後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第14話 治療院の抹消

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「陛下、将軍が陛下に報告したい事があると仰せでございます」
「わかった。李賢妃、すまないが俺は戻る」

 早足て去っていく浩明の背中を見送る李賢妃はぐっと両手を固く握りしめていた。

(このままではだめ。もっと……頑張らないと……)

 そんな李賢妃が自室に戻ろうとした時、ある人物と肩をぶつけてしまう。

「あっ」

 彼女は美華付きの女官だった。すぐさま申し訳ありません! と深々と頭を下げる女官に対し、李賢妃は苛立ちが募った目を見せる。

「ちゃんと前見なさいったら!」
「はっはい! 申し訳ございません!」
(はっ……言い過ぎてしまった)
「言い過ぎたわね。ごめんなさい」

 女官はおびえた表情のまま、治療院がある方角へと駆けていく。

(治療院だなんて、ばかみたい。陛下から寵愛を得るどころか、困らせるだなんて……)

 自室に戻った李賢妃は、そのまま静かに夜まで過ごしたが、彼女に夜伽の指名がかかる事は無かった。

「……今日も呼ばれなかった」

 部屋の架子床に仰向けになる李賢妃。建物の外からは治療院についての話が聞こえてくる。

「皇后様に診てもらったのよ。そしたらすぐに貧血がよくなったの!」
「そうなの? 私も診てもらおうかしら……」
「皇后様は素晴らしいお方だわ! お飾りの皇后様だなんて嘘よ」
「きっと陛下が皇后様を独り占めしたい嘘に決まっているわ」

 美華がお飾りの皇后なのは、美華を独り占めしたい浩明の嘘……。それを聞いた李賢妃の胸中では嵐が巻き起こる。

(……やはり、そうかもしれない。お飾りだと馬鹿にしていた私が愚かなんじゃないの?)
「……皆さん。ちょっとついてきて」

 李賢妃は寝間着姿のまま、女官達を引き連れて外へ出た。日が落ちて真っ暗闇に染まる後宮には、不気味な気配が立ち込めている。

「李賢妃様。いずこへ行かれるのでございますか?」
「……到着するまで内緒よ」

 そんな彼女が足を止めた先にあったのは、治療院だった。

「……扉を壊しなさい」
「は、はい?」
「壊しなさいったら……! それかその灯りで燃やしてしまいなさい!」

 いつもの天女の如き微笑みが消えて焦りの色にまみれた顔をした李賢妃が考えたのは、治療院の抹消だった。
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