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第三話「成宮の恋の予感(暴露)」
4,恩田
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「恩田……?」
成宮にはその名前に聞き覚えがあった。というか、つい数分前に二人の人間から聞いていた。
彼が着ているジャージは成宮が通っている高校のものであり、彼が本加納と丘野が話していた「恩田」であることは間違いなかった。
「恩田って、陸上部の?」
「えっ、僕のこと知ってるの?」
「同じ学校だからな」
成宮は恩田を知った経緯は伏せ、頷いた。
恩田も成宮が自分と同じ学校の体操着を着ていると気づき「あ、ホントだ」と笑った。
「ってことは、君もマラソン大会の練習?」
「マラソン大会?」
「ほら、毎年ゴールデンウィーク明けにやるだろう? あれだよ」
成宮は恩田に言われ「あー」と手を打った。
成宮達の高校では毎年ゴールデンウィーク明けに町内を走るマラソン大会が行われる。
ゴールデンウィークでゆるみ切った生徒を引き締めるのが目的であり、ゴールデンウィークの余韻を楽しみたい多くの生徒からは「いらない行事ベスト3に入る行事」「ダルい」「サボりたい」と不評で、毎年この時間だけ行方不明になる生徒が続出している。成宮達美術部も去年のマラソン大会はサボり、美術室でオセロ囲碁を興じていた。
ただ、一部の運動部ではマラソン大会の成績がレギュラー争いに大きく関わっているらしく、彼らだけはこの時期になると血走った目をしていた。とりわけ陸上部はマラソン大会の順位が一定の順位以下だと退部にさせられてしまうという厳しい罰則があり、皆自主練習に励んでいた。
「いや、これは別件で着させられただけだ。コンビニに昼飯を買いに行くとこだったんだよ。あのまま取り返せなかったら、危うく買えなくなるところだった」
「そ、それは災難だったね」
「あぁ。取り返してくれてありがとな。俺の足じゃ、絶対に追いつけなかっただろうから」
すると恩田は「あのドロボウ、すっごく速かったよね!」と目を輝かせた。
「フォームもきれいだったし、絶対陸上をやってた人だよ! あんなに速いのに、何でドロボウなんてしたんだろう? もったいないなー」
相手が犯罪者であるにもかかわらず、恩田は素直に褒めた。
その様子を見て、成宮は「こいつは本当に陸上が好きなんだな」と感じた。さすが、陸上部のエースをしているだけあった。
「せっかく取り返してもらったし、昼飯奢るよ」
成宮は財布の中身が無事なのを確認してから、恩田に言った。
「いいの?」
「つっても、あんまし持ち合わせはないけどな」
「だったら、冷たいお茶が欲しいかな。ちょうど飲みたかったんだよね」
その時、ドロボウが連行されていったコンビニの前に二台のパトカーが止まった。それぞれ二人ずつ警察官が降り、コンビニの中へと入っていく。
やがて先程成宮から財布を奪ったドロボウが二人の警察官に連れられ、パトカーに乗せられ走り去っていった。
続いて店からコンビニの店員と警察官が出てきて、成宮と恩田のもとへ歩いてきた。
「君達がさっき、ドロボウを捕まえた子達だね? ちょっと事情を聞かせてくれるかな」
「あ、はい」
「もちろん」
成宮と恩田は先程あったことを警察官に話した。
例のドロボウは以前からこの界隈で盗みを働いていたらしく、ドロボウを連れて行った店員が働いているコンビニでも万引きやスリなどの犯罪を繰り返していたらしい。
事情を話し、コンビニで買い物を終えた頃には、公園を出てから二時間ほど経っていた。
「そろそろ戻らないと、まずいな」
「僕も、友達と走る約束があるから急がないと」
「え、まだ走るのか?」
「当然!」
恩田は「お茶だけだと悪いから」と成宮に言われて追加で購入してもらった焼きそばパンを口へ押し込むと「じゃあまた!」と、焼きそばパンで頬を膨らませたまま、軽快に走り去っていった。靴音がテンポ良く鳴り響き、彼の姿と共に遠ざかっていく。
そのフォームは素人目にも美しく、成宮は思わず見入った。彼の後ろ姿を見ているうちに、「この光景を絵にしたらどうなるだろうか?」と無意識のうちに想像した。
「背景は最低限でいい。いっそ、線だけで描くか? 塗りも淡く、水彩画風にして……」
しかし絵の完成形が見えてきたところで、成宮を冷たく見下ろす「目」が脳裏に浮かんだ。「目」は増殖し、成宮を軽蔑する。
実際にそのように見られているわけではなかったが、成宮は絵を想像するのをやめた。
「……戻るか」
成宮はメンバーから頼まれた大量の食料が入ったビニール袋を両手に持ち、恩田が進んで行った方向とは逆に歩いていった。
成宮にはその名前に聞き覚えがあった。というか、つい数分前に二人の人間から聞いていた。
彼が着ているジャージは成宮が通っている高校のものであり、彼が本加納と丘野が話していた「恩田」であることは間違いなかった。
「恩田って、陸上部の?」
「えっ、僕のこと知ってるの?」
「同じ学校だからな」
成宮は恩田を知った経緯は伏せ、頷いた。
恩田も成宮が自分と同じ学校の体操着を着ていると気づき「あ、ホントだ」と笑った。
「ってことは、君もマラソン大会の練習?」
「マラソン大会?」
「ほら、毎年ゴールデンウィーク明けにやるだろう? あれだよ」
成宮は恩田に言われ「あー」と手を打った。
成宮達の高校では毎年ゴールデンウィーク明けに町内を走るマラソン大会が行われる。
ゴールデンウィークでゆるみ切った生徒を引き締めるのが目的であり、ゴールデンウィークの余韻を楽しみたい多くの生徒からは「いらない行事ベスト3に入る行事」「ダルい」「サボりたい」と不評で、毎年この時間だけ行方不明になる生徒が続出している。成宮達美術部も去年のマラソン大会はサボり、美術室でオセロ囲碁を興じていた。
ただ、一部の運動部ではマラソン大会の成績がレギュラー争いに大きく関わっているらしく、彼らだけはこの時期になると血走った目をしていた。とりわけ陸上部はマラソン大会の順位が一定の順位以下だと退部にさせられてしまうという厳しい罰則があり、皆自主練習に励んでいた。
「いや、これは別件で着させられただけだ。コンビニに昼飯を買いに行くとこだったんだよ。あのまま取り返せなかったら、危うく買えなくなるところだった」
「そ、それは災難だったね」
「あぁ。取り返してくれてありがとな。俺の足じゃ、絶対に追いつけなかっただろうから」
すると恩田は「あのドロボウ、すっごく速かったよね!」と目を輝かせた。
「フォームもきれいだったし、絶対陸上をやってた人だよ! あんなに速いのに、何でドロボウなんてしたんだろう? もったいないなー」
相手が犯罪者であるにもかかわらず、恩田は素直に褒めた。
その様子を見て、成宮は「こいつは本当に陸上が好きなんだな」と感じた。さすが、陸上部のエースをしているだけあった。
「せっかく取り返してもらったし、昼飯奢るよ」
成宮は財布の中身が無事なのを確認してから、恩田に言った。
「いいの?」
「つっても、あんまし持ち合わせはないけどな」
「だったら、冷たいお茶が欲しいかな。ちょうど飲みたかったんだよね」
その時、ドロボウが連行されていったコンビニの前に二台のパトカーが止まった。それぞれ二人ずつ警察官が降り、コンビニの中へと入っていく。
やがて先程成宮から財布を奪ったドロボウが二人の警察官に連れられ、パトカーに乗せられ走り去っていった。
続いて店からコンビニの店員と警察官が出てきて、成宮と恩田のもとへ歩いてきた。
「君達がさっき、ドロボウを捕まえた子達だね? ちょっと事情を聞かせてくれるかな」
「あ、はい」
「もちろん」
成宮と恩田は先程あったことを警察官に話した。
例のドロボウは以前からこの界隈で盗みを働いていたらしく、ドロボウを連れて行った店員が働いているコンビニでも万引きやスリなどの犯罪を繰り返していたらしい。
事情を話し、コンビニで買い物を終えた頃には、公園を出てから二時間ほど経っていた。
「そろそろ戻らないと、まずいな」
「僕も、友達と走る約束があるから急がないと」
「え、まだ走るのか?」
「当然!」
恩田は「お茶だけだと悪いから」と成宮に言われて追加で購入してもらった焼きそばパンを口へ押し込むと「じゃあまた!」と、焼きそばパンで頬を膨らませたまま、軽快に走り去っていった。靴音がテンポ良く鳴り響き、彼の姿と共に遠ざかっていく。
そのフォームは素人目にも美しく、成宮は思わず見入った。彼の後ろ姿を見ているうちに、「この光景を絵にしたらどうなるだろうか?」と無意識のうちに想像した。
「背景は最低限でいい。いっそ、線だけで描くか? 塗りも淡く、水彩画風にして……」
しかし絵の完成形が見えてきたところで、成宮を冷たく見下ろす「目」が脳裏に浮かんだ。「目」は増殖し、成宮を軽蔑する。
実際にそのように見られているわけではなかったが、成宮は絵を想像するのをやめた。
「……戻るか」
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