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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第二話「液晶に映るハレスガタ」⑶
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中林は花柄の、赤とピンクの生地を組み合わせた振袖を着ていた。昼間に真冬に答えたものと同じ振袖だ。草履の鼻緒も赤とピンクの紐を編んで作ってある。
同じ赤でも双子が着ていた子供用の振袖とは違い、一人前になった大人の女性の風格を感じた。
「……他人の空似、よね?」
由良は自分が見たものを信じられず、別のチャンネルに変える。別の地域で行われた成人式の映像が流れていた。
「さすがに二度はないでしょ」
ホッとしたのも束の間、またも振袖を着た中林が画面に映った。他の成人と一緒に席につき、神妙な顔で市長の話を聞いている。
「またか!」
たまらず、チャンネルを変えた。しかしどのチャンネルもちょうど深夜のニュースをやっている時間帯で、今日の成人式について大きく取り上げていた。
中には中林が紛れようのない、過去の成人式の映像や芸能人の成人が神社で参拝する様子も紹介されていたが、そこにもちゃっかり映り込んでいた。
「……あの子、全然スッキリしてないじゃない。本当に来年は大丈夫なのか?」
由良は中林の身を案じ、深くため息をついた。映像の中の彼女は終始、笑顔だった。
テレビに映り込んだ中林は全て、〈探し人〉なのだろう。別れ際では気丈に振る舞っていたが、映像を見る限り、完全に未練を断ち切れてはいなかったらしい。
その証拠に、本物の中林は成人式が行われていた時間中、LAMPにいた。式が終わった後なら休憩時間の合間に紛れ込めなくもないが、どの会場も休憩時間内に往復できる距離ではなかった。
「こうして〈探し人〉が成人式に参加してるわけだし、〈心の落とし物〉は回収されていると信じたいけど……」
由良は念のため、中林に電話をかけた。
しばらくコール音が鳴った後、中林は「はい」と応答した。泣いていたのか、涙声だった。
「私だけど、今いい?」
「構いませんけど、こんな夜更けにどうかしたんですか? 夕飯に豚汁を大量に作って、余らせちゃったんですか?」
「惜しい。今日の夕飯はお店で作ったミネストローネの余り。スパゲッティ入れて、スープパスタにしようと思ってさ」
「めっちゃ美味しそうじゃないですか。今度、まかないで作って下さいよ」
軽口も、いつもより覇気がない。
〈探し人〉が持ち帰った〈心の落とし物〉に対して、何か思うところがあるのかもしれない。
「何かあった?」
由良はテレビで見た映像のことは伏せ、尋ねた。
「夢を見たんです。私が振袖を着て、出られなかった成人式に出る夢なんですけど……目が覚めたら現実に戻ってて、悲しくなっちゃいました。あのままずっと、夢を見ていられたら良かったのに」
「……それは辛かったわね」
どうやら中林の〈探し人〉が〈心の落とし物〉を持ち帰ってしまったのは、逆効果だったらしい。一度は立ち直りかけた中林の心は、再び暗く閉ざされようとしていた。
そこで由良はふと、思いついたことを提案してみた。
「ねぇ、中林さん。今からでも振袖を着て写真を撮ってみない?」
「うぇぇ?!」
思いがけない提案に、中林は素っ頓狂な声を上げる。
「ほ、本気で言ってます? 私、今年で二十三ですよ?」
「四捨五入すれば二十歳でしょ? 結婚したら着られなくなるし、二十歳以上になった記念ってことでさ」
「そんな無茶苦茶な」
中林は呆れながらも、笑って言った。
「でも……いいかもしれませんね。最近一人で撮った写真は持っていないので。一番近いものだと、LAMPの履歴書に貼った証明写真の余りくらいですし。今度、母と行ってきますよ」
同じ赤でも双子が着ていた子供用の振袖とは違い、一人前になった大人の女性の風格を感じた。
「……他人の空似、よね?」
由良は自分が見たものを信じられず、別のチャンネルに変える。別の地域で行われた成人式の映像が流れていた。
「さすがに二度はないでしょ」
ホッとしたのも束の間、またも振袖を着た中林が画面に映った。他の成人と一緒に席につき、神妙な顔で市長の話を聞いている。
「またか!」
たまらず、チャンネルを変えた。しかしどのチャンネルもちょうど深夜のニュースをやっている時間帯で、今日の成人式について大きく取り上げていた。
中には中林が紛れようのない、過去の成人式の映像や芸能人の成人が神社で参拝する様子も紹介されていたが、そこにもちゃっかり映り込んでいた。
「……あの子、全然スッキリしてないじゃない。本当に来年は大丈夫なのか?」
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テレビに映り込んだ中林は全て、〈探し人〉なのだろう。別れ際では気丈に振る舞っていたが、映像を見る限り、完全に未練を断ち切れてはいなかったらしい。
その証拠に、本物の中林は成人式が行われていた時間中、LAMPにいた。式が終わった後なら休憩時間の合間に紛れ込めなくもないが、どの会場も休憩時間内に往復できる距離ではなかった。
「こうして〈探し人〉が成人式に参加してるわけだし、〈心の落とし物〉は回収されていると信じたいけど……」
由良は念のため、中林に電話をかけた。
しばらくコール音が鳴った後、中林は「はい」と応答した。泣いていたのか、涙声だった。
「私だけど、今いい?」
「構いませんけど、こんな夜更けにどうかしたんですか? 夕飯に豚汁を大量に作って、余らせちゃったんですか?」
「惜しい。今日の夕飯はお店で作ったミネストローネの余り。スパゲッティ入れて、スープパスタにしようと思ってさ」
「めっちゃ美味しそうじゃないですか。今度、まかないで作って下さいよ」
軽口も、いつもより覇気がない。
〈探し人〉が持ち帰った〈心の落とし物〉に対して、何か思うところがあるのかもしれない。
「何かあった?」
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「夢を見たんです。私が振袖を着て、出られなかった成人式に出る夢なんですけど……目が覚めたら現実に戻ってて、悲しくなっちゃいました。あのままずっと、夢を見ていられたら良かったのに」
「……それは辛かったわね」
どうやら中林の〈探し人〉が〈心の落とし物〉を持ち帰ってしまったのは、逆効果だったらしい。一度は立ち直りかけた中林の心は、再び暗く閉ざされようとしていた。
そこで由良はふと、思いついたことを提案してみた。
「ねぇ、中林さん。今からでも振袖を着て写真を撮ってみない?」
「うぇぇ?!」
思いがけない提案に、中林は素っ頓狂な声を上げる。
「ほ、本気で言ってます? 私、今年で二十三ですよ?」
「四捨五入すれば二十歳でしょ? 結婚したら着られなくなるし、二十歳以上になった記念ってことでさ」
「そんな無茶苦茶な」
中林は呆れながらも、笑って言った。
「でも……いいかもしれませんね。最近一人で撮った写真は持っていないので。一番近いものだと、LAMPの履歴書に貼った証明写真の余りくらいですし。今度、母と行ってきますよ」
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