急いでアダン様の元に駆け寄る。アダン様がすぐ前まで迫った所で、誰かに右足首を掴まれた。ジョージだ。

「ジョージ、様」
「……ジャスミン、愛し……」

 ジョージの腕の力が徐々に無くなり、ついには力尽きた。

「……」
「ジャスミン……」

 アダン様が私の名前を呼び、その場で力なく倒れた。

「っ!」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

余命一ヶ月の公爵令嬢ですが、独占欲が強すぎる天才魔術師が離してくれません!?

姫 沙羅(き さら)
恋愛
旧題:呪いをかけられて婚約解消された令嬢は、運命の相手から重い愛を注がれる ある日、婚約者である王太子名義で贈られてきた首飾りをつけた公爵令嬢のアリーチェは、突然意識を失ってしまう。 実はその首飾りにつけられていた宝石は古代魔道具で、謎の呪いにかかってしまったアリーチェは、それを理由に王太子から婚約解消されてしまう。 王太子はアリーチェに贈り物などしていないと主張しているものの、アリーチェは偶然、王太子に他に恋人がいることを知る。 古代魔道具の呪いは、王家お抱えの高位魔術師でも解くことができない。 そこでアリーチェは、古代魔道具研究の第一人者で“天才”と名高いクロムに会いに行くことにするが……?(他サイト様にも掲載中です。)

だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)

春瀬湖子
恋愛
【2025.2.13書籍刊行になりました!ありがとうございます】 「婚約破棄の宣言がされるのなんて待ってられないわ!」 シエラ・ビスターは第一王子であり王太子であるアレクシス・ルーカンの婚約者候補筆頭なのだが、アレクシス殿下は男爵令嬢にコロッと落とされているようでエスコートすらされない日々。 しかもその男爵令嬢にも婚約者がいて⋯ 我慢の限界だったシエラは父である公爵の許可が出たのをキッカケに、夜会で高らかに宣言した。 「婚約破棄してください!!」 いらないのなら私が貰うわ、と勢いのまま男爵令嬢の婚約者だったバルフにプロポーズしたシエラと、訳がわからないまま拐われるように結婚したバルフは⋯? 婚約破棄されたばかりの子爵令息×欲しいものは手に入れるタイプの公爵令嬢のラブコメです。 《2022.9.6追記》 二人の初夜の後を番外編として更新致しました! 念願の初夜を迎えた二人はー⋯? 《2022.9.24追記》 バルフ視点を更新しました! 前半でその時バルフは何を考えて⋯?のお話を。 また、後半は続編のその後のお話を更新しております。 《2023.1.1》 2人のその後の連載を始めるべくキャラ紹介を追加しました(キャサリン主人公のスピンオフが別タイトルである為) こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

処理中です...