悪夢症候群

緋色刹那

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第1部 第1章「白昼悪夢」

第5話『兄』⑶

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 兄は再度、イツキが高校に合格した時の映像を画面に映した。
 イツキの担任が言っていた通り、校舎の壁に掲示された合格者の一覧には『◯◯年度××高等学校合格者』と、県内ワースト一位で偏差値で有名な高校の名前が刻まれていた。
「おかしい……俺は県内で一番の高校に入ったはずなのに!」
 イツキは混乱し、激しく頭をかきむしる。
 信じたくはなかったが、高校に入ってからの記憶を思い返すと、校門や校歌など随所にその高校の名前が入っていた。自分が着ている制服も、いつのまにか県内ワースト一位の高校のものに変わっている。胸ポケットに入れていた学生証にも、ちゃんとその高校の名前が刻まれていた。
「お前は一番は一番でも、一番な高校に入ったんだよ」
 兄はイツキを冷たく見上げ、淡々と返す。
 それでもイツキは現実を認めようとはしなかった。
「勉強も部活も俺が一番だったんだ!」
「まともにやってるのがお前しかいなかったからだ」
「みんなオレに一目置いてた!」
「まわりが不良ばかりだったから、目立っていたんだよ」
 立て続けに指摘され、イツキは怒りで頭が沸騰しそうになる。今までの上機嫌が嘘のようだった。
「偉そうに言うな! 高校すらまともに行ってないヤツが、オレのことを馬鹿にしてんじゃねぇ!」
 かつてのように、兄を罵倒する。
 しかし兄は黙るどころか薄く笑みを浮かべ、イツキを嘲笑った。
「残念。僕はとっくの前に通信制の高校を卒業しているんだよ。今はトー大の通信制に在籍していてね、毎日パソコンで授業を受けているんだ。まぁ、お前は自分のことしか興味がないから、知らなくて当然だよな」
「なんだって……?」
 イツキは愕然とした。越えたと思っていた兄に、知らぬ間に先を越されていたとは。
 ようやく全ての現実を知り、イツキは呆然と立ち尽くした。
「俺はこの先、どうすればいいんだ? 今の高校じゃ、トー大もスポーツ推薦も無理だ。今からでも他の高校に転校するしか……」
「どの高校も受からない成績だったから、今の高校に進学したんだろう? 転校なんて、もっと不可能だ。だから、そんな叶わない夢よりもお前にぴったりの進路を書いてやったよ」
 そう言って兄は一枚の紙を見せた。イツキが担任に「もう一度よく考えてみるように」と渡された、新しい進路希望調査書だ。
 もらった時は白紙だったが、兄の手によって第一希望の欄に「蚊」と書かれていた。
「蚊は人間の周りを五月蝿うるさく飛ぶくせに、人間から血を奪わなければ子孫を残すことすら出来ない。口ばかりで何の努力もしないお前には、似合いの進路だとは思わないか?」
「……っ!」
 イツキは兄に言い返そうとした。が、声が出なかった。あったはずの口が、。舌も、のどもない。
 変化はそれだけに留まらなかった。体が異常に縮み、手足は糸のように細くなっている。倒れてもいないのに、フローリングの床が目の前に広がっていた。
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