悪夢症候群

緋色刹那

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悪夢曇天色 第三話『続・足蹴舞踏会』

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「そんなひどいこと、したくない!」
 野々原は即座に言い切った。
「何で?」
「どうして?」
 夢花も歩夢も野々原を理解できず、不思議そうに首を傾げる。
「……おばあちゃんに言われたの。他人を憎むくらいなら、自分を憎めって。いっときの感情で相手を傷つけたら、絶対に後悔するって。だから私、何があっても自分のせいだって思うようにしているの」
「どんなに自分に非がなくても?」
「うん」
「大事な人を殺されても?」
「うん」
「死んで詫びろって言われたら死ねる?」
「……うん。頑張る」
 野々原は最後の質問以外、即答した。さすがに自ら命を捨てるのは躊躇があるようだったが、それでも頷いた。
 何を言っても野々原の心は動かせないと分かると、夢花は真顔で命じた。
「だったら死んでくれる? 私、野々原ちゃんみたいな偽善者って大嫌いなの。私をむかつかせたんだから、死んで詫びて当然よね?」
「ッ!」
 野々原はショックを受けた様子だったが、すぐに暗い顔で頷いた。
「分かった。そうする」
 次の瞬間、野々原が立っていた床が崩落した。
 野々原は静かに落下し、地下牢の石畳へと体を打ちつける。当たりどころが悪かったのか、即死だった。
「チューッ!」
「チュウゥーッ!」
 地下牢には無数のネズミ達が住み着いていた。牢の中で死んだ囚人の肉をむさぼり、骨を噛み砕いている。
 ネズミ達は天から降ってきた思わぬ贈り物に歓喜し、我先にと野々原の体へ群がった。
「……あんな状態でも、どうせ生きてるんだろうなぁ。今までもそうだったし」
 夢花は穴を覗き込み、ため息をつく。
 野々原は幾度となく夢の中で死んだ。が、現実ではケロッとしていた。もしかしたら、本気で自分を傷つけたいとは思っていないのかもしれない。
「友達になれると思ったのに。残念」
 夢花は野々原を見限り、歩夢と共に夢から去っていった。

 翌日、野々原を無視した三人のクラスメイトが登校中にそれぞれ事故に遭い、負傷した。夢の中でシャンデリアに圧迫されて死んだ二人はトラックと壁の間に挟まれ、圧迫骨折。燃えて黒焦げになったエマはガソリンスタンドの爆発事故に巻き込まれ、全身を大火傷した。
 さらに、三人は野々原が見た夢と同じ夢を見ていた。そのせいでエマに彼氏を奪われた二人は彼女と絶交し、ひと言も口を利かなくなった。
 当のエマは、
「私には彼氏が三人もいるから平気だわ」
 と友人に嫌われても平然としていたが、火傷の後遺症で顔が醜く膨れ上がったことで、三人の彼氏も一斉に離れていった。
 悪夢を見たクラスメイト達に影響が広がる中、野々原だけは全くの無傷だった。そのことが余計に夢花を苛立たせた。その後、二人が現実でまともに会話をする機会は一度もなかった。
「このモデルさん、カッコいいなぁ。私もこんなふうになりたいな」
 野々原はクラスに馴染むのを諦め、一人でファッション雑誌を読んでいた。「自分を変えたい」というもう一つの願望は、まだ諦めていなかった。
 雑誌のモデル達はオシャレな服を着こなし、堂々とポーズを取っている。ひときわ野々原の目を引いたのは、表紙を飾っている美女だった。
 美女は真っ赤なドレスをまとい、何もない白い背景をバックに立っていた。

悪夢曇天色 第三話『続・足蹴舞踏会』終わり
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