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第74話 急変
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「う……これ本当に胎動かなあ……? 何か違うような気がするんだけど……」
「どうしたオトネ? メイド達と医者を連れてこい! 念のため担架もだ!」
ツォルグさん達を乗せた馬車が見えなくなったのと同じくらいのタイミングで私はその場に座り込んでしまう。そしてアルグレートによって即座に駆けつけてくれた医者達が担架を持ってきてくれた。
胎動の時の痛みとは少し違い、お腹が張って生理痛と似ているけど更に重い痛みが襲ってきている。
「オトネ、そのままじっとしているんだ」
「わ、わかった」
私はアルグレートの魔法によりふわっと宙に浮いた。そしてそこから担架に乗せられて部屋まで移動する。
「診察を始めます。アルグレート様もこちらへ」
「わかった」
彼が大きく頷いた瞬間、何かが股の間から吐き出されたような感覚を覚える。それも微量じゃない、かなりの量だ。
「出血だ! タオルを……!」
「オトネ! 顔が真っ白になっている……! 気を確かに!」
アルグレートが大きな声を出し続けているけど、次第に視界がぼやけて白みがかっていく。
「あ……」
もしかして私、ここで死んじゃう? でもアルグレートの声がだんだんと小さくなっていってるし、視界に映るものすべてがぼやけて輪郭すらも分からなくなりつつある。
「オトネ! オトネ!!」
アルグレートが私の手を握って何度も私の名前を叫び続けている。そして視界に砂嵐のようなものが映ったのを最後に私の意識は消えたのだった。
◇ ◇ ◇
「ここは?」
真っ暗な空に淡く光るネモフィラっぽい花の花畑だけの世界が視界に映る。もしかして私本当に死んじゃった? それにおなかも妊娠前の状態に戻ってしまっている。本当にここにいるのは私だけなのかもしれない。
「うそ! って事は……ここ地獄?」
「地獄ではありませんよ!」
聞いた事のない女性の声が天から降り注いできた。あなた誰です? と瞬時に返した所、天の声だと思ってください。と返って来た。
「じゃあやっぱり私死んでますよね?!」
「あなたは死んでないです。意識が身体とは違う場所にあるだけで」
じゃあ幽体離脱的な状態になっているのか。となればひとまずは安心していいのかもしれない。
「ええと……幽体離脱的な状態となると、私は元いた身体に戻れるんですかね?」
「今、あなたの身体はそのまさに瀬戸際にいる状態です。処置がうまく行けばって感じで」
「うまく行かなければ……」
「ご臨終です」
やっぱり死は免れないじゃん! だが私からはどうする事も出来ない。まずは医者達が何とかしてくれる事を祈るだけだ。
ていうかこの声の主は一体誰なんだろう?
「遅くなりましたがあなたは一体誰なんです? 天の声と仰っていましたけど」
「むむ、やはりそこを突いてきますか。……私はアルグレートの母親です」
母親という事は私から見て姑って事か。そして私と同じく別世界から召喚されてきた人間の女性でもある。私と似た境遇の人だ。
――俺の母親は人間だった。オトネと同じように召喚された人間の娘だった。元の世界に戻りたかったかどうかは分からないが、召喚されて程なく俺を身ごもったそうだ。
――両親は俺が生まれる前、馬車で移動中に事故にあった。両親の命は助からなかったが俺は何とか母親の腹から引きずり出されて生を受けたんだ。
アルグレートがかつて私に教えてくれた事を思い返していると、私の目の前に幼い少女が現れた。白いレースのついたワンピースを着ているが、外見は人間と変わりない。人間か?
という事は……。
「君、アルグレートと仲良くしていた女の子?」
「!」
ビンゴだ。彼女は目をまん丸にさせながら口をぱくぱくさせている。まるでわかったのが信じられないという風だ。
「だよね。アルグレートが言っていた子だよね? 懇意にしていた人間の少女をオークションに売られた事があるって言っていたから……」
「……オトネさん、知ってたんだ。あ、初めまして。カリマです」
カリマは遠慮気味な笑みを浮かべながら自己紹介をしてくれた。年齢的に全体は子供っぽいけど、声はどことなく大人びている。
「こちらこそはじめまして。松原乙音って言います。オトネ呼びでいいよ」
「じゃあオトネさん。あの、結論からぶつけてみますけど私の事はどう思っていますか?」
どう思っていますか、か……。今となってはアルグレートはすっかり私を愛しているから、過去にあった傷であるという風にしか思っていない。それに私から深堀するとアルグレートが傷ついてしまうんじゃという怖さもあるし、敢えてあの話以降は触れずに蓋をしている。
腕を組んでその事をそのまま伝えるべきか否か迷っていると、天の声もといアルグレートの母親が乙音さん。と声をかけてきた。
「迷っていますか?」
まさしく図星だったため、私は肩をびくつかせる。でもこれ以上隠しようがないのではい。と素直に返事をした。
「そのまま仰っていただいて大丈夫ですよ。あなた達の事は私もカリマもよく見ていますから」
「えっ……じゃあ、じゃあ初夜の事もご存じなんです……?」
「私はね。カリマは知りません。そこはご安心を」
さすがにあんなもの子供のカリマには見せられない。ほっと息を吐いたのと同時に姑であるアルグレートの母親にはあれこれ全部見られていた事への羞恥心が沸き上がって来た。
「アルグレートには言いたい事が山ほどありますが今は胸の中にしまっておきます。乙音さん、どうぞカリマへの質問に答えちゃってください」
「……」
「どうしたオトネ? メイド達と医者を連れてこい! 念のため担架もだ!」
ツォルグさん達を乗せた馬車が見えなくなったのと同じくらいのタイミングで私はその場に座り込んでしまう。そしてアルグレートによって即座に駆けつけてくれた医者達が担架を持ってきてくれた。
胎動の時の痛みとは少し違い、お腹が張って生理痛と似ているけど更に重い痛みが襲ってきている。
「オトネ、そのままじっとしているんだ」
「わ、わかった」
私はアルグレートの魔法によりふわっと宙に浮いた。そしてそこから担架に乗せられて部屋まで移動する。
「診察を始めます。アルグレート様もこちらへ」
「わかった」
彼が大きく頷いた瞬間、何かが股の間から吐き出されたような感覚を覚える。それも微量じゃない、かなりの量だ。
「出血だ! タオルを……!」
「オトネ! 顔が真っ白になっている……! 気を確かに!」
アルグレートが大きな声を出し続けているけど、次第に視界がぼやけて白みがかっていく。
「あ……」
もしかして私、ここで死んじゃう? でもアルグレートの声がだんだんと小さくなっていってるし、視界に映るものすべてがぼやけて輪郭すらも分からなくなりつつある。
「オトネ! オトネ!!」
アルグレートが私の手を握って何度も私の名前を叫び続けている。そして視界に砂嵐のようなものが映ったのを最後に私の意識は消えたのだった。
◇ ◇ ◇
「ここは?」
真っ暗な空に淡く光るネモフィラっぽい花の花畑だけの世界が視界に映る。もしかして私本当に死んじゃった? それにおなかも妊娠前の状態に戻ってしまっている。本当にここにいるのは私だけなのかもしれない。
「うそ! って事は……ここ地獄?」
「地獄ではありませんよ!」
聞いた事のない女性の声が天から降り注いできた。あなた誰です? と瞬時に返した所、天の声だと思ってください。と返って来た。
「じゃあやっぱり私死んでますよね?!」
「あなたは死んでないです。意識が身体とは違う場所にあるだけで」
じゃあ幽体離脱的な状態になっているのか。となればひとまずは安心していいのかもしれない。
「ええと……幽体離脱的な状態となると、私は元いた身体に戻れるんですかね?」
「今、あなたの身体はそのまさに瀬戸際にいる状態です。処置がうまく行けばって感じで」
「うまく行かなければ……」
「ご臨終です」
やっぱり死は免れないじゃん! だが私からはどうする事も出来ない。まずは医者達が何とかしてくれる事を祈るだけだ。
ていうかこの声の主は一体誰なんだろう?
「遅くなりましたがあなたは一体誰なんです? 天の声と仰っていましたけど」
「むむ、やはりそこを突いてきますか。……私はアルグレートの母親です」
母親という事は私から見て姑って事か。そして私と同じく別世界から召喚されてきた人間の女性でもある。私と似た境遇の人だ。
――俺の母親は人間だった。オトネと同じように召喚された人間の娘だった。元の世界に戻りたかったかどうかは分からないが、召喚されて程なく俺を身ごもったそうだ。
――両親は俺が生まれる前、馬車で移動中に事故にあった。両親の命は助からなかったが俺は何とか母親の腹から引きずり出されて生を受けたんだ。
アルグレートがかつて私に教えてくれた事を思い返していると、私の目の前に幼い少女が現れた。白いレースのついたワンピースを着ているが、外見は人間と変わりない。人間か?
という事は……。
「君、アルグレートと仲良くしていた女の子?」
「!」
ビンゴだ。彼女は目をまん丸にさせながら口をぱくぱくさせている。まるでわかったのが信じられないという風だ。
「だよね。アルグレートが言っていた子だよね? 懇意にしていた人間の少女をオークションに売られた事があるって言っていたから……」
「……オトネさん、知ってたんだ。あ、初めまして。カリマです」
カリマは遠慮気味な笑みを浮かべながら自己紹介をしてくれた。年齢的に全体は子供っぽいけど、声はどことなく大人びている。
「こちらこそはじめまして。松原乙音って言います。オトネ呼びでいいよ」
「じゃあオトネさん。あの、結論からぶつけてみますけど私の事はどう思っていますか?」
どう思っていますか、か……。今となってはアルグレートはすっかり私を愛しているから、過去にあった傷であるという風にしか思っていない。それに私から深堀するとアルグレートが傷ついてしまうんじゃという怖さもあるし、敢えてあの話以降は触れずに蓋をしている。
腕を組んでその事をそのまま伝えるべきか否か迷っていると、天の声もといアルグレートの母親が乙音さん。と声をかけてきた。
「迷っていますか?」
まさしく図星だったため、私は肩をびくつかせる。でもこれ以上隠しようがないのではい。と素直に返事をした。
「そのまま仰っていただいて大丈夫ですよ。あなた達の事は私もカリマもよく見ていますから」
「えっ……じゃあ、じゃあ初夜の事もご存じなんです……?」
「私はね。カリマは知りません。そこはご安心を」
さすがにあんなもの子供のカリマには見せられない。ほっと息を吐いたのと同時に姑であるアルグレートの母親にはあれこれ全部見られていた事への羞恥心が沸き上がって来た。
「アルグレートには言いたい事が山ほどありますが今は胸の中にしまっておきます。乙音さん、どうぞカリマへの質問に答えちゃってください」
「……」
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