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20.帝都から騎士と司祭がやってきた
しおりを挟む3日目5
俺達の世界は、帝国よって統一されている。
帝国は、この広大な世界を効率よく支配統治するため、主要な街に転移陣と呼ばれる施設を設置している。
この施設は目的地にも転移陣が設置されている場合に限って、そこが例え世界の裏側であっても、使用者を一瞬で転移させてくれる便利な代物だ。
転移陣は、一応、一般庶民にもその使用は解放されてはいるが、実際は王侯貴族御用達の設備だ。
何しろ、一般人が使用するには、近くの街でも100万ゴールドは下らない高い使用料を払う必要がある。
そんなわけで、当然ながら俺達冒険者が気軽に利用できる施設では無い。
転移陣の上に出現したのは、5名の人物と同数の馬5頭であった。
5名中3名は規格化された感じの銀色に輝く甲冑を身に付けており、残りの2名は、いかにも仕立ての良い感じのゆったりとしたローブのような衣服を身に纏っていた。
甲冑を着込んだ人物の一人は、どうやら女性のようであった。
長い金髪をポニーテールに結って背中に垂らしている。
トムソンが、数名の冒険者達と一緒に彼等に駆け寄り、頭を下げるのが見えた。
それに対して、あのポニーテールの女性が言葉を返している。
どうやらあの集団が、トムソンの話していた“お偉いさん”らしいな。
トムソンが直々に出迎えているって事は、冒険者ギルド関係の誰かだろうけれど……
そう思って眺めていると、彼等はトムソンの案内で、俺達が今来た道、つまり、冒険者ギルドの方へ移動を開始した。
それを見送りつつ、俺はナナと一緒に“予定通り”彼等とは逆方向、つまり、『封魔の大穴』に対して反時計回りに、再び周回道路を歩き始めた。
ちょうど1時間ほどかけて周回道路を一周した俺達は、冒険者ギルドまで帰って来ていた。
そろそろバーバラとの約束の時間だ。
ナナについて説明して、換金を済ませないと。
ギルド1階の大広間は、1時間前よりもさらに多くの冒険者達で混雑していた。
奥に並ぶ4つのカウンター全てに長蛇の列が出来ている。
ちなみに、カウンターで受付を行っているギルドの職員達の中に、バーバラの姿は無い。
バーバラはどこだ?
キョロキョロしていると、誰かに肩を叩かれた。
「バーバラ?」
振り返ると、笑顔のバーバラが私服で立っていた。
「あれ? 仕事はもう上がりか?」
俺の言葉に、バーバラが周囲に視線を向けながら顔を寄せて囁いてきた。
「あんたが大事な話があるっていうから、早退してあげたのよ」
「早退?」
何も早退してもらわなくっても良かったんだけど。
「そうよ。で、どこで話しましょうか? って、ナナちゃんも一緒なの?」
バーバラがやや驚いたような顔になった。
まあ確かにナナは時々存在感が薄くなるけれど。
「そりゃだって、俺とナナはパーティー組んでんだから一緒だろうさ」
「あんたまさか、ナナちゃん同席させるつもり?」
「同席って何の話だ?」
「だからあんたの大事な話」
「まあそうだけど……何か問題が?」
「問題は……無いけど。ま、あんたがそれでいいいのなら、私もいいわよ?」
なんか妙に会話がちぐはぐな気がしないでも無いけれど、とにかく話をさっさと済ませたかった俺は、バーバラを大広間の隅に連れて行った。
ここなら他の冒険者達に、俺達の話を聞かれずに済むはず。
「それでだな……」
「え? ちょっと待って!」
「なんだよ?」
「ここで……?」
「なんだよさっきから」
「いや、どこかお店に場所を移すのかと思っていたから」
「お店? なんで?」
バーバラは、俺の顔を少し驚いたような顔で見た後、ふうっと溜息をついた。
「まあ、あんたにそんな事期待した私が馬鹿だったわね」
なんか随分な言われようだ。
俺はただ単に、ナナの強さをバーバラにだけ説明して、リュックサックの中の魔石を換金したいだけなんだけど。
「じゃあ聞いてあげるから話しなさい」
バーバラに促される形で、俺は切り出した。
「実はナナの事なんだけどな」
「ナナちゃん?」
バーバラが意外そうな顔になった。
「ああ」
俺は周囲に視線をやって、俺達の話を誰も聞いていなさそうなのを確認してから言葉を続けた。
「ナナ、凄く強いんだ」
「強い?」
「39層程度のモンスターなら瞬殺出来る位には強い」
嘘は言っていない。
「それが……どうかしたの?」
バーバラが何か拍子抜けしたような顔になった。
「どうもしないけど、まあ、俺にとっては嬉しい誤算と言うか」
「まさかそれだけ……じゃ無いわよね?」
「ああ、それでこの事は、他の誰にも内緒にしておいて欲しいんだ」
「別にナナちゃんが実は強かった~なんて言いふらしたりしないわよ」
「助かる」
「それで?」
なぜかバーバラが次の話を催促してきた。
俺としても話は早い方が助かるけれど。
「ここからが本題だ」
「やっとなのね」
バーバラがなぜか居住まいを正した。
「あんたの真剣な気持ち、受け止める用意は出来ているわ」
なんか今日のバーバラはいちいち大袈裟だな。
違和感を抱きつつ、俺は本題を切り出した。
「今俺のリュックサックの中には、39層で手に入れてきた魔石97個が入っている。これを換金してくれ」
「……」
「……?」
「カースの馬鹿ぁ!」
「あ、ちょっ......」
呼び止める間も無く、バーバラはどこかへと駆け去って行ってしまった。
なんなんだ一体?
仕方ない。
まあまだ3万ゴールド弱は手持ちのお金あるし、ゴンザレスの好意のお陰で、この先一週間程は、野垂れ死にする心配も無い。
魔石の換金、明日また出直してこよう。
俺は俺達のやりとりを関心薄そうにぼーっと眺めていたナナを促して、ギルドを後にした。
街が茜色に染まる中、宿屋『無法者の止まり木』に戻って来た俺達は、1階の酒場で夕食を食べる事にした。
席に着くと、宿の主人、ゴンザレスが近付いてきた。
「カース、結局“仲裁”、どうなったんだ?」
そうか、ゴンザレスは俺と【黄金の椋鳥】の連中との“仲裁”が延期になった事を知らないんだっけ?
俺はゴンザレスに朝の顛末について説明した。
「そうか……まあでも、お前ら4年も一緒にやって来たんだ。早く仲直りしろよ」
「おやじ、それは無茶な注文ってやつだぜ?」
もし万一、あいつらが本当に仲直りを望んだとしても、一度殺そうとしてきた相手を許せる程、俺も人間出来てはいない。
「まあそれより腹減っているんだ。夕食、頼むよ」
「あいよ」
ゴンザレスが去り、しばらくして料理が運ばれてきた。
ナナと一緒に獣肉の煮込み料理を口にしていると、隣の席に座る冒険者達の話し声が耳に入ってきた。
「おい、聞いたか、帝都から騎士様と司祭様が来ているらしいぜ」
「アレだろ? 例の謎の大爆発」
「なんでも、トムソン自ら出張ったけれど結局今の所、原因不明らしいぞ」
彼等の言葉に、自然表情が強張ってくる。
つまり、結局トムソンが調べても原因不明だったから、帝都から騎士やら司祭やらが調査しに乗り込んで来たって事か?
先程転移陣を使ってダレスの街に到着した5人の人物の姿が、俺の脳裏を過った。
やばい、やばい、やばい。
万一、俺が関与しているってバレたら、帝都に連れて行かれて、あんな事やこんな事に……
数時間前にも感じた“憂慮”がより現実味を帯びてきている感覚に、俺は思わず怖気を震った。
帝都から来た連中が帰るまでは大人しくしておこう。
そうだ。
明日からはしばらく屋外のクエスト、それもロイヒ村とは反対方向に向かうクエストを、バーバラに見繕ってもらおう。
食事を終えた俺は、今夜は早目に床に就く事にした。
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